2019年 徳島・高知 四国巨樹探訪旅2

巨樹王国・つるぎ町に潜入

 きこえますか……私は、ここにいます……。
 四国に上陸して日が改まり、いよいよメインイベント、2日に渡る巨樹探訪旅・四国(徳島・高知)編の日程がスタートしました。

 それにしても、あんなとこのおうち、どうやって行くんだろう?
 かなり山深いところにも度々踏み込んだ今回の巨樹行では、こういった険しい立地のお宅をいくつも見かけました。
 例の「ポツンと一軒家」のネタにできそうなのが、ほいほい見つかる。
 四国がある以上はあの番組はずっと放映できるでしょう。安直だな。それはともかく……とにかく……四国って、すごいところです。

 朝7時。
 昨夜の豪雨はどうしたことか、さっぱり晴れあがっています。
 嬉々として徳島県美馬市でto-fuさんRYO-JIさんと待ち合わせ。
 激スピーディにスタートできるのが車中泊の最利点であるわけですが、運悪く近くで車中泊してたおっさんに見つかってしまい……

 おじさん:「ねえ、水戸ナンバー? オレも! 北茨城!」
 こま  :「いや、僕は茨城の一番南の方なんですけどね」
 おじさん:「なんだ……ぜんぜん近くねえや」
 (編注:茨城県の海側はナンバーの分類がかなり少なく、北から南までどこでも水戸ナンバーです。怠慢!)
 おじさん:「実はオレ、カードを集めてて」
 こま  :「クレジットカードかなんかですか……」
 おじさん:「違うよ。ダムカードもやったし、道の駅スタンプもたいがい集めたし、今はマンホールカード!」
 こま  :「へえー(とけいをみる)」
 おじさん:「これがなかなか大変なわけ。施設がやってないともらえないし、迷惑かけるわけにもいかないし、云々云々」

 おじさん情報では、徳島では遅くなると締め出されてしまう道の駅もあるらしく。
 こういうこだわりが強いお人の話はいつも面白いのですが、実際問題、待ち合わせの予定を持っている身としては、まあ、長すぎる。
 半日続けるつもりか? そういうテンション。
 ゆとりをもって行けるはずだったのに、朝からダッシュしたあげく8分遅刻しちゃったじゃねえか。

 

 

 ……という感じで、若干焦りつつ、ナイスガイのお二人と合流したのです。
 四国の山間部の狭い道を3台連なって走ることに利点はない。
 近隣の方々にも迷惑だろうと計画段階で察し、1台にまとめることとしました。

 「自分勝手できない旅」が「パイナップル入り酢豚」の次くらいに嫌いな狛があくまで自家用車の海運を主張したため、おふたりにうちのフォレスターに乗り込んでいただくことになりました。
 おじさんに時間を削られながらも車中泊環境は畳んであり、実際ぴったり3人分の荷物を積み込むことができました。
 さあ、ゆかいなドライブのはじまりだわ!

「別所の大クス」

 と……待って!(足の小指をタンスの角にぶつける)。
 いきなり山地に切り込んでいくのではなくて、気を落ち着けよと言わんばかりに、平地の巨樹をまずひとつ訪問です。
 そのスタイルの美しさに惚れ惚れする「別所の大クス」
 書籍の写真でこの姿を見てしまったら、寄らずにはいられません。
 実際そばに立って撮り、その場の朝の空気を呼吸しながら見上げた美しい大クスの姿は最高でした。

 この写真を見てると、大クスの幹の空洞が八畳敷きあった……とかいう話もあながち誇張じゃないんだなと実感できます。
 こんな巨樹に出会えるんだから、本当に幸先いい。

 さて、地図を広げますと、今日のメーンイベントは、徳島県の中央部、秘境「つるぎ町」に切り込みます。
 剣山に向けてどんどん南下する形ですが、道が過酷になるだけ……というか、道とは呼べない何かに変り果てるので、深部の巨樹をアレしたら、来た道を戻り、徳島を西へ横断します。
 そこからどうするかって?
 キリキリ90度ターンして南へ進路をとり、高知市まで走り抜けます。
 そんな感じの一日(ピンと来なくて結構です)。

