2017年・九州~関東 巨樹旅2

〇4日目

 元気! 季節外れの熱帯夜のせいで窓を少し開けたままにせざるを得なかったのですが、害虫の侵入もヤンキーの襲撃も何もなく、体も辛くはなく。
 車内を片付け、パンと牛乳等で朝ごはん、顔を洗い、朝6時に行動開始です。

 車中泊の夜は長い……ローエネルギーを強いられるので、できることが限られ、日中の濃密な活動のせいで早く眠くもなります。
 夜更かしな現代人にとっては貴重な体験ができる場なのではなかろうか。
 キャンプ? キャンプはめんどくさいから……。

 

 まだ明けきらない街を少し流し、またもやでかいクスに会いに行きました。
 実は、前日結構グタグタになりながらも、このクスに即アプローチできるように距離を詰めておいたのです。
 以後、日暮れに次の日のために走っておくというのがお決まりのパターンになります。

「鈍土羅の楠」
「南馬場の大楠」

 古代ロマンがその名からも感じられる「鈍土羅の楠」、偶然の縁で見に行けた「南馬場の大楠」
 どちらもがっちりした逞しい大クスでした。

 この日の進行ノルマとしては、とにかく「本州に上陸」がキーワード。福岡市方面へ進路をとります。
 九州自動車道一発で福岡市、さらには門司へと戻ることもできるのですが、それでは面白くない。
 旅が始まってからクスしか見ていませんが、ここでさらに、たった一本で「森」と呼ばれる巨大クスがあるという宇美八幡宮を訪ねることにしました。
 福岡県といえば太宰府天満宮にも大楠があって、世間様的にはそちらの方が有名でしょうが、今回はパス。その手前で高速を降りる形です。

 宇美八幡宮。
 数十本もの大柄なクスに囲まれ、ポジティヴな気を充満させている、とても素晴らしい神社でした。
 なんと言っても子安安産全力投球の神社。赤ちゃん連れのご家族が多いからか、境内には絶えず童謡が流れていたり、川柳などが掲げられていたりして……

 こういうのを門に飾っちゃうような愛嬌もあります。笑
 子宝を望む人、お礼参りに訪れる人、ニコニコとても嬉しそうで、境内に居るだけで元気になれるパワースポットです。

「湯蓋の森」
「衣掛の森」

 何より、目的の「湯蓋の森」「衣掛の森」の二巨樹の物凄さ。
 驚愕するほど大きいのに、威圧的ではなく、樹冠の下に訪れる人全員を抱えてくれそうな大らかさです。
 九州おそるべし。とにかくこの地では「巨樹」と書いて(くすのき)と読むかのようです。

 そんなこんな、もう今日は巨樹(くすのき)はお腹いっぱい、波佐見が空振りだったこともあるしと、博多を目指したものの……
 大都会はご存知の通り、我々のような旅する自動車には冷たく、渋滞に打ちのめされて頓挫。
 また脱兎のごとくアクセルを踏んで関門海峡を突破し、つまりは本州に戻ってきたぞ!

 ……で、そこまででおおむね電池が切れました。

 おお、ここが有名な関門海峡、そして壇ノ浦
 ここからこっちが本州、そっちが九州。
 それはそうと、昼飯もろくに食べずに突っ走ってきたので、下関入りした途端に血糖値とか血圧とかがガクーッと下がり……その後1時間かけてモスバーガーでもくもくごはんを食べ、どういう行動原理からか、そこにあった水族館「海響館」に入ってしまう。

 全国トップテンに入るようなクスの巨樹を何本も訪ねてしまい……いいですか、クスのランキングで十指に入るということは、全ての樹種でも必ずランカーなのですよ。
 はっきり言って、これは頭脳に悪い。感覚異常、その上低血糖。

 「海響館」では、壇ノ浦の海中を模した水槽のおさかなさんたちの遊泳に、危うくリラクゼーション・タイムに陥りそうになりました。
 我らが茨城の大洗水族館は極めてサメづくしですが、「海響館」は下関の水族館だけあって、フグ、もとい「ふく」がちな水族館でした。
 ハリセンボン、ハコフグ、トラフグ、淡水性フグ……君もここへ来ればフグ博士になれる! 
 将来はもう約束されたようなもんだ。

 そうそう、昨今の水族館の人気者といえば、クラゲですよね。
 すごいのがいました。
 どでかいユウレイクラゲ。
 これは動画だ! と張り切ってみましたが、いかにも華奢な生き物なので、現在も元気なのかはわかりません。

 フグと並んで力を入れまくっていたのがペンギン。  
 ほんとか嘘か、下関市は市の鳥をペンギンにしたとか。ずるいじゃん。

 自分はといえば、ペンギン水槽を眺める薄暗いソファーでしばしぐったり……。
 カップルさん専用シートだったかもしれない。ごめん。

 その後、時間が来たのできっちりイルカさんショーを楽しみ、出てくれば、関門海峡に日が暮れるところでした。
 九州と本州の境でありつつ、関門海峡は瀬戸内海の入り口でもあります。
 ゆっくり進んでいく船の姿は、かつて臨んだ瀬戸内の雰囲気を思い出させてくれました。

