2017年・九州~関東 巨樹旅1

 2017年10月。
 仕事と生活に転機を迎え、本格的に始動する前にと、長い車旅に出かけることにしました。

 必要なものはみんな車に放り込む。
 ついでに自分も放り込むつもりで……まあ、嫌になったら現地でどこか屋根を探そう……宿代ケチって燃料つぎ込んで移動する。
 途中何か所かで遠方に住まう友人を訪ねる以外は、行き先も期間も正確には未定。
 「九州から自走で関東まで帰る」という、いい加減きわまりない旅のスタートです。
 これぞ、絵に描いて額に入れたような「見切り発車」。

〇1日目

 茨城の自宅を出発、二時間弱車を飛ばして東京有明、東京港フェリーターミナル入りしました。
 船中では食いものが貧弱だというので、時間に余裕を持ってコンビニエンスな店でお弁当を買っておこうと考えていたのですが、勢いターミナル入りしてしまい……
 有明ってところはこわいね、そういうお店が全然ない。

 

 手続きを済ませ、17時、旅の相棒フォレスターとともに、徳島・九州行きのフェリー「どうご」に乗り込む。

 二段ベッド式のほら穴がもれなく与えられまして、おお、ここがこの後36時間の我が城。
 おそらくは太平洋に出てしまえば、見えるのは海だけ……。
 別に色テープを投げたりはしませんけれども、メインラウンジに陣取り、やや感傷的に遠のく陸地を眺めました。
 どうか、いい旅になりますように。

〇2日目~3日目

 丸々船内暮らしをしていました。たいくつです。
 昼間からほら穴式ベッドにこもっていても腐るだけなので、ずっとラウンジにおりました。
 この、窓の外に海しか見えないっての、すごいよなあと思いますが、慣れてくるもんですね。
 慣れたら、飽きる。

 運動しようにも吹きさらしの甲板しかなく、ちょっと仕事もしようかと思ってMacを持ち込んでいるので、荷物が重い。

 ほら穴式寝床に置いておくわけにはいかないので、船内を移動するにも、あほっぽいヤドカリみたいに背負って行かにゃならない。その姿で運動はできない。
 仕方ないから、オフライン作業と読書、これからの無謀な車旅の計画に日を費やします。
 もちろん海の上なので、よほど陸地が近くない限りは、各種電波も圏外です。

 途中、徳島に寄港、乗客の大半が下船するも、自分の目的地はまだまだ。
 楽しみはもうお風呂しか無くなってしまいました。
 もはや自分の中では、カーフェリーってったらお風呂だろ! みたいな。

 そして……
 晴れて早朝、北九州市は新門司港に到着しました。
 船内ではインスタント食ばかりでいきなり食生活の乱れを痛感している……。
 これからハードな旅路なので、食い物には毎食気をつけようと思いました。

 さて九州です!
 夜明けとともに、まずは本州に背を向け、さらに西へと走ります。

〇3日目

 福岡、門司港に降り立つ。
 ようやく車旅がスタート、まず向かうのは佐賀県。
 例の自虐?ご当地ソングで有名な佐賀ですが、、巨樹業界では避けて通れないようなすごい県です。

 いや、巨樹以外だって、有田焼も伊万里焼も唐津焼も佐賀県だし、いいじゃん、それだけあれば……何が不満?(キレる茨城県民)。
 なんと、武雄市には伝承樹齢3000年というとんでもないクラスの楠が3本も集中して存在しているという! 
 この衝撃。なんて恵まれた土地なんでしょうか。

「塚崎の大クス」
武雄の大楠
川古の大クス

 武雄市大クス3番勝負。

 関東にはクスの巨樹はそこまで多くなく……スダジイやタブノキの方が優勢……
 これほどまでに巨大なクスをどう撮ったらいいものか、いわば神々しい圧迫感をどうしたら写真表現で伝えることができるのか、初めて前にした巨大クスにはただただ圧倒されました。

 朝5時から活動開始、ぐるぐる歩いてみたり三脚使ってみたり地面に這いつくばってみたり。おまけに10月だってのに猛暑で、汗まみれです。
 「むかしのお札に出てて、300歳くらい生きて、熱湯コマーシャルみたいなことしてた人(うろ覚え)」……武内宿禰(たけのうちのすくね)を祀っている武雄神社は、歴史の分厚さを感じさせてくれます。

 ここ武雄神社では、「武雄の大クス」の根元の空洞にある祠で霊力を封じ込めたという「大楠守」を買うことができます。
 巨樹の旅の成功を祈って購入。ありがたし!