 さてそういうわけで、国道を走るんですが、この400番台国道ってヤツにろくなのがない。
 これは438ですが……悪名高いのは439号線(通称ヨサク)で、オフローダーおよび冒険野郎なら一度走破せよということらしいですが……全体的に嫌すぎる道です。

 おっと、横着してると思われるでしょうが、頼みの綱のドライブレコーダーが暑さでいかれたらしく、データなしなのです。
 ストリートビューの方がうまく撮れてることも多いですし……

 ウワー山深くなってきたとか言いながらしばらく438号を行くと、トンネル入り口にこのようなでかい表示が。
 「巨樹王国 一宇」。ドン!
 まさか巨樹が王国をなしていたとは……(そういう意味じゃない、リンクは公式ホームページ)。
 巨樹をここまで大々的に持ち上げる自治体も珍しい。
 いやがおうにも……ほんとに期待して大丈夫なんだろうな?
(誘った張本人としては、プレッシャー感じてます)

 その「巨樹王国」に密入国したあたりから、俄然、438号は本調子になってきます。
 さっき言いかけましたが、ウチのも四輪駆動なので、悪路はなんとかなるんですが、狭路はキツい。
 この程度なら対向車に配慮すればいいですが、崖と切り通しにボディつっかえて通れねえ! ってなったら、泣きながら茨城まで帰るしかない。徒歩で。

 ほぼ一車線の道をどんどん行きます。
 もちろん対向車も来ますが、途中のポケットでテンポよくかわす。

 どうやら一宇集落に入ったらしい。
 唯一目立つ「岩戸温泉 つるぎの湯」とやらがありますが、やはり道幅は狭い。
 ふふん、ここねー、と通り過ぎるはずが、向こうの方から真正面にやってくる対向車に道を譲るためにしばらくバックして停車する羽目になる。

 ちょっとさあ、これ、ほんとに国道なの?
 ……と、片側3車線が当たり前の茨城県民が言っております。

 そんなこんな、気の抜けないドライブが続きましたが、目的の巨樹に近づくため、ある個所でぐいっと国道から脇道へ。

 すると! なんということでしょう、ますます道が狭くなるではありませんか!!

 ほんとね、ただでさえ集落のあんばいが急斜面を無理に切り開いてごちゃごちゃくっつけたような有様なのに、その中の路地みたいなところを走ろうってんだから。

 ジムニー専用道路ですか?(いいえ、軽トラ専用です)
 場所によっては転落死の心配が。

 京都からのto-fuさんは奥様から「もう行ってもいいよ」とシンセツな言葉をもらって(笑)早出発して前泊したらしいですが、奈良からのRYO-JIさんはド直球の早起き合流で、なんと起きたのは3時とか。え、出発が3時?
 寝るかも……ということでリアシートに乗ってもらいましたが、このスリルドライブでは、生きた心地もしなかったでしょう(意外と快適だったりして)。

 なんて笑ってますが、運転手は冷や汗まみれでしたね。
 でも何とかかんとか……慎重によじよじ登っていき、てっぺんまでやってきました。
 この横の階段から、第二目的の巨樹(モミ)にも行けるらしい……。

(写真では辛そうに見えない? 実際行ってみると良いと思います。)

 さてはて、いよいよ到着です。ああコワかった!
 書いてありますね! 「日本一の大エノキ」。
 この先にあるお堂のエノキです。調査の結果、日本一の大きさだと判明、一宇集落の名が一躍知れ渡ったという。
 まさに「巨樹王国」を代表する一本。

