巨樹たち

岩手県奥州市「(江刺伊手)秋葉神社のスギ」

奥州市随一の大杉二組が待ち構える

 岩手県奥州市、江刺。
 宿場町的風情を感じさせるレトロでこぢんまりとした伊手地区に来ました。
 こんもりと高い丘の上に秋葉神社があります。
 目印の看板が小さくて見つけづらいので(電柱の根本にあるのがそれ)、まず、この風景を目印に。

 秋葉神社および秋葉権現といえば、全国的に人気があったとされる火伏の信仰。
 東京の秋葉原も、大火対策の火除け地「アキバッパラ」に由来しているというのは有名な話。
 その秋葉神社への入口が消防小屋とは、これ以上ない正統派じゃないですか。

 石段を登りきると、鳥居を挟み、根本で連理した大きなスギが立ちはだかる。
 さらにその向こうにも、もうひとつ、立派な大杉が見える(トップ写真ご参照)。
 これらが、ひとくくりに奥州市の天然記念物に指定された「秋葉神社のスギ」たち。

 尾根のような細長い土地がそのまま秋葉神社へ続く参道になっている感じ。
 土地の幅の狭さに対して二組のスギが大きすぎる。そんなインパクトがあります。

 まず二本一組のこちら。
 奥州市のサイトにある「奥州市の文化財-改訂版-」の天然記念物PDF資料(P.106)では、この連理スギを「夫婦杉」と呼称している。

 計測数値も掲載されており、胸高で5.57メートル+4.48メートルとのこと。
 数値自体に違和感はないものの、これを合計して幹周10.05メートル、奥州市で一位のスギとするのは、やはりどうしても抵抗がありますね。
 まあでも、別にこだわるほどのことでもないでしょう。
 触れてみると、樹皮が柔らかく、油分すら感じるような健全なスギ巨樹。
 樹高も高く、二本ともまず30メートル以上あるのは間違いなさそう。

 そして、夫婦杉の十メートルくらい先にあるもう一本の大きなスギ、上記市資料によれば、こちらが当秋葉神社の御神木のようです。
 一目瞭然の単幹、素晴らしいスギ巨樹で……

 と、その前に、奥まで進んで秋葉神社に参詣しておきましょうか。

 この江刺伊手の秋葉神社に関する記述は、岩手県内の若手神職による「岩手県神道青年会」のサイト内に見つかる。
以下、抜粋拝借。

 御祭神は火之雷神(ほのいかづちのかみ)。
 太白山高林寺の守護として建立され、棟札には、
 「奉造立 秋葉三尺坊大権現一宇 諸願成就天下泰平 安永九年(1780)三月三日」
 とあり、明治の神仏分離により高林寺は別当職を離れるものの、その由緒から棟札・権現像ともに高林寺本堂に安置されている。

 太白山髙林寺は今も隣にあり、綺麗に保たれています(写真左手のスギ木立が秋葉神社社叢)。
 両寺社は本地垂迹的なセット関係で、祭神の「火之雷神」も、イコール「秋葉三尺坊大権現(火を自在に操り天狗と同一視されたカリスマ修験者)」と解釈されたのかもしれません。
 どちらにしても火伏に御利益がありそうなのは間違いない。もとい、この際、効果はダブルかも。

 明治の神仏分離がその関係を線分してしまうも、日本の信仰体系とは本来こうして融け合っていた。
 クリスマスやって除夜の鐘聞いて初詣に繰り出す現代の我々にも地続きに感じ、これでも別に罰当たりじゃないんだと、大らかな気持ちになれますね。

 秋葉神社側から振り返る格好で見た神木の立ち姿がとてもいい。
 根幹がぎゅっとくびれており、真っすぐ天を衝きつつも、樽型に太さを増している。
 計測値は胸高で6.76メートルとあるものの、幹の最も細い箇所を測ったに過ぎない数値だとわかって頂けるはず。
 上記数値にしても、夫婦杉の合計値を除けば奥州市第一位のスギということになります。