 あっという間に夜。この日も暖かでしたが、やはり秋なんだなあと実感します。
 めしの心配ばかりしているかのようですが、水族館には4時間近くいたわけで……そろそろ晩ごはんにしたい腹時計。
 商店街の地元っぽいスーパーで半額になったお弁当を買い、美しい海峡の夜景を眺めながらオツだねって食うも、見惚れるあまりハンバーグのたれを白いシャツに垂らす。
 コンビニの手洗いに駆けてってそれを必死で落とす。
 ああよかった、落ちたよ……とか、結局ドタバタ。
 また次の日のいいところまで走って車中泊。

〇5日目

 毎朝目がさめると、はっ……ここは一体どこなんだ?! と当惑する。

 今日は、山口県での朝。
 そうだ……知ってる。
 車中泊からもぞもぞと目覚め、おうち(=フォレスター)を片付けたら、また走り出す。
 そう、出会うべき樹がある。またもやクス……ですけれどもね。

「川棚の楠の森」

 その名も「川棚の楠の森」
 一樹でありながら「森」と呼ばれるクスには福岡でも出会いましたが、山口県でもそう呼ぶことがあるらしい。

 早朝到着。
 この旅行が始まって実に8本連続のクスの巨樹ですが、ここへきて「面積」という新要素で驚きを与えてくれました。
 枝張りの広大さに圧倒され、どうしたらいいんだと頭を抱え抱えうろうろ回って、結局1時間あまりも撮り続けました。

 せっかく初上陸した山口県、なかなか来られないこと明らかな山口県。
 有名な秋吉台を目指すことにしました。いっぺん行ってみたかったんだよ、ここ。
 川棚から秋吉台までは、1.5時間くらいの道のり。雨模様になったこともあり、ゆったりと走っていきます。

 道中、「石柱渓」なる標識に出くわし、……
 (この後の生涯、再訪することはあるのだろうか? 旅の醍醐味とは、一期一会ではなかったのか?)
 と、サブクエストに入って、すぐ後悔しました。
 道はみるみる、できれば走りたくないような山道へと変わっていきます。

 なんか、おっかねえ。
 山鬱蒼として、午前10時だというのにオートのヘッドライトが点灯……。

 その「石柱渓」ですが……一段と山鬱蒼として怖く、変なストーンヘンジめいた道祖神? ファルス? 的なブツがあったり、朽ちたお堂に誰もいないのにろうそくだけが灯っていたり(!)……。
 早々に戻ってきました。

 気を取り直して走って……回復しない天候の中、秋吉台にやって来ました。
 カルスト地形と呼ばれるそこは、良くも悪くも、全く予想していた通りの土地。
 緑の草原が延々と続く。ポツポツと石灰岩が散らばっている。風が吹いている、いつも。そんな感じ。

 風景のスケールに驚かされ、ついつい歩いてしまうんですが、2キロも行くと、それが極めて不毛な行為だったと気がつき、ああまた戻るにも2キロ歩くんよね……と、4倍不毛に思う。
 まさに非現実的世界。
 面白い服装の人を立たせたりすると、植田正二の写真のようになるんじゃないかな。
 いや、いくら見渡しても、徒歩でうろついてるのは僕ただ一人だったんですけども。

 原っぱに日常を感じている人がこの日本にどれだけいるものかは別として、非現実感ある原っぱであるところの秋吉台の地下には、地質学的驚嘆をいっぱい詰め込んだ秋芳洞が存在しております。

 「秋芳洞」と「秋吉台」と字が異なっているのにも注目されたし。
 陛下が見に来られた時に「コッチの字であろうず」と仰られたとかどうだか、そういうことのようです。

 くらげ。きのこ。おばけ。なんか。
 これら、地球の臓物みたいなものが形作られるのに、おおむね10万年以上かかるという。

 洞窟を終点まで(数十分)行くと地上に出られます。
 出られますが、車を停めた入り口付近までまた歩いて戻るorバスに乗らなければいけない。
 そりゃそうなんだが……と、大抵の人は踵を返し、また洞窟内を歩いて戻るのでした。

 有名な名所でも、実際行ってみて感じられることはたくさんある。
 自分が今まさにそこにいる不思議、遠くまで来たんだという実感もそう。
 ……洞窟から出て来たらもう16時半を回り、雨天のせいで日暮れの暗さです。

(下関のスーパーで買ったご当地のちくわ。でかいし、ぶりぶりしていてうまい。お腹が空いたらスニッカーズより断然ちくわだね。

 その先一時間強走って、防府市に入りました。
 なんとも嬉しいことに、この日はホテルに宿泊です!
 この旅出発して初めてのまともな宿での宿泊。とてもうれしい。
 チェックイン後、何はともあれ洗濯。洗濯室すぐ近くの部屋なのもとてもうれしい。
 広々して見えるふかふかベッドに横になって、テレビなんかつけてみる。
 今日撮った写真……は、夜になったら整理するから、カメラは置いとく。
 とてもうれしい。

