巨樹たち

福島県南相馬市「行津の大杉」

ちゃぶ台返しももうすぐだ

 2019年1月下旬、福島県南相馬市の巨樹行。
 「大悲山の大スギ」を訪ねた後、車でほんの10分ほどのところに、立派な幹周の大杉があると知りました。
 小高区にある「行津(なめづ)の大杉」……行津はこの辺りの旧地名のようです。

 国道6号まで戻って少し南下、宮田川を渡った先で右側へ入る。
 何が目印かは、割と遠くからでもわかります。もちろん、スギ自体の高さによって。
 この樹の場合、所在の神社が一段高い古墳のような土地にあるので余計に目立ちます。

 ここは南相馬市でも最南部に位置しており、もう数百メートルで浪江町。
 すると、帰還困難区域のバリケードに阻まれて進めなくなる地域が出てくる(2019年当時)。
 道路に走っているのは復興工事のダンプカーばかり……と思いきや、耕作地の土起こしが始まっていて、砂埃がもうもうと上がっていました。
 だ、大丈夫なのか、これ?(……結局、撮影に支障が出て手短退散)

 「星神社」の御神木とのこと。
 太歳神などのように、星の運行や暦に関係する祭神なのでしょうか。
 情報はありませんが、鎮守とはあり、地域の氏神様のような神社だったのかもしれません。

 先に解説と出会うことになりますが……巨樹の樹齢をアテにしてはいけないと思う。
 いや、個人的意見ですけれども。

 そうこうして、石段を登り切ったところで出会うのが、トップにも貼ったこの眺め。
 社殿のすぐ横にあって、かなり空間的に窮屈に見えます。
 いや、人間が行動するのに不便なほどではないのですが、大杉を引いて撮影することはなかなか困難。
 幹周囲7.5メートルとのことですが、この時点での迫力に不足はありません。
 スタイルとしては、これはもう、「大悲山の大スギ」のような異形さは全く感じられないキリっとした表杉。

 特徴のない、ただ大きなご神木とも言えますが、やや根張りが広めで計測に有利に働くタイプ。
 幹は立ち上がるに従って細くなるため、根を視界に入れないと5メートルクラスの印象に痩せる。
 樹高は35メートル以上あるそうで、落雷で破壊されていないのが不思議なくらい、周囲で孤立した高さです。

 星神社にお詣りした後で、じっくり樹を眺めます。
 根張りはやはりかなり大きく、圧迫感すら感じ、「狭いなあ」と苦笑いしながら一周して……ん?

 これはまた……土留めに使った木材でしょうか、巨大な根が飲み込み、跨いで進んでいる。
 明らかに「動作」という雰囲気、一晩経って来てみたら跨いでた……みたいな眺めにも思えてしまいますね。
 ま、そんなわけはないんですが。

 そんなことを考えてたら……見てください。
 神社の縁側の束が根っこの上に建造されているじゃありませんか。笑

 縁側が割と新しい。もしかしたら、旧縁側は攻め入る根っこに破壊されたのかも。
 巨樹が石段をたわむれにひっくり返してる場面はまずまず見かけますが、ここでは建造物がやり返している。
 こんなに堂々と樹の上に作っちゃってるのは見たことがありません。
 見ようによっては、ジリジリ近づいてくる根を、神社が「だめよ」とお手つきして止めてるようにも見えますね。

 ……と、一芸を見せてくれる大杉でした。
 樹皮がかなり乾燥した感じになっており、若々しさが感じられないところは気になりましたが、葉はそれなりにしっかりついている。
 それよりも、とにかく社殿との距離が近いので、ややこしいことにならなければいいなと願います。

「行津の大杉」
 福島県南相馬市小高区行津
 星神社
 樹齢:500年
 樹種:スギ
 樹高:35メートル
 幹周:7.5メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2019.3

探訪メモ:
 「大悲山の大スギ」ともども、埋もれさせるには勿体ない巨樹です。
 2022年9月には、帰還困難区域だった双葉町・大熊町にまでも立ち入れるようになりました(「前田の大杉」をご覧ください)。
 一刻も早くこの地から禍の爪痕が消え去ることを願います。

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