巨樹たち

福島県郡山市「紅枝垂地蔵桜」

「滝桜の娘」

 福島県郡山市の山中の道をくるくる走り回って、ぽっと開けた集落に、遠くからでも目を引く大きなしだれ桜が立っていました。
 幸運にもちょうど見頃の花は濃いめの紅色。
 その名も「紅枝垂地蔵桜(べにしだれじぞうざくら)です。

 三春町には固有名を持つ名桜がいくつもあり、かなり広範囲に渡って道案内板が設置されてもいる。
 時間さえ許せば、これ以上ないほど豪華な桜めぐりができます。

 しかし、桜は難しい。
 よほど計算上手でなければ、一回の春で網羅は叶わないでしょう。
 今回の訪問は4月23日(※2017年)、三春町でエドヒガン系の桜が満開になる時期にちょうど当たっていたようです。
 言うまでもなく、毎年そうだとは限らない(2019年は完全に外しました)。

 幹周4メートル、樹高16メートル、枝張り18メートル。
 桜の樹として、この大きさはかなりのものです。
 エドヒガンは長命種であり、街中のソメイヨシノ並木などとは明らかに存在感が違う。

 かの誉高き「三春滝桜」直系の子孫とされている。
 なるほど何となく雰囲気が似ていると感じますが、現に三春滝桜から地蔵桜までは車で10〜15分という位置関係でもある。

 また、この「地蔵桜」は、福島県の地方新聞福島民報が作成した「福島県内【一本桜】番付表」では、三春滝桜に次いで二番目となる西の横綱とされている。
 名実ともにナンバー2を張れる立派な桜と言えるでしょう。

 滝桜同様、エドヒガン中のベニシダレという品種とのこと。
 無数に枝垂れる紅色の花は、かなりの見応えです。

 この紅色の濃い花は、写真撮りにもありがたい題材。
 どうしても白く霞んでしまう桜の花に、色調整を無理にああしてこうして……なんて無粋なことを考えずとも済みますよ。

 すぐ足元にあるのは、かつて子供の長生きを願掛けしていた延命地蔵尊。
 直立する逞しい一本幹を間近で見ることができるのも、この樹の良いところ。
 全く健康そうで、頑丈そう。巨樹のパワーをもらおうと、触れていく人も多い。

 それにしても全体のプロポーションが見事です。
 背が高いし、人は皆、目の前に来ると、ウワー! とか声を漏らして……無我夢中で写真に撮ろうとしてしまう(自分もです)。

 どの枝も満開、地蔵桜の状態は万全で、「どこからでもかかってこい!」とでも言っているかのよう。
 さて、どうしたものかと……しばしぐるぐる。
 これほどのサクラ巨樹での「お花見」は、みんなで騒いで酔っ払って、とはいきませんね。

 立派な「地蔵桜縁起」碑があります。
 最後の「木目沢さん」で、泣く(涙)。

 文中に出てくる木目沢(きめざわ)伝重郎氏は、1960年代に滝桜周囲の枝垂れ桜の分布について調査を行った方だそうです。
 滝桜を中心とした半径10キロに大きなベニシダレが400本以上も確認された。
 滝桜から離れるほど細くなる傾向もあり、鳥や人が運んだ滝桜の子孫たちであると断定された……。

 現在、滝桜の種子が世界中に求められ、旅立っている。
 そしてなお、地蔵桜はじめとする子孫たちと当の滝桜が、同じ春を満開で彩っている。
 なんとも胸熱くなる物語、美しき景色です。

「紅枝垂地蔵桜」
福島県郡山市中田町木目沢
延命地蔵尊
推定樹齢:380年
樹種:エドヒガン
樹高:16メートル
幹周:4.1メートル

市指定天然記念物

訪問:2017.4.23、2018.4.8、2019.4.14

 探訪メモ:
 お花見時期には大変混み合いますが、近くに20台くらいは停められる駐車場がオープンします。
 ルート上の理由から、地蔵桜→滝桜で行くことが多いかも……。

福島県郡山市「五斗蒔田の桜」

「丘の上のヴィーナス」

 「紅枝垂地蔵桜」から1キロ未満の距離にあるエドヒガン。
 こちらも「滝桜」の子孫だとされ、見上げる丘の上、空をバックに咲く姿は非常に絵になります。
 (が、訪問時は勇み足……)
 この素晴らしい立ち姿から、「丘の上のヴィーナス」などと通称されているとか。 

 こちらもぜひ一度は満開を拝んでおきたい、名桜と呼ぶにふさわしい一本です。

「五斗蒔田の桜」
 福島県郡山市中田町木目沢五斗蒔田247
 推定樹齢:150年
 樹種:エドヒガン
 樹高:15メートル(見当)
 幹周:3メートル以上(見当)


 訪問:2019.4.14

探訪メモ:
 個人所有とのことですが、大変ありがたいことに自由に見学させて頂けます。
 ただ、おそらく満開時期には渋滞が発生し、下車もままならないのでは……。

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