巨樹たち

福島県南会津郡「雷電神社のモミ」

クリスマスツリー・エフェクト

 冬の福島県南会津町の巨樹探訪。
 巨大なアカマツ「下塩江五本松」からほんの十分進んだ桧沢(ひさわ)地区、「雷電神社のモミ」を訪ねました。

 桧沢川沿いの国道289号に並走するような旧道があり、巨樹有する「雷電神社」は、その先の桧沢小学校(中学校もくっついている)の隣です。
 シャーベット状の雪でじゃぶじゃぶした道を行ったり来たりして車を停め、立派な杉並木のある参道へ。

 板金葺きの屋根が、いかにも雪国という感じの雷電神社拝殿。
 少し調べてみると、群馬県邑楽郡板倉町の雷電神社の説明に、「関東一円、特に利根川中上流域に点在する雷電神社の総本宮」という文言がありました。
 今回の雷電神社がその系譜に連なるという資料はありませんが、そうだと仮定した場合、祭神は、火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)、大雷大神(おおいかづちのおおかみ)、別雷大神(わけいかづちのおおかみ)。さらには管原道真公も。この方は死後に雷神として荒れた(怨霊)という伝説からか。雷電の字の通り。

 その問題の(?)モミは、こういう風に、社殿のすぐ隣にそびえています。
 うっ、でかい……! そして高い! 

 しかしながら、モミ特有のあまりにも単純なフォルムにより、撮ると「ただただモミを1本撮った」のみの写真になってしまう。ザルで水を汲むみたいにほとんどの価値を取りこぼしてしまうわけです。
 これは、日本一のモミ巨樹である兵庫県「追手神社のモミ」を撮った時にも味わった特有の敗北感。
 我々巨樹フアンの間で「クリスマスツリー・エフェクト」と呼ばれている有名な難しさです。

 たかだか100か200かの巨樹の周りをうろついたくらいで、この俺を撮ろうなどとは笑わせる! わははは!
 と、モミに見下ろされて笑われているようにさえ感じます。

 地上1.3メートル地点での幹周囲は6.6メートルにもなるという。
 モミでこの値は、全国でも五指に数えられる。
 にもかかわらず、知名度はないに等しい。解説板もなければ、何の天然記念物にも指定されていない。
 「古町の大イチョウ」を表紙とする町の観光パンフレットや、渡辺典博氏の名著「巨樹・巨木」にも掲載がない。

 「モミ」と書いた名札がやけに小さく見えますね。
 ひとりだけ群を抜いて巨体の若者が入社式かなんかでちっちゃな名札をつけさせられてるような、そんな違和感。
 常識外れに大きなモミだという点は、まあ間違いないわけで。

 ものすごい重量であろう幹を支えるために大きく根を張り、今しも神社の束石をひっくり返しそう。
 ケヤキだったらもっと漏斗を伏せたような形に幹下部が育つところでしょうが、モミはあくまでズドーンとまっすぐ直幹を作るのが清々しい。

 根の間からスギが生えていますが、モミはそれを押しのけて生きている感じ。
 いや、スギの方でも相手が大きすぎてなかなか近寄りがたいというか。
 このスギだってよくある植林のものより一回り以上大きいほどですが、はるかに見下ろされています。

 根本にはいかにも小動物が巣にしそうなウロもありますが、樹勢はすこぶるよく、これまで見たモミ巨樹の中でも一番かもしれません。
 それより心配なのは、社殿との近さでしょうか……。
 相馬市「行津の大杉」も似たような危うい近さの巨樹でしたが、この巨体がいきなり倒壊したとしたら、雷電神社は完全に破壊されてしまうでしょう。
 正式な御神木として植えたものなのかも定かではないですが、どうにも想定外なほどに巨樹化してしまった……というようなスケール感です。

 参道から見えた桧沢小学校。
 ここの生徒たちなら、きっとこのモミも知っているはず。あのでっかい根っこによじ登ったりしてるかも。
 幼少期に見かけたあの樹ほど大きなモミって、そうそう無いもんなんだなあ。
 ……なんて、大人になってから気づいたりするんでしょうか。

「雷電神社のモミ」
 福島県南会津郡南会津町福米沢宮ノ沢1543
 雷電神社
 樹齢:不明
 樹種:モミ
 樹高:35メートル
 幹周:6.62メートル

 訪問:2018.12

探訪メモ:
 神社には駐車場がないようだったので、手前の「桧沢公民館(写真)にいた方に声をかけました。
 モミを見に来たと伝えると、快く公民館に停めさせてくださいました。

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