2018年・北海道東部巨樹探訪旅3

阿寒湖、オンネトー周辺、森林ガイドしてもらう

 早朝からカートレッキング(造語、しかし「ホーストレッキング」なら北海道実在)した後、10時に阿寒湖畔に馳せ参じました。
 「巨樹・巨木林の会」のエクスカーションに参加するためです。
 北海道の森林は深く、ガイドさん抜きでは不安が残ります。ヒグーマもいるし。
 今回はさらに、通常立ち入ることができない財団の私有林を案内していただけるとのことで、貴重なチャンスとしか言いようがありません。

 冬季はスキー場になるらしき丘に登り、阿寒湖を眺望。
 前日にまりも博士の講義を長々聞きましたが、あの小島辺りにまりもがいるらしい。

 対岸のオレンジ色っぽくなっているところにはミズナラの大規模な森林があるとのことで、これほどのものは全国的に見ても珍しいそうです。
 ミズナラが減ってしまうとどんぐりが無くなってしまうので、クマをはじめとする野生動物の多くが飢えてしまう。
 その重要さが伺い知れ、今朝見た「双葉のミズナラ」の大きな姿がオーバーラップするかのようでした。

 少し斜面を下っていった茂みから唐突に森へ入るように促される。
 進むと、そこが「前田一歩園財団」の保護林でした。
 非常に多彩な森林風景が見られ、植物も多種を観察でき、面白かったです。

 何茸かよくわからないけど、いかにも食えそうだったので撮っておきました。
 図鑑で見ると、クロサカズキシメジというのに似ている。
 多分、食えるぜ……。

 続きまして、樹に興味がない方は何の写真か全くわからないでしょうが……。
 倒木更新の現場です。
 倒れた木を苗床に、新たな木が育っているところ。

 いずれ巨樹となる樹々でも苗の頃は弱い。
 いかに下草に埋もれずに早く成長するかが生存の重要なカギとなる……その巧妙な手段のひとつがこの姿と言えるでしょう。

 さらに奥には、イロハモミジやハウチワカエデなどの真っ赤な紅葉、ミズナラやイタヤカエデなどの黄葉に彩られたゾーン。
 本当に眩しいくらいに発色が良い。
 ガイドさんによれば、この辺りの紅葉は特に期間が短いらしく、一週間もないらしい。
 「見頃にちょうど来られたのは、あんた方相当ラッキーだよ、僕は明日奥さん連れてまた来よう」
 ……だそうです。笑
 ただしここでは、足元に気をつけないと。

 ほらね。
 ボッコ沼と言って、高温の温泉が絶えず湧き出しており、落ちたら茹でられてしまいます。
 強い硫黄の匂い。周囲も気のせいではなく暖かです。
 阿寒湖周辺にはこういうところがいくつもあり、前田一歩園財団は阿寒湖温泉での温泉事業も行っているのだとか。

 進んでいくと、今度は甘い香りが漂ってきます。
 同時に周囲には本州のものとは少し雰囲気を異にするカツラの樹が転々と現れるようになります。
 カツラとしては巨樹になって当たり前というところかもしれませんが、この個体もなかなか大きい。
 おそらく、樹自体を残すという選択から切られたものと思われます。 

「光の森のカツラ」

 その奥でたどり着いた「光の森のカツラ」
 ほとんど初めて見たと言っていい、純粋に単幹のカツラの巨樹。
 単幹でもやはり杉などとは全く雰囲気は違うし、チープな言い方ですが、ある種のオーラを放っている感じがあります。
 森の中でもとても目立つのですね。
 単幹であるがゆえ、カツラとしては大きくはありませんが、個性的な巨樹だったと思います。

 「切る森から見る森へ」という、初代の言葉を忠実に守って森林を保護してきた財団。
 ならば放っておけば自然のまま保たれるかというと、それもない。
 広報、レンジャー、外来種の侵入を防ぐことも重要。
 「あるがまま」を保つために、多くの手間とコストをかけなければならないわけです。
 実例として尊重すべき森林だと思いました。

