巨樹たち

茨城県稲敷郡「鹿島神社のやどり木」

遊星からの寄生体X

 茨城県で迎えた新年、三が日。
 初詣と言えば鹿島神宮が思い浮かびますが、あの人出は尋常ではなく、近づけさえしない。
 かといってコタツで駅伝をじっと見る根性もないので、少し強引に巨樹初めを試みました。

 というか、正月一発目がこれでよかったのであろうか……。
 阿見町の「鹿島神社のやどり木」です。

 阿見町。ゴルフ場とアウトレットモールがあることで記憶されています。
 なんせ霞ヶ浦西岸ののっぺりした土地、身長120メートルの牛久大仏に見下ろされ、はっきり言ってコワイ。
 目指す吉原鹿島神社の周囲はほぼ市街地ですが、初詣の気配はまったくなく、心落ち着かせて訪問できました。

 奇妙なオブジェクトが下がっている鳥居をくぐり、まずは実質上の初詣を。
 今年も個性豊かな巨樹と出会えますように……。
 その願いは即叶えられます。
 拝殿のすぐ脇に問題の巨樹がそびえ立っているわけなので。

 幹周囲5メートルのスギの御神木。
 定義をあてたようにまっすぐで、荒々しさを感じさせないきれいな立ち姿ですが……
 この隠しきれない違和感は何なのでしょうか?
 よく観察していただきたい。
 この樹の奇妙さ、いや、奇怪さ、おわかりいただけますか?

 ああ、もう手遅れかもしれない……。
 現実に気づかないまま、「それ」に近づいてしまっては……。

 こんなところから枝が出ている。
 おかしいと思いませんか?
 しかも、スギの葉っぱって、こんな感じでしたっけ?

 ……まだ、お分かりにならない。
 では、もう、その目でありのままをご覧になるしかありませんね。
 後悔しても知りません。
 そーっと、スギ巨樹の裏手に回っていってください、すると……

 !?
 ……いやもう、初見、全く言葉が出ませんでした。
 こ、これって一体……何なんだ?

 スダジイがスギに寄生している。
 確かにリサーチ段階で仕入れていた情報ですが、ここまで人の正気を奪うような眺めだとは!
 思わず後ずさりしてしまう。ほんとにこれ、お正月ですか!?(関係ない)

 あああ……。
 見れば見るほど禍々しすぎる二人羽織……こんな有様、あんまりだ。
 端正なオモテスギとグロテスクなスダジイの取り合わせがまたエグい。

 スギのちょうどいいウロに種子が運ばれて育った、「着生」という言葉で片付く姿ではないですね。
 黒く骨ばった、我々B級SFホラー映画愛好家が思い浮かべる悪性エイリアンそのもののスダジイが、明らかにスギの身体を引き裂いて這い出てきている。
 チェストバスターだよ!(映画「エイリアン」)

 実物を実感すると、これがまた結構でっかいんですよ。
 腕から腕(もう腕としか言えない)で測ったら7、8メートルはあり、真下に立ったらいきなり跳びかかられ、頭の中の空洞(空洞があるらしい)にタマゴ産み付けられそうで、ホント警戒しました!
 (同行のto-fuさんも、三ヶ日からドン引きしてました)

 御神木に失礼でしょうが、狂気を孕んだ眺めなのは否定しようがなく、むしろエーリアンやプレデター自体こういった自然の容赦のなさから想像された産物なんでしょうねえ……。
 見るものの血圧を上昇させ、正気度を低下させる恐るべき巨樹です。

 町指定天然記念物とされているのは「やどり木」たるスダジイの方ですが、コイツには地上1.3メートルでの幹周という概念が通用しないので、データはスギのものです。
 それより驚くのは、このシイの他にかつてはサクラやイチョウまで宿っていたという……なんという宿主体質なスギでしょうか。
 このシイの狂暴ぶりを見ていると、他の寄生者たちをひねり潰して独占したようにさえ見えますね。

 「もっと知られてほしい!」と願うのが巨樹探訪の常ですが、このエイリアンについてはちょっと大っぴらに言う気になれない……
 いや、でも、この夢に出てきそうな凄絶な姿、探訪価値は十分にあります。
 自分の背中を突き破ってこういうモノが這い出してくる、みたいな……そんな初夢、ほんとうに嫌だ。

「鹿島神社のやどり木」
 茨城県稲敷郡阿見町吉原287
 吉原鹿島神社
 推定樹齢:500年(データはスギの方)
 樹種:スギ/スダジイ
 樹高:28メートル
 幹周:5.4メートル

 町指定天然記念物
 訪問:2019.1

 ※2024.9 落雷により炎上

探訪メモ:
 駐車場がなく、バス通りなので注意が必要です。
 バス停脇、物置?のような建物前に少しスペースがあったので、束の間停めさせてもらいました。
 町の文化財のページに記載があるも不鮮明、「巨樹好きなら注目に値する」と再度書きたくなります。

 2024.9.19 追記
 報道によれば、2024年9月18日午後4時45分頃、落雷により炎上してしまったとのことです。

 「樹齢500年以上の御神木焼ける 茨城・阿見町の神社で火事 落雷原因か」(テレ朝NEWS)

 ニュース映像では、黒焦げになった幹のウロから赤々と火を噴いている様子が見られました。
 インパクト強烈、屈指のユニークさを誇る巨樹だったので、再会できなくなったことはとても残念です。

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