巨樹たち 秋田県由利本荘市「岩館のイチョウ」 / 4 コメント 里の秋の明るき篝火 コロナ禍中2020年秋、ひっそり秋田巨樹探訪。 秋田の南の入り口、湯沢市で「川面のホオノキ」に再会した翌日、北上して由利本荘市に入りました。 北国の秋は早く、短い……ならば断然、目指すはイチョウの黄色ですよね。 色づいたイチョウ巨樹は、マンション広告の光の柱なみによく目立つ! ……しかし、所在地付近で黄色を自動追尾するも、見つかるのはヒヨコばかり。 そのワケに、到着してから納得しました。 1、県道30号、バイパス、国道が立体交差していて、出口を間違えると戻るのが面倒。 2、岩館集落は石沢川が大きくカーブして環のようになった内側にある。 3、その上、イチョウ擁する諏訪神社は集落のさらに懐の中。主要道路から全く見えない。 焦らず、心に余裕をもって探してみましょう。 かくして、早朝の靄の中、なんともいいムードの神社参道に辿り着きました。 ここまで来てもイチョウのイの字もありませんが、巨樹愛好者には必ずわかる。 のどかさ、静けさの中に漏れ出ている、何者かの気配が……。 なんて。 その前に「県指定天然記念物 岩館のイチョウ 駐車場」と書かれた看板を発見して安堵と確信を得ているわけですが。 それでも、鳥居をくぐって拝殿を前にしてもまだ姿が見えない。なかなか焦らす大イチョウです。 ようやく対面しました。「岩館のイチョウ」です。 まずゲンキンな嘆息、「ああ、まだ早かった!」。 陽当たりや気温が足りていないのか? 数十メートルしか離れていない1号/2号樹でも黄葉時期がバラつく茨城県「西連寺大銀杏」などを考えると、巨樹ゆえ、個体差もあるのかもと。 しかし、爽やかな黄緑色の中にも一部黄色の兆しが見え始めている。 何よりこの旺盛な樹勢、これが全て色づいたとすれば、写真の色を徹底的に飽和させてしまうに違いない! 樹冠の作り方が均一でないのはイチョウならではですが、おおむねどの角度から見ても傘のような黄緑色に覆われる。 これが空間的にとても気持ちいい。 洗い出したかのように広く平らに広がっている根が印象的。 流動的でありつつ、触ってみるとめちゃくちゃ硬い。 地表そのものになっていて、すごく安定感があります。 面白いのは、幹に付属している石碑や賽銭箱など。 「公孫樹大神」とあり、公孫樹とはもちろんイチョウの別名ですが、樹に直接鈴の緒まで取り付けてあって、これだけでシンプルな神社として機能するんですね。 祈念されるのは言うまでもなくお乳の出、つまり気根を乳に見立てた乳銀杏信仰。 宮城県「苦竹のイチョウ」など過剰なモノと比べてしまうと、気根の数はそれほどでもないな……と思ってしまいますが、ここでは、「ぬかを白い布で包んで乳首を付けた模擬乳房を供えて祈る」という独特なディテールがあるのだそうです。(「秋田の巨樹・古木」より) 有名なイチョウ巨樹には、ほとんど欠かさず乳イチョウ信仰がある。 しかし、これまで訪ねた巨樹を思い浮かべれば、岩手県「黄海のイチョウ」と上記「苦竹のイチョウ」以外、全て雄の樹だったりします。 この「岩館のイチョウ」もギンナンの気配がなく、どうも雄のように思えますね……(探した限りでは性別の記述は見つけられなかった)。 まあ、当時は植物に性別の概念はなかったのかも。 樹幹周囲9.2メートル、樹高・枝張直径各30メートル、樹幹途中からの新枝六本により分枝型で樹齢は三百年以上と推定される。 このイチョウは、古来有名で「下村古来物語」はじめ多くの文献にも記され、由利十二頭の一人、下村氏が信州から下着(げちゃく)のときの乗馬のムチが根付いたものであるともいわれている。 また、樹皮の乳瘤を乳房に見立て、乳不足の婦人が願をかければ乳の出がよくなるという言い伝えから「乳房のイチョウ」とも呼ばれ、沢山の伝説も残されている。 昭和五十七年一月十二日秋田県天然記念物に指定された。 東由利町教育委員会 満喫するあまり解説を撮ってませんでしたが、内容は上記。 「岩館」は「城館」の意味らしく、言われてみれば、ぐるりと囲む石沢川は天然の濠に見えなくもない。 「御坪木いちよう今程弐丈廻り、此木上方より御馬のむち御指木に被成候由申伝候」 ……という一節がネットで見つかり、「下村古来物語」が成立した元禄七年(1694)年頃?にはすでに幹周二丈(6メートル)くらいの巨樹だったと読めます。 この時点で樹齢500年は固いのではないでしょうか。 何の不安もなく「見事だなあ」と堪能できる。 里山を明るく照らしてくれる秋の篝火です。 「岩館のイチョウ」 秋田県由利本荘市東由利蔵岩舘49 諏訪神社 推定樹齢:300年以上 樹種:イチョウ 樹高:30メートル 幹周:9.2メートル 県指定天然記念物 訪問:2020.10 探訪メモ: Googlemap等で予習していけば迷わないはず。 専用駐車場には3、4台停められると思います。 黄葉は11月上~中旬か。 秋田県のサイト等に言及がなく(県天なのに)、SNSや旅行サイトに頼るしかなさそう。 関連