 武雄市を後にし、有田市に寄りました。
 「佐賀へ行くなら素敵な有田焼き買ってきてよ」という家族からの難リクエストに応えるべく。
 しかし、こんなお財布の軽そうなTシャツ野郎なんて相手にしてもらえなさそう。
 こういう時は観光協会へ行くのが一番。

 私:「すみません、こんな僕ですが、お土産を買いたいんです」
 協会の人:「じゃあ、いろんなお店が集まってる『有田陶磁の里プラザ(現:『アリタセラ』)』へ行くのがいいですよ」
 私:「ありがとうございます」
 協会の人:「どこからおいでですか?」
 私:「茨城から、車です」
 協会の人:「い、いばらきッ!?」

 あの人は驚きすぎだったと思う。
 でもって、そこへ行った僕は……何ですか、ちゃんと買いましたよ、有田焼きを。
 現地でとっても面白いものを見つけたんです。

 なんと、有田焼のラーメンどんぶりなんです。
 「即席ラーメンを作って食うのに最適な有田焼」というテーマで開発された、なんとも新機軸な器です。
 選ぶのがとにかく楽しく、手にとってみると、足の具合や指がかかり具合など、使い勝手が実によく考えられている。
 磁器ならではの薄さとしっかりした感じはまさしく有田焼きで、安っぽさは皆無。所有する喜びもちゃんと味わえます。

 店のおばさんに聞くと、たくさんの窯元が参加して同じ形の器を作ろうという企画なのだそうで、値段も2000円台から30000円近く(!)まで、色や模様や手触りも様々、100種類以上あります。
 自宅で実際に使ってみた感触からも、明らかにモノが良いとわかります。
 大変おすすめのおみやげです(後記:2023年現在でも現役で使えてます!)。

 焼物に気が逸れ、その後、なんだかフラフラと長崎県へと走り、波佐見(はさみ)市へ向かいました。
 ある時は有田焼きという名で売られ、ある時は伊万里焼という名目で取引され……という、いわばOEM製品の生産地みたいなとこだったそうです。
 モダンさ、カジュアルさがあって、現在でも気軽に手に取れる波佐見焼。

 ……も欲しかったんですが、曜日が悪かったのか、お店がみんなお休みでした。笑
 ま、リサーチしてないから仕方ない。(しろよ)
 それでも、小さな窯元が並ぶ波佐見の町並み散策は面白かったです。

 車旅だとお土産に焼き物を買っても、壊さずに運べるし、かつ高い送料もないし、いいですね。
 あの有田焼きのでかい壺だって積めなくはないんだぜ? 
 ま、寝る場所がなくなりますがね(それ以前にお金が無い)。

 で、欲張ってまた佐賀県へと戻り、有名な「祐徳稲荷」に寄ったりしました。
 稲荷神社の大きいやつってことで、もちろん商売繁盛が信条なのですが、こいつは儲かってますな、明らかに。
 超常的建築が非常に刺激的ですが、比較的新しい神社で、ご神木もまだ巨樹化していませんでした。

 ハイパー祐徳稲荷からよろよろ出てきて、さあまだ日が残っていますがどうしますか、どうしたいですか。
 ……俺? おふろにはいりてえよ。

 そう、朝からずっと汗まみれで、どうなってんだこの10月は、Tシャツも着替えなきゃ気分悪いほどだし、今晩の風呂のことだって考えなくてはならんのです。
 つまらない話ですが、すでにフェリーに2.5日も乗ってたわけで、洗濯モノもあったりする。
(鉄道を使ってウロウロしていた頃に染み付いた習慣で、洗濯前提で衣類荷物はできるだけ減らすようにしています)。

 インターネットに頼り、最寄りの「嬉野温泉」を発見し、まさに嬉しい!
 日帰り入浴可能な旅館を見定め、走って行く直近に、なんと素敵なコインランドリー! そして安いガソリンスタンド! 僕もフォレスターも嬉しい嬉野!(よかったね)

 コインランドリーを回しながら、近所の豊玉神社に参詣。豊玉毘賣(とよたまびめ)、つまり竜宮の乙姫様ですが、ここのシンボルはナマズ様でした。水をかけて拝みます。

 ……なんにも考えずに選びましたが、嬉野温泉、大変いいですね。
 肌がすべすべになるし、飲泉も効きそうな味でした。
 まだ時間が早かったので、独り占め一番ぶろって感じも最高です。

 さて、日も暮れ、佐賀ラーメン(濃厚な豚骨だが、長濱のような針金麺ではなく、普通の中華麺。替え玉というシステムもなし。生卵を落とすのが特徴)で晩御飯。
 そしてまた30キロほど進めて、福岡県八女市の道の駅で車中泊。

 上陸後初日、ちと張り切りすぎたかもしれませんが、濃密な一日でした。
 この日は(またもや10月だというのに)熱帯夜で、極めて寝苦しかった。
 でかいクスノキの空洞に食べられる夢を見たような……ちょっとうなされたような夜……でした。

(つづく……)

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