 洗濯が終わって、吉野家にご飯を食べに行きました。
 お腹がとにかくすいていまして、道すがらの看板に、「ガ、ガーリック教会!?」と二度見して、事故しそうになったの。
(もちろん「カトリック教会」です)

 明日は、ブログ友達と会える予定。
 地元の巨樹を紹介してくれるそうなので、サプライズを重視するため、リサーチはしないでおきます(不精なだけとの説も)。

 ワクワクしてしまって、今晩眠れるかな、やっぱり車で寝ようかな。
 ……なんて、やっぱりベッドに入った途端、意識を失ったのでした。

〇6日目

 防府市の朝は良い朝でした。
 なにせ、建物の中にいます。広いセミダブルベッドの上で迎える朝なのです。
 朝シャワーなんかも浴びてしまう。服は昨日洗って乾いたばかりだから清潔。
 菓子パンと牛乳だけど、朝ごはんもゆっくり。世界よおはよう。

 遠方に旅し、訪ねる先がある。わざわざ行かないと会えない人がいる。嬉しいことです。
 意気揚々と荷物を車に放り込み、待ち合わせ場所の防府天満宮に向かいます。

 ホーフテンマングー。
 ホテルでもらった観光パンフを熟読するまでもなく、防府市は歴史古い町です。
 駐車場わかんねえ、道狭い! ああっ、待ち合わせ時間!
 ……など、恒例行事をこなし、なんとか着地し、鳥居をくぐり、石段を登る。
 朝の清々しい空気に、歴史の深さと神宮の雅さが溶け込んで、いい雰囲気です。
 資金難とか幕末のゴタゴタで工事が進まず、変わった雰囲気の二段塔になっちゃったという「春風楼」という建物で合流。

「老松神社のクス」

 案内して頂き、太い藤にがんじがらめにされている「老松神社の楠」を見ました。
 この旅始まって以来、9本目?10本目?のクスでしたが、それでも現金なもので、目の前に巨樹が現れたら、お友達そっちのけで撮りに走る自分です。すんません。

 ちなみに、頂いたお土産の「山焼き団子」、懐かしい味がして美味しい。
 しかし問題は、「焼き」ってのにどこも焼いていないってことですね。

 夜勤明けだったという友と別れた私の前に、進行ノルマというモノが日本列島とともに横たわっている。少しは逆算に頭を働かせないといけません。
 山陽地方をぐーっと抜けて近畿に入り、奈良県をめざす。
 移動日とはいえ、流石に走破に無理ある距離(約480km)。
 どこか一泊を。宿を予約するという知恵はなくても。
 この愉快なスゴロクを、とりあえず基地で有名な岩国まで進めました。山口の一番東の端っこです。

 しかし山口県、佐賀県と比べるとガソリンだいぶ高いぞ!
 リッターあたり17円も上がり、ぞっとして、むりやり岩国までもたせて……
 ほらやっぱり、基地があるとガソリン値は下がるんだ!

 全国的に名を知られる異様にガチャガチャしたテーマパークみたいな飲食店「山賊」にも寄ってみました。 
 山賊砦をモチーフにした敷地内には、三つのお店があり、三様に食事ができます。
 お土産店や露店、出店などもあり、平日でも祭感満点、「今日もまつりだ、さんぞぉくぅぅぅ〜!」みたいなオリジナル・ソングが流れている有様。
 敷地内が広すぎて管理できないためか、注文を先に決めて前払いしてから建物に入る。
 「いろり」では、トリを焼きまくってる。うわーい。
 屋外にあるこたつに当たりながらオリジナリティ満点の昼食。楽しかったです。

 その後、もちろん美しい「錦帯橋」も見逃さない。
 向こうまで渡って、また戻ってくることになる、トンチ噺か何かみたいな橋です。

 さて、山口県はじき抜けるとして、次の目的地が決まっていません。
 さらさら雨降る川原でぼんやり考えるに、ひとつ、強引な案が浮上してきました。
 西方の写真撮りの方々の多くが撮りに行かれ、尾道と並んで自分も一度は行ってみたいと思っていた鞆の浦に寄ってはどうか?
 こういう思いつきこそが旅においては宝だと思います。
 錦帯橋時点で13時、鞆の浦まで行っても15時くらい。つまりまだ写真が撮れる!

 かくして走り、ここが有名な鞆の浦(広島県福山市)……。
 海沿いに走って駐車場にありつくまでの間に見た光景だけでも、十分ワクワクするものがありました。

 雨はさらさらと波のない静寂の瀬戸内海に注いでいる。崖の上のポ……スナップ撮りが憧れる街並み。

 ズームレンズを外し、スクリューマウントの単焦点レンズに付け替えました。
 そうしたくなる空気があります。

 思えば、長い一日でした。
 慌ただしく何か所にも立ち寄りましたが、最後にこれだけゆったりと時を味わう機会が得られ、とても幸福な気分になれました。

 旅も、ここが折り返し地点と言っていいのでしょう。
 色々なものを見て、色々なことを考える旅にしていきたいと改めて思いました。

(つづく)

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