巨樹たち

【2024再訪】富山県魚津市「洞杉及び岩上植物群落」

二度目の「洞杉(どうすぎ)」探訪

 2024年6月初週。朝7:00。
 そういうわけで(ここまでの事情は探訪記「2024年・富山県魚津市巨樹探訪2」をお読みください)、魚津市街の宿から30分あまりの距離を急行。
 巨樹・写真仲間のto-fuさん、RYO-JIさんとともに、富山県が全国に誇る「洞杉(どうすぎ)」群の探訪に臨みます。

 市街からほぼまっすぐに南下、どんどん周囲の緑が濃くなっていく。
 ところどころで狭路にはなるものの、道路状況はしっかりしています。
 水力発電所を通り過ぎた辺りで、道路にも「洞杉方面」と白字で示されています。ここを右折。

 そこから1キロ強。いよいよ山という感じがしてきたここが洞杉駐車場こと「南又谷駐車場」です。
 洞杉周辺は保護区域指定されているため、車両での乗り入れは不可。ここで下車し、片道おおむね2.5キロの徒歩行となります。
 駐車場には一帯の地図とともにバイオトイレも設置されており、ありがたく利用させて頂きました。

 to-fuさん、RYO-JIさんと再会するのは、2019年5月の「徳島・高知 四国巨樹探訪旅」以来。各々のライフスタイルへの影響含め、コロナ禍は実に長かった。
 こうして変わりない熱量でツルんで巨樹撮影に歩ける。とても嬉しく感じました。

 あとはもう、清流・片貝川の流れに沿うように歩いていく。
 なのですが、前回探訪時(2017年5月)は、季節を読み違えたため、深い残雪に大変苦労しました。
 前述の駐車場まで1キロ手前から車両進入不可(片道3.5キロの徒歩行になった)、途中から道路は雪に埋もれて見えない、雪崩のせいでまっすぐ進めず、融けた雪が空洞化しているので杖で確かめないと危険……。
 はじめて探訪を計画される方は、チラ見でもいいので、この時の探訪記を覗いていただければ、危険回避に役立つかもしれません。GWでもまだこんなに雪があるのです。

 なまじそんな経験をしてしまったせいで、道中をハードに想定してしまう自分がいました。
 しかし、今回は拍子抜けするくらいにラク。楽しい。
 道端に咲き乱れるお花を眺めたり、水たまりにびっちり群れているオタマジャクシや、ほとんどガラスのような片貝川を撮影する余裕がある!
 洞杉までたどり着く以前にも、ネイチャー写真の楽しみが満載なのです。

 途中にあるこのルート図の重要度は高い。
 「洞杉群生地」はこの図の赤いルート上に集中しているので、行きはおのずと赤を辿ることになるでしょう。
 スマホの電波は見事なまでに入らないので、オフラインでこの図や地図を参照できるようにしておくと安心です。

洞杉たち、続々登場

 みずみずしい自然に浸りつつ進んでいくと、ぽつぽつ異形のスギたちを見かけるようになります。
 もちろん、これ以外にも無数にある。
 そう前置きしたうえで、巨樹として特筆すべき個体を紹介したいと思います。 

 まずは上記写真、前回探訪では(やはり雪のせいで)最後に出会い、「川沿いの洞杉」と仮名した巨杉。
 川を見下ろす斜面に育っており、今しも転がり落ちそうな丸い岩を根で抱え込んでいます。

 やや木立の奥にあり、気づかないで素通りしてしまう方もいるかも。
 幹周は、測り難いながら、8メートル以上あるのではないでしょうか。

 各主要洞杉には、前回探訪時写真を参照できるリンクをつけておきます。
 数年間の経過あるいは季節の違いによりいかに姿が変化したか、見ていただけるかと。
 というわけで、この洞杉の前回探訪時写真はこちら。

 さあいよいよだぞ……という間に、「崖の上の洞杉」とでも呼ばれたがっているスギに出会います。
 と、このように巨樹に名前をつけるのは非常に難しいと思い知るわけです。崖の上の、魚の子かなんかかよと。
 そう言うんならあなたもやってみるがよろしい。近年発見されたと言っても過言ではない洞杉群、伝説の偉人の故事などもないので、うまく見立てたつもりが厨二病罹患になりかねませんからね。「古の闇の息吹の洞杉」ッ! とかね。フッ。

 上空で扇のように枝を広げている。ぐっと絞れた幹周は5~6メートルくらいか、しかしその上部で膨れ、太さを増している。
 きめ細やかな感じの樹皮や柔らかいフォルムからして、他より若いようにも映ります。
 柔らかそうな根がブロックめいた角ばった岩塊に載っている、この両者の質感の差も印象的です。
 前回訪問時のこの洞杉の写真はこちらです。

