巨樹たち

佐賀県武雄市「武雄の大楠」

その身はすでに神界に

 佐賀県武雄市、巨大クスノキ3番勝負。
 裂かれた身で生き続ける「塚崎の大楠」の次に訪ねたのは、武雄神社の御神木である「武雄の大楠」です。
 実は、武雄神社は「塚崎の大楠」から徒歩で10分ほどの距離。何という高レベル巨樹地帯でしょうか。

 まずは、石垣やそれを覆う苔などに古代の趣を感じさせる武雄神社本体に……と思ったら、何やら大勢の方々が祈念に押し寄せている。テレビクルーまでいます。地元議員さんの選挙カーがあり、どうやら必勝祈念のよう。邪魔しないように、先に大楠の方に回りました。

 看板に沿って行くと、その先にはなんと御神木専用の鳥居がある。
 いかに大楠の存在感が大きいかが想像されるというものです。

 鳥居をくぐってからもさらに100メートルほど進む。このきれいな参道も大楠のためのものです。
 竹林の中のカーブを進んで行くと、満を持して……

 現れました、「武雄の大楠」です。
 柵があり、離れた位置で見るに止まりますが、それでも巨大な存在感は波のように押し寄せてくる。
 まだ朝で、周囲に誰もいなかったこともありますが、とても静かな樹だという第一印象。

 推定樹齢は3000年という。
 3000年……認識できる歴史の尺を遥かに超えている。
 そこに科学的根拠はどれくらいあるのか?
 普通であれば湧き上がってくるはずの疑心が、この樹を前にすると静かなままなのに驚かされます。

 あり得るかもしれない。それくらいは既に生きてしまっているかもしれない。
 まさに生ける御神体。この姿そのものが信じる力を生むのだと納得させられます。

 気が遠くなるような忍耐と幸運。そして、まさに神がかった生命力があってこそ。

 しかし、ずっと見ていても、雪国の杉の巨樹が発するような……折れても折れても身体を捻じ曲げ、大地に食い込んで生きているぞという……あの「叫び」は聞こえて来ません。
 もしかしたらこの樹は、もはや半分以上この世に無いのかもしれない。神様になりかかっている存在なのかも……
 自然と、そんなことを考えました。

 複雑な根幹の形状、無数かつ多種の植物で覆われたディテールを見ることは、古代から続く悠久の物語を読み取るのに等しい。

 「塚崎の大楠」と同様、この樹も根幹内部が広大な空洞になっている。
 解説によれば12畳分もの広さがあるそうで、薄暗い奥に天神様の祠が祀ってあるのが見えました。
 この樹そのものがひとつの天神社の社とも言えるのです。

 武雄神社では、この大空洞の中で祈祷した「大楠守り」を買うことができます。
 また、見開きでとても立派な御朱印にも大楠の絵が入るようです。

 巨樹そのものとしても、その大きさは特筆すべきもの。
 実測すれば地上1.3メートル地点での幹周は20メートルにもなり、これは全国あらゆる樹種の巨樹の中で6位に食い込む数値。
 ドン! と立ったこの姿で複数本の合体や分岐した樹よりもよほど太いのですから、九州のクスの巨樹ぶりは本当にとんでもない。
 てっきり国指定天然記念物だろうと思い込んでいましたが、こんなすごい存在があっさりと武雄市指定天然記念物だったことにも驚きました。

 もちろん樹木という生命のピークはとうに通過しているはずで、これ以上大きくなることはないでしょう。
 しかし、その代わり、より長く生きて欲しい。この場に存在し続けて欲しい。
 じっくりと……神様そのものになるまで。

「武雄の大楠」
 佐賀県武雄市武雄町武雄  
 武雄神社
 推定樹齢:3000年
 樹種:クスノキ
 樹高:30メートル
 幹周:20メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2017.9

 探訪メモ:
 武雄神社に駐車場がある他、上記のように「塚崎の大楠」とあわせて徒歩で巡ることも可能です。

 武雄神社には縁結びにご利益があるという「むすびの檜」というのもあります。
 檜の枝が上部で連理している。スジコみたいにビッシリつけられたお願い鈴が強烈です。笑

 武雄神社に祀られている武内宿禰(たけのうちのすくね)はかつてお札の図像にもなっていた古代の偉人。
 神話と古代史のはざまを垣間見るようで、さすがは九州の古き地と感じ入りました。

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