石川県珠洲市「新宮神社のスギ」
鬼神の怒髪か、神々の武具か
能登半島の先端に位置する珠洲市。
その輪郭をトレースするようにドライブするつもりが、いつの間にか内陸の方に道を間違えていました。
昼を回っていたので、道の駅的な施設「寄り道パーキング 若山の庄」で昼食をとり（牛スジカレーが美味かった……）、そこの観光案内で、すぐ近くにこの大杉があるのを知りました。
ノーリサーチ、言うなれば偶然の出会い。
「能登半島の輪郭」に戻るにせよ、ついでに見に行かない手はない。
そのくらいの軽いつもりで立ち寄りましたが……想像以上に強烈な個性を持った巨樹でした。
「新宮神社のスギ」です。
ぽつぽつ農家風の家々が並ぶ中を歩いていき、新宮神社参道に辿り着く。
のぼりが立っており、ここにあるスギの巨樹にあやかってパワースポット的見どころと仕立てたいようです。
幸い、と言っていいのかわかりませんが、他の見物客はおらず。
期待しながら石段を登っていきます。
スギ巨樹と一言に言っても、ウラもオモテもあるし、千差万別。
この場合は、さあ、どんなでしょうか。……驚く準備はできていますか？
ど……どうでしょうか、この大杉の有様。
石段から徐々に姿が明らかになるに従って、ウワッと声が漏れました。
こんな樹形のスギ、見たことありますか？
わざわざ説明するまでもない、この恐るべき数の枝、枝、枝。
覆いかぶさってくるかのような迫力に圧倒され、スギとはこういう樹だったか？ と目を疑います。
枝々の放つ鬼気に慄きながら近づいてみると、幹自体はまぎれもないスギのもの。
もちろんウラスギでしょうが、実にまっすぐで逞しい。
幹周6.3メートルは、スギ巨樹としては並ほどですが、どっしりとしていて破綻がない。
が、少し視線を持ち上げるだけで、恐ろしい天変地異に見舞われることになります。
一体何があったんだ？ あんたは一体誰なんだ！？
見る者に動揺を与えずにはいない驚異の景観です。
推理してみる……。
直っすぐ立ち上がっていた主幹が、ある時大規模に枯損したのでしょう。
スギは分岐して補おうとするわけですが……その場面において、何らかの超常スイッチがオンになったようですね。
怒りのあまり振り乱された長い髪のようにも見えてきました……。
一方で、明らかにギャップのある幹を入れて全体像を把握すると、神様の武器のようなフォルムだとも感じます。
秩序と無秩序が唐突に合体し、ひとつの巨大な物体として、しかも生命を得てそこに鎮座している。
得体の知れない迫力とエネルギーを感じさせる巨樹です。
境内はきれいに手入れされ、ちょうど杉を視界に入れやすい位置にベンチが置いてあったり、良い環境でした。
鬱蒼とした感じの中で見たら、この巨樹は、かなりコワい印象になっていたかも知れませんね。
神社から少し離れてみると、巨樹としての大きさがよくわかる。
樹勢は旺盛。徳島県「桃原の牡丹杉」などとともに、巨杉界の異端児と呼べるスギでしょう。
「新宮神社のスギ」
石川県珠洲市若山町１７
新宮神社
推定樹齢：500年以上
樹種：スギ
樹高：30メートル
幹周：6.3メートル
市指定天然記念物
訪問:2017.5
探訪メモ：
上記のように「寄り道パーキング 若山の庄」に写真入りの地図がありました。
神社の駐車場はないので様子を伺って路肩に停めました。
幹周の数値以上に一見の価値あるスギでした。
2024年追記：
能登に震災があり、不安視していましたが、Googlemapの探訪者さんのログを見る限りでは、現在も存在しているようです。
ただし、この無数の枝は前年までにだいぶ剪定されていた様子……。
やはりアンバランスで、枝折れや管理の難しさがあったのかもしれません。
もう一度足を運びたいと願うとともに、能登、珠洲の一日も早い復興を祈ります。