 進むと、明るい雰囲気の広場に出ます。
 テーブルとベンチもあって、ついピクニックしたくなりますが、ここにある「広場の洞杉」2本も、さりげない立ち方なのになかなかすごい。

 株立ちにも思えるほどの太さ。やや横に広がる樹形とも見えますが、8メートルオーバーの幹周がありそうです。
 たいていの巨樹は、「ああ、あれに似てる」と近いタイプの個体を挙げられるものですが、洞杉はそれがなかなか出てこない。それもまた特徴だと感じますね。
 この洞杉の前回訪問時の写真はこちら。

異次元の巨大洞杉多発地帯へ

 クマサンの気配に打ち克つ必要があるため、ピクニックは今回も諦めました。
 いや、実際としてここでピクニックしている場合ではないのです。
 この広場こそ、いわば最重要アクセスポイント。ここから環状の「洞杉観察路」に入ることができ、これがサブどころか洞杉探訪のメインイベントなのです。
 自然保護のため木道の外へは出られませんが、反面この木道がとても滑りやすいので気をつけて。

 二度目にもかかわらず前のめりでやってきたのも、この観察路の洞杉にどうしても会いたいがためです。
 前回探訪時には、観察路の入り口がどこかも判別できないほど完全に雪で埋もれていました。というか、この一帯丸ごとが巨大な雪の塊でしかなかった……。

 木道沿いに次から次へと洞杉が現れます。
 手前のこの単幹形状の洞杉(幹周6~7メートルほどか)を仰ぎ撮っているうち、その奥にもほぼ同じくらい大きな異形個体が並んでいるのに気づきました。
 兄弟と言ったらいいか、並び立つ怪物と喩えるのがいいのか。異様かつ壮観。

「おい、それなら、これはどうだ」
 とばかり、森林はさらに物凄いのを送り出してくる。
 なんなんだ、こいつは……。絶句してしまいました。
 そばに立って人間のちっぽけさを示せないのが口惜しいですが、もはやスギとも呼び難い異形の巨大存在が乗っかっているこの岩自体、ゆうに2~3メートルの高さがあります。

 自分の中の「樹木」という概念を粉砕しにかかってくる外見。
 樹木とは対称的な形態をとるものだと思っていましたが、この洞杉にいたっては全力でアンバランスに育っている。
 しかも、唖然とするくらい太い。このアンバランスさこそが絶好の条件だったと言わんばかりに見せつけてくる。

 ここまで巨大だと、どう撮れば特徴や魅力が捉えられるのか、見当がつかなくなります。
 標準域のレンズでは部分しか切り取れないし、超広角で全体を入れたとしても、全体を視野に入れてしまうだけに、なおさら自分が何に立ち向かっているのかわからなくなる。
 その場に立たない限り共感は難しいかもしれませんが、そんな感じなのです。
 しかし驚くべきことに、クライマックスはまだこの先でした。

 この先にいたのが、現状発見されている中で最大と目される洞杉。
 いや、ひとつ前の洞杉のあまりの大きさに、つい「話に聞く最大洞杉か!」と思い込んでしまったのですが、まさかわずか数十メートル先で覆されるとは。

 巨岩を覆う苔の上でスギの芽が芽生え、やがて岩を抱きかかえるような巨樹に育つ。
 雪の重量で幹は湾曲し、折れ、内部に洞穴のような空洞を抱える奇怪な樹形と化してゆく。
 まさにその「洞杉」とは何であるかの由縁を示している巨杉です。

 根本レベルで大胆に分岐し、反り、広がっている。
 見る角度を少し変えるだけで全く違った巨樹に見えます。

 左右非対称どころか、いったいどういうカタチをしているのかすら、なかなかつかめない……。
 現地で把握できるのは、とにかく、とにかく超巨大だということのみ。

 この洞杉のテリトリーを包括し、巨岩の周囲を巡るように計測すれば、優に30メートル以上の数値が測れてしまうという。
 それではあんまりだとして、この最も太い幹だけ計測しても幹周15メートル以上もあったという……なんということだ。

 滑りやすい木道をそろそろと回り込んでくると、本能的にここがこの巨樹の「正面」であると気づかされます。
 左側に伸びている別の幹も、岩上を這うように広がった幹(と言っていいのか?)でつながっているのです。

