巨樹たち 千葉県館山市「沼のびゃくしん」 / 0件のコメント 房総最南端のビャクシン巨樹 房総半島の最南端に位置する館山市。 所詮千葉というなかれ、房総半島は一周するのに600キロ以上あると言われ、館山まで行くには愚直に南下するしかないため、隣県にいてもなかなか行くことは難しい場所です。 気候はきわめて温暖で、街道沿いに花咲き乱れ、椰子の樹まで揺れているという、近くて遠いリゾート地といったイメージ。 市街から少し離れ、城跡の近く、ちょうど道が無くなって田や森が広がって来る境の土地に、今回の巨樹「沼のビャクシン」はありました。 ヒノキの仲間、ビャクシン(柏槇)の巨樹です。 地上1.3メートルの幹周7.45メートルは、千葉県内のビャクシンでは最大。 スギほど巨大にはならない樹種ですが、さすがに7メートルを超えるとなると迫力がありますね。 この樹の場合は神社の石垣すれすれに生育していることもあって、グワッと迫ってくる姿にいっそう凄みがあります。 実際に見てみて、あああれだと思い当たりました。 庭木や街路樹によく植えられているカイヅカイブキの仲間です。 というか、ビャクシンを園芸種化したのがカイヅカイブキであり……つまり、今回の樹は、アレのものすごく大きくなったやつということですね。 こんもりしているだけの園芸種とは違い、縦横にすごい枝張りを見せています。 ちなみに「沼」とは、この辺りの地域名。古くは沼があったのかもしれません。 さらに近づいてみると、頭上全てが枝張りに覆われてしまいます。 背後に山を背負っているせいもありますが、神社境内がかなり薄暗いのは、この枝張りも大きく影響していると感じます。 街路樹でカイヅカを見慣れている身とすれば、樹皮や葉の形はおなじみの感じですが、はるかに荒々しく、逞しい。幹周り7.45メートルなんて、トカゲと恐竜くらいの差があるんじゃないかな。 香気というのか、枝の下に入ると、この樹種特有の匂いに包まれました。 ビャクシンとして全国でも9位の巨樹だそうです。 複雑な様相の枝振りが、すごい太さの一本の幹に収束しているところ、見ていても思わず力んでしまいそうです。 周りの土手が獣道のようになっているので、登りつつ三脚を立て、姿をじっくり撮影してみます。 かなりの太さを感じる、素晴らしい根幹。 背が高くなく、樹形が複雑になる分、直立するスギよりも重量感を感じるように思いました。 背面に回ると、おそらく枝折れの箇所だと思いますが、白骨化した部分があります。 なんだかツヤツヤと磨かれたようになっていて、象牙のような質感。 傾斜して育っていった姿勢上、背中部分は弱点になったのかもしれませんね。 長大に枝分かれしていっている重量で、将来的にこの背面部分が引き裂かれないといいのですが……。 上背がない分、落雷の脅威からは逃れられますが、横に広がった大枝は風害に遭いやすいはず。 背後が神社で、ちょっとした丘を背負っているのも恵まれていた点かもしれません。 垂直方向に立ち上がるものと同等くらいの分量が、重力に引かれ、平行方向に長く身を伸ばしています。 晴天の日でしたが、幹に近づくと鬱蒼として暗い。木漏れ日のまだらがくっきりと目に映えます。 神社の鳥居の横に車1台停めて転回できるだけの草地があるのですが、そこから眺めた姿はこんな感じです。 御神木だということで極力枝を落とす処置をされないため、このような姿になったのだと思います。 すっぽりとビャクシンに抱えられるようになってしまいます。 もう、停めた車の屋根にまで枝が届くありさま。 車のすぐ後ろに立ち込める濃い緑の積乱雲のような樹冠すべてが、「沼のびゃくしん」一本のもの。 樹勢はかなり旺盛、いい樹だなあと惚れ惚れするのでした。 大量の着生植物を排除するなど、22年度の手入れがやはり効いているのでしょう。 ビャクシンの巨樹は個体差が大きく、姿形だけ見ると全く別種の樹に見えてしまうこともあります。 生い立ちや周囲環境とともに考えるのが特に興味深い樹種だと思います。 極端な位置(半島の本当に最先端!)も含め、館山市の南国と言っていい気候や風景を眺めるのはとても気持ちいい。 ギリギリ日帰りのドライブを楽しむついでに、おそらくこの樹にはまた何度か会いに来るはずです。 親しみがわくとともに、十分な見所を備えた巨樹だと思います。 「沼のびゃくしん」 千葉県館山市沼 十二天神社 推定樹齢:800年 樹種:ビャクシン 樹高:17メートル 幹周:7.45メートル 県指定天然記念物 樹種(ビャクシン)県内第1位 訪問:2016.8、2019.4 探訪メモ: 巨樹までの道が細く、駐車転回スペースも1台分ほど。先客がいると少し難です。 近くで養蜂をしているらしく、ビャクシンの枝の下でたくさんミツバチが飛び回っていました。刺されるかも……。 館山市のピーナッツ・ソフトクリームを行くたび食べてしまいます。ぜひ。 関連