埼玉県比企郡ときがわ町・巨樹探訪旅

 埼玉県比企郡ときがわ町(漢字で書くと都幾川町)は、海のない内陸の県・埼玉でも最奥部に位置します。
 風景通り、かの秩父にも近いところで、いかにも巨樹がありそうな空気が漂っています。

 巨樹探訪で埼玉県に乗り込むのは初めて。
 関東でも海側の辺境に住んでいる者とすれば、埼玉は人口高密度な都市部のイメージ。
 それゆえに足が向かなかったというのもありますが、ときがわ町は全く違う。

 町の8割以上が森林。主要な産業は林業と観光だそうで、サイクリングやツーリングの人気も高い。
 本格的に探索を始める前に給油に寄ったら、泥だらけのモトクロスバイクに行き合う。そういう町でした。

 代表格と言える「萩日吉神社の児持杉」
 この大杉のユニークな形態に目をひかれ、ときがわ町に行ってみたいと思い立ったのです。
 近いようで遠い道のりでしたが、見に来られてよかったという実感が湧きます。

 神社の森も濃く、森閑とした雰囲気……だったのですが、人気があるのか、お詣りの方が頻繁に訪れる。
 おまけに、例の聖地巡礼というやつでしょうか、何かのコスプレをした人たちが撮影会をしていたりも。

 次に、萩日吉神社から程ない位置にある大カヤを探します。
 道筋はあるものの、途中から木道は消え、滑りやすい獣道みたいな感じになってきました。

 何度か滑って四つ足で歩いたり、倒木をくぐって背中が汚れたり、一時的にはトレッキングと言っても過言ではないコースかも?
 ヘルメットまでは要らずとも、防水防滑のトレッキングシューズにステッキやポールなど、それなりの装備は準備しておきたいものだと思いました。

 森の中に「西平の大カヤ」が見つかりました。
 これほど野性味のあるカヤは珍しい。
 ときがわ町の森の濃さを象徴するかのような老樹だと思います。

 「くぬぎむら体験交流館」では名物の「ひもかわうどん」が食べられた……のですが、すでに午後も遅く、店じまいしていました……。
 一応携帯食料をかじりましたが、こんな山中、もちろんのこと、他に食事ができるところなどはありません。

 いや、そうでなくても、この次は「ひもかわうどん」、食べてみたいもんです。
 幅広のべろべろしたうどんみたいですよ。

 これが「越沢稲荷の大杉」
 ほのぼのとする良い一本杉でした。地元の人たちに愛され親しまれているに違いない。

 こういう、若さを感じられる巨樹に出会うと、こちらも元気になれます。
 まだまだ大きくなってくれるでしょうし、ほんと、人間種の寿命の都合上絶対見られないんだけど、2、300年後の姿が楽しみです。

 お稲荷さんにもお詣りを忘れずに。
 どれ、お稲荷さんから見る大杉はどんな風……

 ちょっとウッとなる。
 この少しばかりの「陰」な感じが、よりコントラストを増してくれるかのようです。

 巨樹に導かれるように徐々に山奥へ。
 カーナビの道が切れてからが本番ってことでしょうか……どんどん道が細くなっていくんですが、いきなり集落が現れたりする。
 なんかチベットめいた風景に。チベットは行ったことないですけど……

 日が暮れる前に4本目の巨樹を訪ねておこう……と思ったのですが、道に迷いました。
 地図は現地調達! とばかり、最初に町の観光協会にも寄りはしたのですが、案外良い案内図がなかった。
 まあなんとかなるだろと、先人がつけたネット上のマップを頼りに移動してたのですが、途中から完全にチベッタン・圏外に。
 こいつは困った……しかし、ちょいと深い巨樹探訪にはありがちなケースです。
 やはりローカル紙参照できる資料がないと苦労するんです。

 見当をつけても2度3度外れました。
 いい加減すれ違えないような細い道になって来たので、車を降りて探してみようと試みます。
 すると、向こうから愛想の良さそうなおじさんがやって来るではありませんか。しめた。

 僕:「こんにちは、ところでこの辺にでかい樫の樹があるということで、歩いて行けるんですか?」

 おじさん:「ウバッカシだな! 無理無理無理無理! まだまだ先!」

 僕:「えっ、でも地図ではこの近くかと」

 おじさん:「どういうわけだか、そういう人、結構いンだよね。この間も若い女らがさ、山に登ろうとしてて……それが、向こうに見えるだろ、あの山な訳。危ねえからやめろって言ったよ」

 ……どうやら、GPSの類を信じていると、こういう誤差で痛い目を見る土地柄みたい。
 まあ、過去にもGPSコードを頼りに行ったらでかい川の対岸違いで途方に暮れたこともあり……。

