巨樹たち

宮城県涌谷町「柳沢の皂莢 」

道で出会った老サイカチ

 祇劫寺でマルミガヤ国天のコウヤマキを見て引き返す途中、立ち寄った場所があります。

 向かう道中、路肩に明らかに巨樹の基準を満たしているであろう大きな樹を発見してしまい……しかも、一目見ただけではそれが何の樹なのか、樹種判別ができなかったのです。
「巨樹だろアレ! ええっ、何の樹だ?!」
 ……再現するとそんな感じで。慌てました。

 何の樹だろう。初めて見る樹形、樹皮、葉の形です。
 やはり天然記念物指定されているらしく、傍らに解説板も見つけました。

 皂莢……難読ですが、サイカチ! サイカチの樹か!
 知らないわけではありませんが、身の回りには生えておらず、巨樹と遭遇するのは初めてのことです。
 なるほど、足下の側溝にマメ科の証拠である巨大な鞘に入った種子(豆)がたくさん落ちていました。
 フジやネムノキも豆科なので樹下は似たような状態になってますね。

 幹を確認。おお……と思わず声が。
 老樹の常で傷みがかなりありますが、コロナの巷で人知れず良い季節を迎えているという面持ち。眩しいような黄緑色の若葉を迸らせています。
 やはり周囲の植林樹や雑木とは明らかに存在感が違い、目を引きます。

 解説板によると「柳沢の皂莢」というらしい。
 町指定の天然記念物、推定樹齢400年とのこと。

 この樹の負っている損傷は軽くない。
 明らかに大枝がもげた痕があり、それとともに幹が上から下まで大きく裂けてしまっている。
 そんな状態の巨樹を前にすると気分が重くなりがちですが、この樹の場合、不思議とそうは感じませんでした。
 受けるのは、全く逆にとてもポジティブな印象。
 長く生きてきたことの重さを滲ませつつ、この初夏を全身で喜んでいるかのような。

 ああ……偶然にも良い樹に出会ったもんだなあと感じ入りました。
 あるいは、コロナ謹慎が長かったことも影響しているのかも。

 美しい新緑。この明るい季節の賜物です。
 冬枯れの季節でも注目したとは思います(「枯れています」⭐︎1……などとはしません)が、ここまで訴えてくれたかどうか。
 幹は裂けて不朽しかけていますが、樹皮の端が強固になり、新たな枝を育んでいるように見えます。

 サイカチ。
 改めて調べてみると特徴豊富な樹種です。
 前述のように豆をつける(よく見たら、足下には豆の小山ができていました)。
 この豆は薬になり、痰を止める薬や利尿薬になったりする。牛や馬の薬にもなる。
 また、この莢にはサポニンが含まれていて、手で揉むと天然の石鹸になる。洗髪や骨董品を洗うのに現代でも有用。
 枝は長いトゲだらけだが、このトゲも漢方ではリウマチ薬として用いられる。
 豆は硬く、おはじきにして遊べる。傷つけられないと吸水しないので、サイカチマメゾウムシの幼虫に齧ってもらわないかぎり発芽しない。 

 ……云々云々。
 めちゃくちゃ面白いじゃないですか。

 さらに加えると、地方によってカブトムシのことを「サイカチ虫」と呼ぶと読んだことがありましたが、これはサイカチが樹液をよく出し、カブトやクワガタが集まるからだそうです。
 この大サイカチも、拡大してみてください、液が垂れているように見えないでしょうか。

 サイカチの巨樹との初対面でつい興奮して色々書き連ねてしまいました。
 巨樹としてのサイカチをざっと検索すると、幹周6メートルを超えるとランク上位。多くが東北に分布しているようです。
 この樹にも愛着を感じますし、今後ぜひ注目したいと思いました。豆を拾ってくるのも楽しそうです。

 柳沢という地名に関係……はないと思いますが、少し祇劫寺方面に走ると、大きな柳の樹も目につきました。
 胸高幹周3メートルちょうどくらいでしょうか。
 こちらも大きく枝折れした痕がありますが、道路に盛大に枝垂れている姿は目を惹きます。
 こうした予期せぬ出会いはとても楽しいものです。