 これで一本の樹。一体の巨樹。
 全く、規格外というにもほどがある。

 角度を変えると、この洞杉もまたかなりアンバランスに身を乗り出して育っていることがわかります。
 岩がむき出しになった部分にも、かつては大枝がついていた……要するに放射状の樹形を作ろうとしていたはず。
 それがある時大規模に倒壊し、それとともに、他方では地に押し付けられた枝から別の幹を発生させていった。
 千年にも及ぶ時間尺の中、この樹は、そういった生命活動を同時進行でずっと続けてきた。
 言葉が見当たらない、唖然としてしまう。いや、それで当たり前じゃないか。
 そうとすら思ってしまうのでした。

 感性を翻弄する驚異の回廊を、我々はじっくり二周しました。
 オバケ屋敷から出てきた足でもう一回入って行っちゃう、みたいな姿でしょうか。さすがにちょっとフラついていました。
 その先、いわばトリとして出会える「船形の洞杉」は、その存在感からしても「まとめ」といえる洞杉です。

 この洞杉も根本に岩(おそらくゴロゴロと多数)を把握していつつ、開けた平地にあったために、左右対称に近い籠型形状をなした。そう読み取れます。
 折れては再生を繰り返した剣山のような上部形状は、材として連続的に上部を切られたゆえの異形だという関西の「台杉」に似ていなくもない(京都府「伏条台杉群生地と平安杉」)。

 などと、わかったようなクチをきいてますが、やっぱりこれも超然とした唯一無二の巨樹だと感じます。
 こんな風に複雑に筋張って絡み合い、なおかつ塊感のある巨樹なんて他にはない。

 また、実は前回訪問時の印象から最も変わったのはこの洞杉だとも言えるかもしれません(この洞杉の前回訪問時の写真はこちら)。
 残雪の時期にはいわばスギらしい赤味を帯びた樹皮を見せていましたが、それがだいぶ苔むしている。
 下生え的に伸びてきたスギの苗もあり、樹形の全体像は前回の写真の方がよくわかるかもしれません。

 と、そんな感じで、前回訪問時の無念まで晴らす、自己ベスト的な巨樹探訪となりました。

 巨大な花崗岩の数々を運び、深い谷を掘ったのも、あの清流・片貝川だそう。
 自然現象の恐るべき力と、途方もない時間の流れを肌で感じられる土地です。
 森林は今なお深い。観察可能な洞杉以外にもまだまだ知られざる巨樹を内包しているはずです。

 巨樹のみならず、この豊かな自然環境に身を置けたこと自体に幸福を感じる探訪でした。

 三人いれば殺人熊も怖くはないぜ! とまでは言えないながらも、パーティーを組めたことにより有意義な巨樹クエストになったのは間違いありません。
 同行のお二人には、毎度ながらも大変感謝しております。
 また、長い巨樹クエストをお読みいただいた読者様にも。ありがとうございました。

「洞杉及び岩上植物群落」
 富山県魚津市三ヶ
 推定樹齢:1000年
 樹種:スギ
 樹高:10~25メートル(目測)
 幹周:~15メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2017.5、2024.6

探訪メモ:
 遅い春と、険しい道のりにご用心。探訪はその時々の最新情報のリサーチから始めてください。
 数キロ歩ける靴と脚力、クマ鈴、ストック、虫よけなどとともに、無理をしない心の装備を。

 各種情報は新設された魚津市の観光サイトも詳しいです。

4件のコメント

  • to-fu

    昨日仕事の合間に途中まで拝読したのですが、これは流し読み出来る記事じゃないぞとブラウザをそっと閉じて今改めて読み直しています。
    いや、こうして改めて写真を見ていると本当にあの場所に自分がいたのだろうか?と記憶があやふやになるような不思議な感覚を覚えます。
    どうも現地では雰囲気に飲まれていたのかもしれません。これは本当にとんでもないモノを見てきたんだな…

    人間が支柱を立ててこれでもかと薬剤を注入しても枯死してしまう大杉が少なくない中、完全に己の身一つ、それもここまで過酷な環境に身を置いて数百年生き続ける。見た目の圧倒的迫力もさることながら、一個の生命体としての力強さを思うと畏敬の念を抱かずにいられません。最大洞杉なんて、あの一本の生き様を見ただけで片貝川上流域の環境を感じ取れますもの。

    こうなるとやはり積雪時の姿もこの目で見てやりたくなりますねえ。狛さんはもうゴメンかもしれませんが 笑
    あのエリアは例の幻スギとか魅力的な大物が多くて困りますが、それでもやはり洞杉巡礼だけは今後も外せそうもありません。
    洞杉の存在を思い出すだけで「次はもっと上手くやる!」と熱が入るこの感じ。数年に一度は腕試ししてみたいです。