 僕:「だいぶ道狭くなってるけど、樫まで車で行けるんですか?」

 おじさん:「いけるいける! 途中これこれこうなってて……」

 僕:「ありがとうございます! いやあ聞けて良かった。行ってみます!」

 おじさん:「気をつけてね! それと、こういうところでは常にボーを持ち歩くもんだよ

 僕:「ボー……棒ですか」

 おじさん:「そう、ボー。それか山刀」

 僕:「はあ、はい」

 おっさんの言う感じでは、もうちょっとだけ進めばいいということなのかと思ったのですが……これが行っても行っても。
 陰気な林道になり、ところどころ舗装も切れる。
 森は深くて昏く、ライトは点灯するし、正直もう戻りたい……

 そう思った時、ようやく樫の入り口を示す看板が目に入りました。
 車を路肩に停め、そこからはいよいよ歩きです。

(それと、こういうところでは、常にボーを持ち歩くもんだよ)

 ふと、あの言葉が頭をよぎりました。
 ははあ、こいつはあれか……ゲームとかでソレがないと詰むってフラグだな?
 肝心なとこに錆びたゲートがあって進めなくなる、横を探索するとときがわ町長の銅像がある、その額に何かをはめ込む穴がある、頭上を見上げると杉の枝に怪しげな宝石がぶら下がってる、ハイ、ボーの出番です! みたいな。

 ……持ってないよ、ボー。
 これまでの道中でも必要性を感じたトレッキング・ポールですが、惜しいことに、おうちに忘れてきた。
 しかし、重要な登場人物であるおっさんがわざわざ必要と示唆したボーを無視するわけにはいかない。何かないか?
 考えた結果、それまで「役立たず」「洗濯干すしかできない」と邪険に扱われていた一脚を持ち出しました。
 まあ、どうせ使わないし、ダメになってもいいので持って行こう。

 そうしてなかなかの山道を歩いて行き、恐るべきルックスの「姥樫」にたどり着きました。

 疲れも吹っ飛ぶ……というか、一瞬息が止まりました。
 こんなとこにいちゃいけないと思うような威圧感を感じ、アワアワ撮って逃げ出そうとすると……ゾクゾクっと、背を向けちゃイカンと思ってしまうようなあの感じ。
 ひとつ前の健やかな大杉にもらった元気も、すっかりエナジードレインです。

 本当、巨樹というのは色々ある。
 他の方がどう見られるのかはわかりませんが、そういう意味では、あまり予備知識を仕入れずにそのまま叩きつけられる印象を浴びてみたい気もします。
 この場合はとてもコワい経験でしたけど……。

 そうそう、棒ですが、役に立ちましたよ。
 道中始終、杖の代わりにする、藪を押しのける、蜘蛛の巣を払うなど、やはり棒はなくてはならんのです。
 これ以来、常に車にポールを積み、徒歩に移る際にもザックに挿していくことにしました。
 ありがとう、ときがわのおじさん。
 しかし、今のとこ、山刀を使うようには(あんまり)なりたくないです。

 山から脱し、主要道路に出ると、意外にも姥樫へ導く看板を見つけました。
 椚平の方から来てしまったことで、かなり難儀なルートどりをしてしまったらしい……。

 しかし、「尾根」という言葉が使われているのを見ても険しいところには違いない。
 いったいどれくらいの人がこれを見にやってくるでしょうか……。

 街場に戻って来てホッとしました。
 都合、おまけになってしまうのですが、目立つところに大銀杏もあります。
 しかし、街道沿いの騒々しいところで落ち着いて見られない上(個人の方の敷地にある)、季節柄、銀杏はモッサリと訳のわからん緑色のカタマリになってしまっており、ほぼ鑑賞不可能。この時期の銀杏は誰にも止められない……。

 お宅に残る記録から、ときがわ町でも最も古い巨樹であろうと推測されているようです。
 行くのは簡単なので、ときがわ町に来た際にはお寄り頂ければ。

 銀杏のすぐそばには、道の駅的な物産施設も。
 「建具会館」の名が示す通り、ときがわ町は昔から製材業が主要であり、そういった木工なども盛んです。
 あとはキャンプや林道アタックや……見てください、「見」のとこに、「巨 木」とあるでしょう。
 ときがわ町に来たら巨樹を見ないと。

 ……というわけで、埼玉県初上陸でだいぶ深いとこへ突っ込んだ印象でしたが、今回の巨樹探訪は以上です。
 秩父方面や北部には、結構期待できるのでは? と思うので、これからもチェックしてみようと思います。
 お付き合いありがとうございました。

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