 大枝、幹レベルでの折損も経験していそうですが、見上げるに従って野性味を増していく感じ、福島県「大悲山の大スギ」も彷彿としました。
 管理された神社の神木というより、ここはやはり、秋葉三尺坊大権現の力強さ、山岳信仰由来の厳めしさも重ねてイメージしたくなる。
 ひとことで言えば、実にかっこいいスギ巨樹です。

「(江刺伊手)秋葉神社のスギ」
 岩手県奥州市江刺伊手荒谷55
 樹齢:不明
 樹種:スギ
 樹高:30メートル以上
 幹周(胸高):6.76メートル/5.57メートル+4.48メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2024.4

探訪メモ:
 消防小屋から入って左手すぐのところに広場があります。
 奥州市を代表する桜「梁川のエドヒガン(種蒔き桜)」も車で15分くらい。

4件のコメント

  • RYO-JI

    全国各地にあるであろう夫婦杉はその評価がとても難しいですね。
    ハッキリ言っちゃうと合体度がすべて、となるのは幹周を意識しちゃう巨樹愛好家ならではかも。
    しかし5mクラスのスギが触れ合って鎮座する様は、本来それだけで見応えあると思います。
    この夫婦杉もそう、素直に有難く拝見させてもらうのが宜しいですね。

    御神木の方は確かに格好いいスタイル。
    根元は太いけどすぐにシュッとしているスギより、根元がクビれててその後はズドンと太い方がインパクトあって好きです。
    というか最後のヒューマンスケールで、あっと声を上げてしまうくらいに立派なスギだと認識できました。

    • RYO-JIさん
      連理してるスギを見かけると、ひょっとして……と勘ぐって、ああやっぱり「夫婦杉」! とたいていなりますね。笑
      ここまで明確に離れているとかえって無理な解釈が必要なくて気が楽です。
      根本レベルを見るとけっこう破綻なくくっついていて、痛みも少ない良い巨樹です。

      単幹の御神木の方はリサーチ情報を実物が上回る感じがありました。
      6メートル台の数値のスギでは……と選別されそうですが、間近で見ると巨体感は結構なものです。
      わざわざここまで足を運んでよかった! と十分言える良いスギでした。

  • to-fu

    ああ、まさかの巨樹記事を見逃していたとは!(後で気付けるとそれはそれでお得感があります)

    雰囲気いいですねー。夫婦スギと単幹の御神木も大したものですが、山門とその目の前にスラッと構える
    対になった門杉を見て「おおっ!」と声が漏れました。なんと清々しい一枚絵。
    樹木としての迫力で言えば県内にまだまだ大物があるに違いありませんが、ちょっと天気のいい休日にふと思い立って
    眺めに行きたくなる巨樹って実はこういう場所なんだよな…と、その場で見てきたかのような感想が浮かびました。見てもいないくせに。

    しかし奥州市って盛岡の近くというイメージしかなかったんですけど、まだまだ仙台との中間地点と
    言っても間違いではないくらいの場所ではありませんか…縦に長すぎだろ岩手県 笑

    • to-fuさん
      チェックしてくださってありがとうございます。笑
      こりゃあローカルだなあと思いつつも、記事にするのが楽しくて増やしてしまう巨樹探訪。ですね。

      無人でもすごくきれいに管理されているところ、訪問者として頭が下がります。
      また、岩手にはそういうところが多い気がしますね。
      冬は寒く、春夏も短い。だからこそこの時期は空気そのものに喜びが含まれている気がして、そこがまた心地良いです。
      そう、土地がとにかく広すぎる。笑
      そのせいか、みんなあまり急いでいない。急いたってしょうがねえだろ、みたいな感じじゃないかなと。
      岩手に身を置くたび、そういうのもいいな、こういうとこに引っ越したらどうかなあ……と思い浮かべてしまいます。
      いやまあ、冬は本ッ当に寒いんですよね、岩手は……。

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