「柳沢の皂莢」
 宮城県遠田郡涌谷町小里柳沢
 推定樹齢:400年
 樹種:サイカチ
 樹高:23.05メートル
 幹周:4.22メートル
 (地上1.5m)

 町指定天然記念物

 訪問:2020.5

 探訪メモ:
 下車0分なので、アクセス難も0。
 駐車スペースも0ですが、見通しが良い道路なので路肩に停めさせて頂きました。
 念のため事故にお気を付けて。
 また、個人の所有とのことですので、無闇に土地に踏み込まないようにしましょう。

 余談:
 この樹の場合、「皂莢」と書かれていますが、一般的に変換できるのは「皀莢」と、ちょっと字が違います。
 さすがに無さそう……と思って調べてみると、GoogleMapでは既に登録されており、字もこの通り。
 ネット社会はすごいもんです。
 ちなみに「皀」は「香」の異字体だそうで、「良い香り」を意味しているそうです。
 サイカチは「梍」と一文字で書く場合もあるようです。

4件のコメント

  • to-fu

    サイカチ、皀莢、皂莢…いやあ恥ずかしながら読めませんでした。
    名前だけは聞く樹種ですがマメ科であることを含めて全く知りませんでしたよ。
    ちょっと調べてみたら京都市内に「皀莢町(さいかちちょう)」という地名があるみたいです。サイカチの巨樹自体は仰るように関東以北のものがほとんどのようですが、京都市の隣の亀岡市にも一応巨樹巨木クラスのものがあるそうで。サイズ的にスルーしていましたが、なるほど確かに調べるほどに面白い樹種ですね。実際にこの目で見てみたくなってきました。

    それにしても美しい新芽ですね。巨樹探訪の再開にふさわしい新緑。
    こういう写真映えする緑を見てしまうと、今すぐにでも出発したくなって困ります。

  • to-fuさん>
    読んだ覚えはあるんですが、この字面をいきなり出されると、語尾に「?」がつきますよね。
    マメ科は種類がとても豊富で、草から蔓から巨樹まであるし、特徴豊富で調べるのも楽しかったです。
    海側の生活ではほとんど視界に入ってこなかったですし、山野の樹ということなんでしょうかね。
    しかも日本の固有種。植物の色々な側面をフルに活用していた昔の人の生活を想像させてくれます。

    東北の巨樹を探しているとサイカチもちらほら出てくるんですが、それのみのために出かけたことはありませんでした。
    一度前に立つことができると、見方がわかりますね。
    今後また楽しめそうな樹種が見つかって嬉しいです!

  • RYO-JI

    巨樹情報を探っているとたまに目にする樹種ですが、そのサイズ感的にいつもマークせずにいました。
    しかしなんという個性派、何かとお役立ち度の高い樹種じゃありませんか!
    今後見方が大きく変わりそうです。

    そして充分巨樹らしい貫禄を醸し出せる樹齢とその見た目に惹かれます。
    樹皮から感じる歴史や幹の痛々しさと新緑とのギャップがスゴイですね。
    そりゃこんなのがドライブ中に目に入ったら驚いて急ブレーキもんですよ(危ない)。
    偶然に出会った巨樹はより印象深いものとなるでしょうね。

    • RYO-JIさん>
      これをいうとアレなんですが、サイカチの巨樹があるところ=のどかな田舎、という印象があります。笑
      とっつきからすれば、どうしても5、6メートルの幹周のものは後に回してしまいますね。
      サイカチは特徴だけ列挙すればトップクラスの樹種かもしれません。
      スギ、ヒノキなんかはそりゃあ建材としてはものすごい需要ですけれども、これだけ色々な部分を色々なジャンルで活用できるというのは大変面白いです。

      傷みがあって、御神木でもないので治療もされていない。
      それでもまるで自分には自分の生き方がある! と言わんばかりの新緑に心が躍りました。
      前にRYO-JIさんに奈良で見せてもらった路肩の巨樹もそうでしたが、うわっ! と声が出ますよね。
      絶対帰りに寄る!! と、良い出会いでした。

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