巨樹たち

北海道釧路市「光の森のカツラ」

原始の保護林に立つ一本桂

 阿寒湖を取り囲むように広がる3600ヘクタールもの保護森林地帯を管理している「前田一歩園財団」。
 さらに広大な国有林に囲まれていることもあり、指定を受けたガイドの同行がなければ立ち入れない保護林「光の森」に、「全日本巨樹・巨木林の会」のエクスカーション(野外調査)で行ってきました。

 関東の林などとはまるで違う、豊かで美しい自然の景色が続く。
 熊笹がたくさん茂ったかと思えば、色とりどりに色づく紅葉の群生があり、トドマツなどの針葉樹林もあり。

 森の中心部と呼べる辺りに差し掛かると、ポツリポツリ、ひときわ大きな樹が現れます。
 色づき始めた葉の形状、特徴ある幹の姿から、カツラの群生であることがわかります。

 いや、それ以前に、特有の甘い芳香。
 メープルシロップに近いような甘い香り……でありながら、少しコクがあるというか、お醤油っぽいというか。
 例えるなら、パンケーキにメープルとみたらしのタレを同時にかけたような……。
 嗅いだことがない方にはちょっと疑われるかもしれませんが、まず香りがあって、それから姿。実に印象的です。
 黄色くなり始めたハート型の葉っぱがまた美しい。

 巨樹基準を満たすカツラがごろごろありますが、まさにその中心に立っているのが「光の森のカツラ」と呼ばれる巨樹です。
 実を言えば、カツラの巨樹としてはさほど大きな部類ではないのですが(他のカツラ巨樹を見て頂ければ一目瞭然)、これほど整った単幹形状のカツラは珍しい。
 立ち姿が見るからに凛として力強く、多くの樹木が茂るさなかで、浮き立つような存在感を放っています。

 ぐるぐる回りながら眺めてみても、大きく姿形が暴れない。
 幹の途中、取り巻くようにコブ状に膨れ上がったところがありますが、何なのかよくわかっていない、と森林ガイドさんの言。
 冬季は深い雪に埋もれるでしょうし、ある時代、何らかの成長阻害があったのかもしれませんね。

 北海道の他の巨樹にも言えることですが、この樹も古くから現地アイヌの信仰の対象とされていたようです。
 カツラはアイヌの言葉では「ランコ」というらしく、「チプ」という丸木舟を作る材とされています(他にも道具類など用途は多い)。

 とにかく、この立ち姿が印象的ですよね。
 それ自体が小さな森のように広がるカツラ巨樹を見慣れてしまった目には、あくまで「一本の樹」として立つ姿が新鮮でした。

 まだまだ大きくなれそうな気配もある。 
 それこそ、ここからひこばえを発達させて合体して巨大化してもいいわけだし……と、生きるための手段をたくさん持っているように見え、頼もしくも感じました。

 「光の森」という名称は、木漏れ日が美しいからとも、財団の第3代園主・前田光子氏にちなんだ名前だとも。
 この日は財団側から特別に樹に触れても良いという許可が出たそうで、メジャーで大まかな計測をしてみたり。
 貴重な経験でした。

「光の森のカツラ」
 北海道釧路市阿寒町
 前田一歩園財団保護林内
 (一般非公開)
 推定樹齢:不明
 樹種:カツラ
 樹高:30メートル程度
 幹周:6メートル程度

 訪問:2018.10

探訪メモ:
 Googlemapは「光の森」のだいたいの位置。
 上記の理由から一般公開していないので、「行きたい!」と思った方は財団公式ホームページなどを伝手に観察イベントに参加しましょう。
 管理が厳格なだけに、大変美しい森です。

この旅については「2018年・北海道東部巨樹探訪旅3」もどうぞ。

 周囲のカツラ群生を眺めても、どこか雰囲気が本州のカツラの巨樹とは違うように感じました。
 規模としてそれほど巨大にはならず、根やひこばえの数も少ないが、それぞれが太い。
 うねりが大きく、野生的な印象です。
 平らな土地で、雪の重圧があるからか、横方向に大きく枝を展開している樹はあまり見られません。

 ここが沢ではないところも注目すべき点かもしれません。
 本州ではカツラ巨樹のそばには十中八九水の流れがあり、水利によっての巨大化が明らかですが、ここでは分厚い腐葉土の層や長い冬の降雪がその役割を果たしているように思えます。

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