巨樹たち 徳島県美馬市「別所の大クス」 / 0件のコメント 狸伝説もある美しい大クス 徳島県美馬市の市街地からやや東へ進む。 吉野川の北岸、堤防のような土手から見下ろす平地に、大きくてスタイルの良いこの大クスがあります。 旅の進行方向とは逆になってしまうのですが、数キロ圏内にこんな樹があると知ってしまっては、立ち寄らずにはいられません。 まず、そうして正解でした。 訪問済みである今の自分が、この樹に立ち寄らないという選択肢をとったパラレル過去自分に声をかけるとしたら……「お前の脳、マッシュポテト」です。 いや、立ち寄らないとしたら、それは僕ではないと思います。 冗談はさておき、「別所の大クス」、すばらしいクスでした。 最初のヒューマン・スケール写真でもわかっていただける通り、高さ太さと、その立ち姿の美しさにおいて、非の打ちどころがないようなクスの巨樹です。 3人そろっての徳島・高知巨樹紀行の記念すべき1日目、その1本目を飾るのにまさにふさわしい樹と言えるでしょう。 実はto-fuさんは前日から徳島入りされており、アクセスの良さからこの樹も訪問済みだったそうですが、「行く価値のある樹ですよ」と勧めてくれました。 実際、その通り。そうとしか言いようがない。 目通り幹周囲は10メートルとのこと。 クスの巨樹を見ることに慣れてくると、つい相対的に10メートルは普通よりちょっと大きい程度かな……なんて思ってしまうんですが、これって大変なデカさですよ。 クスという樹種がとびぬけて大きくなりすぎなんです。 他の樹種で……杉も大きくなりますが10メートル超えと言ったら、かなり限られてきます。 それが、クスなら次から次へと出てくる感じがある。 こうして近づいて見ると、すごい迫力です。 それでも、さすがはクス、実に危なげなく、普通の顔をして立ってる。そういう感じがしました。 別段苦労を重ねてものすごい年月を生きてきたってわけでもないし、厳しい環境に苛まれて化け物化したわけでもない。 おいらは普通にここで元気にやってるけどね、みたいな、そういう若々しさがあります。 強靭な根と幹。 ああ……本心から、この樹が一番最初で良かった、と、そう思いました。 時間は朝の7時半くらい。 すがすがしい空気の中で、巨樹がこれから始まる1日を楽しみにしているようにすら感じます。 この時期の、クスの巨樹の、森のような樹冠がまたいいんだな。 九州でもだいぶ早くに車中泊から目覚めてクスの巨樹を見て歩きましたが、あの時も気持ちがよかった。 鳥がね、本当にいっぱい来るんですよ。 それも実にうれしそうにクスの枝の間でさえずっている。 なんとなくですが、クスの枝にいる時は、彼らの声からも安堵感を感じるんです。 ここにいれば完璧に安全だー、とか、ここがやっぱ最高ラグジュアリーだぜー、みたいな。 そう言ってるかどうかはわかりませんが、僕が鳥だったらそう言います。笑 季節柄、クスも花に見えない花をいっぱい咲かせていました。 周囲がひろびろとしており、ぐるぐると回りながら眺めることができますが、どこから見ても力強い。 そして何より、引きで全体像を眺めるのが気持ちいい! 吉野川の土手がずっと続いており、ここに登れば、ちょっと上から構図でクスを眺めることができます。 これはなかなか……特別な眺め。 比較対象が車とか電柱とかお隣の2階家だなんて、とんでもないなと思うんですが、どうですか、この立ち姿の巨大さは。 太くても低いということはなく、実に理想的なプロポーションに育った大クスです。 お隣のおうちは毎日こんなクスが見られてうらやましいですが……そんなことを考えるのは巨樹ファンだけでしょうか? 実際は日当たりが悪かったりするし、落葉落枝もけっこう面倒かもしれませんね。 しかし、ここまで大きくなれたのも、周囲がひらけたままなのも、近隣の方々の理解や尊敬を集めているからでしょう。 この存在感と周辺の印象は、福岡県八女市で見た「鈍土羅の樟」を思い出し……あれも巨大な一本クスで、また早朝会いに行きたいなあ、こういうクスっていいな、と思うのでした。 気分が高揚してくるとともに、この1日も次第に本調子になってきたような感じがありました。 さあ、やるぞー! みたいな。 クスからもそんな生命力が噴出していたように思います。 1本目から堪能してしまいましたね。 これが地元だったら、この1本で十分すぎるほど満足し、早く写真編集に取り掛かりたい! と思ったことでしょう。 しかし、この日はこれからが始まり。 どれだけ深いところに踏み込むか、不安さえ感じるほどです。 もっと見ていたい、この場にゆっくりいたい……と、後ろ髪を引かれるように、その場を後にしました。 クスは巨大化する樹種ナンバーワン。 こんなすごい樹でも徳島で6番手です。 ということは、全国規模の主たるランキングでは発見できなくなってしまう……。 まあ、まあ、見所は数値だけではありません。 この健全さ、美しさでいったら、これだけのものには九州ですらなかなか出会えないでしょう。 根元には、おいなりさんならぬ、おたぬきさんの祠があるんです。変わってます。 火術の名手で、花火をあげたり、戦争に加勢したり……伝承もユーモラス。 さらに帰り際、車を出したら、目の前をそのタヌキが駆け抜けていくんだから、バッチリです。 アクセスもしやすいし、必ずもう一度会いに来よう。そう思わせてくれるクスです。 「別所の大クス」 徳島県美馬市脇町別所 推定樹齢:600年 樹種:クス 樹高:30メートル 幹周:10メートル 県指定天然記念物 探訪メモ: アクセス難はありません。 樹を見るために停められるスペースもあるので、ゆっくり観察できます。 河川敷の風景も綺麗ですし、朝ごはんを持ってきて、ここで食べるのは気持ちいいはず。 なぜかどうしても朝ですね。 余談: このクスを見ていると、やはり比較対象としてか、九州のクス巡りを思い出します。 福岡県八女市「南馬場の大樟」をベタ褒めしたら、近所のオバちゃんが「あんな馬鹿でかい樹のせいで花火もなんも、ぜーんぜん見えん! まっくら!」とお嘆きだったのを思い出します。 ま、まあ……確かに。汗 <徳島、つるぎ町の巨樹探訪旅の記事もどうぞ>徳島・高知 四国巨樹探訪旅2 関連