「赤羽根大師のエノキ」

 最後まで不安でしたが、ついに登り切った感。
 ようやく下車できましたが、ずいぶん(嫌な)汗をかいてます……。

 緑深い山々、空気が澄みきって、むやみに深呼吸したくなる感じ。
 「日本一の大エノキ」こと「赤羽根大師のエノキ」まで、ついに来た!
 この達成感は半端ない。

「白山神社のモミ」

 大エノキから数百メートル降ったところに位置する「白山神社のモミ」も見ておかねばなりますまい。
 徳島最大、全国的に見ても幹周囲6メートルを超えるモミはかなり大きい部類。
 迫力ありました。

下ってはまた上る……鋸刃の上の巨樹探訪

 とんでもねえところに来ちまった感。
 あの、「にっぽん昔話」に出てくるような立地のおうちにはどうやって行くんだろ。
 家があるからには、あすこに住んでる人がいて、つまりあれが実家だということもあるわけですよ。
 お正月やオボーンに帰る、婚約者を連れてきたりする。あの地に!
 「ねえ見て……あれが私の実家なの」
 って言われたらどう……

「地蔵森のカゴノキ」

 そんな妄想をしつつ、ハンドルぐるぐる回して登ってきました。

 途中、思いがけず、リストアップしていなかったカゴノキの巨樹に出会う。
 かつては飢饉で失われた命を弔う地蔵堂だったようです。
 過疎のさなか、次第に気配を森の中に消そうとしているかのような、どこか影のある巨樹でした。 

 さっき登りきった尾根からふもとまで下りてきて、また別の尾根まで登るというような繰り返しです。
 (後に、標高400メートルあまりも駆け登ったと判明。)

 とてもじゃないけど、地図計画だけでは正確にイメージがつかめない。
 地図上の直線距離としてはたかだか20キロに見えても、標高合計1000メートル程度登り降りしていたのではないでしょうか。
 人生で初めて高度計というものが欲しくなった次第です。
 樹木の生育環境を捉えるためにも、ちょっと高度を意識するのは有用かもしれません(以後、車に装備)。

 「葛籠のヒノキ」への入り口、葛篭堂というお堂と集会所のようなものがあるヘアピンカーブまでやってきました。
 この細道の先に数軒の民家、これが葛籠集落らしい。
 極端に切り立った狭い土地で、道幅的に車で進めるかわからない。
「車はここに置いて徒歩で行きましょう。ね、徒歩、いいでしょそれで、天気もいいし歩くときっと気持ちいいですよ」
 と民主主義的に決定して歩きました。

 ここは果たして本当に2019年の日本なのだろうか? 
 まだここは道路が通っているからマシでしょうが……待て、平常時から孤立に慣れていると、逆に、災害時には強いか?
 などとヘンテコなことすら考えてしまいました。

 狭い道のど真ん中に、堂々と郵便局の赤カブが停めてある。
 斜面に張り付いたような家の中から明るい話し声が聞こえる。
 ここらの人たちにとっては、郵便物よりも大切なものを届けてもらってるんだろうな。

「葛籠のヒノキ」

 「葛籠のヒノキ」が急斜面にしがみついて立っていました。
 しかし、急すぎるためか、近づけない処置がしてあり、ちょっと残念。
 写真点数は少なくならざるを得ませんでしたが、勢いのある大ヒノキで、見られて良かった。

 そばの道幅は軽トラで道幅いっぱいいっぱい。
 さっきの赤カブにせよ軽トラにせよ、通行を気にする気配すらない駐車に、この土地のテンポを感じます。

 案の定、撮影して戻ってきても、さっきの赤カブはまだ停まっていて、話し声も変わらず聞こえる。
 これがここの日常なんだなあ……。

 巨樹も堪能しましたが、それとともに、距離以上に遠い地の日常を感じ取れたのがとても印象深かったです。
 ほんと、何度でも書きますが、巨樹がなかったら一生のうちに絶対来なかったであろう場所に身を置きました。
 この感覚がとても鮮烈なのです。

 車に戻り、我々はさらに進む。
 つるぎ町の深部へ。
 まだ見ぬ巨樹たちのもとに。

(つづく)

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