 さて、ここで引き返して阿寒湖温泉に一旦戻り、お昼ご飯(ほたて定食でした)を楽しんだ我々は、バスに乗ってちょっと先の国有林へと向かいました。
 まだ歩くんですか? そうなんです。

 鮮やかな紅葉はありませんが、実に「北海道ならでは」の森林風景。
 樹皮が滑らかそうに見えるのがトドマツ、マツ科の中でもモミに近縁の樹。
 日本では北海道と北方領土にしか生育しない寒冷地専門の樹種。

 倒木をヒグマの赤ちゃんが戯れにベアハッグし、跡がついたところ。

 対して、この樹皮がガサガサした勢力がエゾマツ。
 文字通り千島列島、樺太、北海道と、酷寒の地にしか生息していない。

 見ての通り、どこまでもまっすぐで、樹高は40メートルにもなる。
 木材としては密に詰まって狂いがほとんどないため、特に高級ピアノはエゾマツでないとダメという場合があるそうです。
 杉が全く生育できない環境なので、建材としても多く用いられてきました。
 その結果、大規模な純林は少なくなってしまったようです。

 成長は遅く、樹齢150~200年で胸高周囲1.5メートルにしかならない。
 ガイドさんによれば、この看板自体設置から50年くらい経っている疑いがあり、ということは200年から250年の樹々が揃う純林ということになります。
 これはこれで固有の巨木林ですね。間違いなく。

 さらに、樹に興味がない人には何の写真かわからないシリーズ第二弾。
 この裂け目、何が原因かというと、落雷や獣害ではなく……寒さです。
 これが有名な「凍裂」。
 冬、あまりに寒いために樹の繊維内の水分が凍結して膨張し、幹が爆ぜてしまう。

 エゾマツは身を密にして冬場に水分移動を抑制することで防ごうとするらしいですが、トドマツは含水率が高く凍裂しやすい。
 そこからキノコなどが生えてしまうと、かなりまずいことになる。
 樹々は、この地ならではの苦難に立ち向かわねばいけないのですね。

 オンネトー、アイヌ語で「年老いた沼」という意味の名前を持つ湖。
 火山性の湖のために魚が生きられず、日の差し方によっては綺麗な水色に見える(こともある)。
 三脚立てて紅葉を撮影しているカメラマンたちも見えます。
 おそらく風が止んで水鏡になるのを待ってるんでしょうよね(←そういうのを待てない人)。

 エクスカーションのコースはここまで。
 全体として8キロほどを色々勉強しながら楽しく歩くことができました。
 帰り際、ガイドさんが、
 「あっ、そういえば、確かあっちになんかすごくデカい樹があるんですよー」
 とか言い出すのでついて行ったところ……

 何だろこれ。
 いや、確かにでかいし、樹高もかなり高い。
 幹周4メートル、樹高30メートル近くある……今日のツアーの中で最大の巨樹じゃないですか。
 で、樹種は何なんです?
 ガイドさんも、えっ、わかんない……何なのこれ? とのこと。

 ……ドロノキ、らしい。ヤナギ科なのか。

 「泥流や火山活動などによる植生破壊後に真っ先に樹林化する先駆種であり、折れて地面に落ちた枝から根を張ってクローン個体を再生する、落枝条更新と呼ばれる能力を持つ。(ウィキペディアより)」

 絵に描いたような立地なわけですね。しぶとい樹なんだな、あんたは。
 これも初めて見た樹種ですが、実に興味深い。
 木質の特徴、名前の由来等、非常に面白いので、ぜひ読んでみてください。
 こいつのことを忘れられなくなる。笑 「ドロノキ」

 というわけで、最大限有意義な一日を過ごすことができ、大満足でした。
 雌阿寒岳を眺めながら、阿寒湖温泉まで戻りました。

 たまにはプロに教えを乞うのも良いものです。
 特に北海道では有効な手。
 機会があればまた参加するのもいいなと思いました。

(続く)

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