巨樹たち

千葉県長生郡「諏訪神社の大楠」

大楠、半山と化す

 千葉県の太平洋側の真ん中あたりに位置する長生郡。
 緑豊かなのどかなところで、海沿いはサーだのファーだのいう人たちが多いところで、街並みにもそういう雰囲気が色濃く漂っています。「九十九里浜」といえば、その雰囲気がなんとなく、県外の方にも通じるのではないでしょうか。
 その長生郡の内陸、睦沢町に、幹周9メートルを誇るクスがあると知り、出張がてら行ってみることにしました(休日なのに遠くまで仕事のお使い)。

 樹があるのは、諏訪神社の境内。
 高台へ登る石段の急なこと急なこと。手すりを離すと仰け反ったまま落ちそうになります(写真ではなぜか緩やかに見えますが)。
 石段の頭上に門被り状に張り出したイヌマキの樹もなかなかのものです。
 やはり千葉県といえばイヌマキの勢力強し(イヌマキ巨樹「長福寺のマキ」もどうぞ)。

 丘のてっぺんを均して境内にしたような地形で、取り巻くように竹林や雑木林が茂っています。
 その右手を見てみると……

 ありました。これがその大楠です。
 茂りに隠れているところもありますが、ぱっと見、多くの方がこの樹の樹形に疑問を感じられたのではないでしょうか。

 ……それで合っています。
 どんな形をしているのか、一見しただけでは把握できない。
 大楠は斜面に広く根を張って踏ん張りながらも、その半身はすでに崩壊しつつあるのです。

 回り込んでみると、左手側の半身はまだ健在のパーセンテージが高い。
 9メートルの幹周は伊達じゃないというボリュームを見せつけてくれます。
 正面ではなく、この角度から見て初めてこの樹の幹の巨大さがわかるというもの。樹勢のよい大枝もこちら側から伸びています。

 すぐそばからひょろ長いケヤキの木が伸びており、楠の枝と接するところでちょうどYの字になって、枝を支えるような形になっています。
 おそらく、ケヤキがぐんぐん伸びて行った先に大枝があり、ぶつかってYの字に分岐したのでしょう。
 しかし、せっかく添え木みたいに育ったのに、今では楠の大枝は折れたか枯れたか、すでにありません。

 樹を取り巻くように斜面を登る足場が作ってあり、クスにかなり接近できます。

 寄ってみると、右半身は明らかに白骨化していて、今にも崩れ落ちそうです。
 急な斜面に立っていて、大枝の重量と重力に引き裂かれて倒壊しないか、心配になりました。

 裏側はどうなっているのだろう、と、危なっかしい単管パイプの足場を登って行こうとして……思わず、半ば飛び降りてしまいました。
 おそらく、茂みに巣があるのでしょう、人差し指ほどもあるオオスズメバチが哨戒しているではないですか!
 ちょうど顔の高さくらいを飛びながら、大きな羽音を立てて旋回し、明らかにこちらを威嚇しています。
 いかに樹を見にここまで来たとは言え、コレを無視できる人はそうはいないんじゃないかと思います……。
 そういうのをプロ根性と言うかは別問題、深追いはやめることにしました。

 解説文。
 江戸時代にはすでに「盤根半石と化し」と書かれるような巨樹だった様子。
 802年に植樹という記録が正しいなら、樹齢は1200年あまりになります。

 クスの本場は西日本や九州。
 関東でここまでの巨樹に出会えるのは、この房総が南国なみに温暖だという証拠です。

 もしかしたらクスは「放っておいてくれ」と言っていたのかも……。
 その意思を、蜂を使って伝えて来たのかもしれませんね。
 あまり枚数は撮れませんでしたが、一礼し、その場を後にしました。

 ここまで朽ちると元どおりにはならないと思いますが、ご神木としての風格は確かにある。
 末長くここに立っていて欲しいものです。

「諏訪神社の大楠」
千葉県長生郡睦沢町上之郷
推定樹齢:1200年
樹種:クス
樹高:23メートル
幹周:9メートル

町指定天然記念物

訪問:2016.11

 探訪メモ:
 急な石段とスズメバチ注意!
 それを除けば、高台から眺める房総の田舎町の風景や雰囲気も楽しめます。
 

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