    • to-fuさん
      ひたすらありがとうございます……。どうしても簡潔にできず恐縮です。
      と、書きつつ、あの高レベル巨樹地帯をあっさり1、2枚の写真と短文で終わらせるなら、こんなサイトやってる意味無え! とさえ思うのでした。笑
      全くもって巨樹の聖地。再訪でしたが、今回訪ねられたことで俄然この地の素晴らしさに感動させられました。
      本来の環境と時間の中に放り込まれたスギという生命体がいったいどういう生き方をするのか。どんな姿で生き抜くものなのか。
      森に雷が落ちて木が倒れる時、それを自分が知覚しなかったとしたら、その現象は起きなかったことになるんじゃないか?
      みたいな、「世界は自己の知覚が作っているのだ」というような仮想現実仮説がありますが、これら洞杉の前に立てば、そんな説はありえないなと思えてきます。
      この洞杉たちの個性的すぎる形態からして、自分の知覚が作ったモノにしちゃあまりにも凄まじすぎる。こんなもん、目の前に現れるまで全く想像すらできなかったけど? と。
      巨大なのにおそろしく複雑なディテールがあるところもそうですよね。これこそは、人間が介在しなかったからこそ現れたカタチだとしか言いようがない……。

      積雪時はカンジキ履いても観察路までたどり着けるのか!? と不安になりますが、や、やってみたいですね。
      解説によれば、巨岩の上は積雪が融けやすいのもメリットだともあるので、豪雪の塊から洞杉を掘り出すようなマネはしなくて済みそうです(無理すぎる)。
      洞杉撮影を満足いくまで追求してみたい一方で、周囲の素晴らしい自然ももっとじっくり撮ってみたい。
      魚津に移住して、シーズンごとに訪ねたいくらいですね。あ、それいいかも……埋没林博物館でバイトさせてくれないかな……。

  • RYO-JI

    to-fuさん同様に私も昨日一旦は読み始めたものの、これは時間のある時にゆっくりとと思って今に至ります(笑)。
    前回の記事と比較することによってより深く楽しめる内容になっていて読みごたえがありましたよ。
    あの強烈なインパクトを残した魚津訪問から一ヶ月以上過ぎましたが、いまだに洞杉の現像に手を付けられていません。
    あまりにも強大で迫力ある姿が頭の中に残っているので、自分が撮った写真と上手く向き合えないのです。
    『いや、もっと凄かったぞ!こんなもんじゃない!』そう思ってしまって、いつも以上に実物とギャップを感じてしまってます。
    とはいえ、私もそろそろまとめないと。
    私が最後になってしまったので、もう何を書いてもパクリっぽくなってしまいそうですが(笑)、
    こうやって狛さんやto-fuさんの記事を拝見することで、自分の中で受け止めた洞杉の印象が次第に整理されていくような気もします。
    それでも結局は、『凄かった』『また行きたい』ということに集約されることでしょう!

    • RYO-JIさん
      旅から戻ってさっそく見たのが洞杉の写真。ああよかった、メモリーカードぶっ壊れてないなと。
      で、これぞというものから現像しつつ、他の巨樹の写真や記事も編集しましたが、その間もずっと洞杉の写真は「もっと、こう、」とやり直し続けていました。今でも完全ではなく……いや、それ言ったら過去探訪分も気になる……。
      今現在も抜群の生命力を感じさせる洞杉たちについてですから、駆け足でやる必要もなさそう。それこそ巨樹のごとく、ゆっくりコンテンツを育ててもいいし、もちろん公表せずに自分だけのアーカイブにしてもいいですね。
      自分の場合は始めた作業に終わりが見えなくなってしまったので、この辺で成果としておこうと。そんな感じでした。

      今時は動画だろう、それも1.5倍速で見るんだろう、と思いつつ現像し、書き連ねてます。
      こういうモノについて文章書くのが好きだし、動画編集でそれがめいっぱいできないとしたら物足りないんです、きっと。
      この手のコンテンツ制作で唯一許しがたいのは、実際に行ってもいない・見てもいないものを小手先の情報加工だけで私物化しようとする行為ですが、そんな低級なモノじゃないことは互いに保証しあえますからね。三名とも穴が空くほど巨樹を凝視し(穴があいたらやばい)、アホほどシャッター切ってましたしね。笑
      自己の体験に付随するリッチな成果物。構えず、自分のベストに仕上げて楽しめれば、それで正解。
      きっとこの先何年も楽しめる素材ですよね。

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