to-fu 2023年5月13日 at 9:00 PM 返信 おお、これは凄い。シンプルに巨大なイチョウですね。 このイチョウの存在は知りませんでした。 流石はイチョウ王国の東北…こんなのも控えてるのか。 たぶん再測定したら余裕で10m超えているのではないですかねえ。 広い平地に生えているのでまだまだ大きくなりそうですが、鳥居の右手に見えるのはひょっとして この方の2世樹?これらが育って境内に並ぶ頃には、まるで一つの山みたいな黄葉が眺められそうです。 去年はイチョウの黄葉を見ぬまま秋を終えてしまいましたが、私も今年こそは。
狛 2023年5月14日 at 8:37 AM 返信 to-fuさん> 現地の雰囲気に呑まれて気付きませんでしたが、おお、確かにこの黄色はイチョウの若木かも。 挿して根付いたものかもしれませんね。 樹高より枝張りが見事なタイプで、超広角の横構図での撮り甲斐がありました。 なので、ぱっと見そこまで大きな幹周に見えないかもしれないんですが、素で9メートルを超えてきている。結構なスケールです。 これより北上すれば青森にかけいよいよイチョウ王国なのだな……との気配を感じさせる巨樹でもありますね。 まだ見ぬ北東北、異国感すら感じる青森、じっくり回ってみたいですよねえ。 今年からまた再起動ですね。
RYO-JI 2023年5月14日 at 4:49 PM 返信 黄葉時じゃなくて残念ではありますが、天候も相まって神社参道の雰囲気がとてもいいですねぇ。 いきなりバーンというのもインパクトがあって好きですけど、参道を抜けていよいよご対面・・・も徐々に気分が上がってきて悪くない。 やはり東北のイチョウはスケール感がまた独特ですね。 そして私的には関西でいうクスのようなイメージで、とても地域に馴染んだ存在に思えます。 巨樹信仰は各地に見かけられて日本的でいいなぁと思います。 直接鈴の緒まで取り付けてあるのは珍しい。 ぜひまた黄葉時にも見たいですね!
狛 2023年5月14日 at 7:13 PM 返信 RYO-JIさん> 思い込みもはなはだしいのですが、イチョウ巨樹ってすぐに目について迷うことはないモノだと思ってました。 そう来ましたか、と同時に、イチョウと神社のための専用空間を作ってもらっているようで、居心地の良い場所でした。 ベンチもあって、朝露で濡れてなかったらここで小一時間過ごしたかもしれません。 もし黄葉していたら、二時間は軽い……?笑 確かにそうですね、クスが生育する地域であれば、ここにあったのはクスでしょう。 スギはもっと拝殿に対しての距離感や関係性が密接なようで、こういう位置には植えられていないように感じますね。 それに、確かにクスとかイチョウの神木は、スギと比べて我々との距離感がずいぶん近い。 コワい感じもしないし、そこがまた乳銀杏のような優しい信仰に繋がるのでしょうね。
4件のコメント
to-fu
おお、これは凄い。シンプルに巨大なイチョウですね。
このイチョウの存在は知りませんでした。
流石はイチョウ王国の東北…こんなのも控えてるのか。
たぶん再測定したら余裕で10m超えているのではないですかねえ。
広い平地に生えているのでまだまだ大きくなりそうですが、鳥居の右手に見えるのはひょっとして
この方の2世樹?これらが育って境内に並ぶ頃には、まるで一つの山みたいな黄葉が眺められそうです。
去年はイチョウの黄葉を見ぬまま秋を終えてしまいましたが、私も今年こそは。
狛
to-fuさん>
現地の雰囲気に呑まれて気付きませんでしたが、おお、確かにこの黄色はイチョウの若木かも。
挿して根付いたものかもしれませんね。
樹高より枝張りが見事なタイプで、超広角の横構図での撮り甲斐がありました。
なので、ぱっと見そこまで大きな幹周に見えないかもしれないんですが、素で9メートルを超えてきている。結構なスケールです。
これより北上すれば青森にかけいよいよイチョウ王国なのだな……との気配を感じさせる巨樹でもありますね。
まだ見ぬ北東北、異国感すら感じる青森、じっくり回ってみたいですよねえ。
今年からまた再起動ですね。
RYO-JI
黄葉時じゃなくて残念ではありますが、天候も相まって神社参道の雰囲気がとてもいいですねぇ。
いきなりバーンというのもインパクトがあって好きですけど、参道を抜けていよいよご対面・・・も徐々に気分が上がってきて悪くない。
やはり東北のイチョウはスケール感がまた独特ですね。
そして私的には関西でいうクスのようなイメージで、とても地域に馴染んだ存在に思えます。
巨樹信仰は各地に見かけられて日本的でいいなぁと思います。
直接鈴の緒まで取り付けてあるのは珍しい。
ぜひまた黄葉時にも見たいですね!
狛
RYO-JIさん>
思い込みもはなはだしいのですが、イチョウ巨樹ってすぐに目について迷うことはないモノだと思ってました。
そう来ましたか、と同時に、イチョウと神社のための専用空間を作ってもらっているようで、居心地の良い場所でした。
ベンチもあって、朝露で濡れてなかったらここで小一時間過ごしたかもしれません。
もし黄葉していたら、二時間は軽い……?笑
確かにそうですね、クスが生育する地域であれば、ここにあったのはクスでしょう。
スギはもっと拝殿に対しての距離感や関係性が密接なようで、こういう位置には植えられていないように感じますね。
それに、確かにクスとかイチョウの神木は、スギと比べて我々との距離感がずいぶん近い。
コワい感じもしないし、そこがまた乳銀杏のような優しい信仰に繋がるのでしょうね。