巨樹たち 山形県鶴岡市「石山の大スギ」 / 4 コメント 亡き樹冠と歴史を想う 山形県鶴岡市の巨樹めぐり、4箇所目。 鶴岡市街から南西に下って「湯田川の大イチョウ」の湯田川温泉。そこから15分ほどでしょうか、もう少し西へ。 田園風景広がる水沢地区に国指定天然記念物の大杉があるという……。 大杉に出会う前にまず触れておきたい点が。この大杉は、2つの呼称を持っています。 ひとつは天然記念物指定された時の登録名で「熊野神社の大スギ」。 もうひとつがさらに年代を遡るらしい「石山の大スギ」という名。 前者名称で登録されたのは何か事情があったのでしょう。 しかし「熊野神社の大スギ」などという巨樹は全国津々浦々に存在し、「どれ?」ということになってしまう。 登録名はそうなっています。と前置きした上で、ここでは「石山の大スギのことですよ」ということで、この名称で取り上げさせて頂きたいと思います。 改めて、上の写真の標識から小道を入っていくと、神社の入り口に辿りつきます。 途端に色濃い緑の気がむわっと立ち込める。古びた石段を覆い尽くすように一面苔むしています。 日本の神が元来自然信仰であるということを思い出させるような風景の一番奥に、巨大な気配が待っています。 おお! と感嘆しました。このパターンの登場ですか! 拝殿の背後、隠せるわけもなく、ドーンと突き抜けるように立っている。 即座に、茨城県石岡市の「佐久の大杉」を思い出しました。 まずはお社に挨拶し、回り込んで全体像を見る。 何もひねくれたところはない。一本! というような気持ちのよい立ち方です。 しかし、樹形にはどこか違和感がある。幹は太いまま立ち上がっていますが、その先が豊かではない。 それもそのはず、かつての台風で上部大半が失われてしまったのだそうです。 それでもなんとか枝葉を保ち、生を繋いできたのが今日のこの姿……。 「佐久の大杉」のことを持ち出しましたが、立ち位置だけに止まらず、巨樹としての性質も似ているように感じます。 「老杉」というカテゴリーを別に作るのであれば茨城県「安良川の爺スギ」、福井県「飯盛杉」等とともにぜひ加えたいところ。 生きてきた年月の長さ、長く生きることの厳しさというものが否応なくその姿に表れる。 見ていて、普段は眉唾に思ってしまう「推定樹齢」の数値ですら、すんなり受け止めたくなってしまうような長老たち。 この「石山の大スギ」自体も、大変古くから記憶されていたことはまず間違いなさそうです。 とっくに成長のピークを過ぎ、まばらになった枝葉よりも、着生植物や苔、自らの分身のような杉の若芽の緑が彩っているのが目につきます。 ……そんな風に書くと魅力が無いようですが、実物はこれほどまでに大きい。 解説板では地上1.5メートル地点での幹周が10メートルとありますが、環境省のDB値、つまり地上1.3mでの幹周囲は、なんと1105センチとあります。 国の天然記念物指定を受けたのは昭和2年。もう90年以上も昔ですが、もちろん当時からこの体躯を誇っていたことは疑いようがないでしょう。 幹全体がかなり太いまま直立していますが、根の発達はさらに大きい。 緩い傾斜地に立っているせいもあり、玉垣のような囲いの中いっぱいに根がのた打っています。 幹の一部とも形容できる部分がなだらかに傾斜し、そのまま地中に潜って行っているようでもあります。 見ようによってはドームのようでもあるその空洞部分に小さな祠が祀られています。 古来からここに祠があったがために、これを跨ぐように大杉の根が動いたようにも見えます。 いや、生長に任せれば祠の方が飲み込まれてしまうでしょうが、実にちょうど良い嵌め込み具合というか、不思議な位置関係です。 歴史を記した解説板。 かつては樹高45メートルあった。 そう。この幹の大きさはそれでこそ当然と思えます。 が、落雷による炎上、台風による折損が襲い、現在の樹高、24メートルにまで低くなってしまった。 神社には芳名帳とともに資料のコピーが置いてあり、それ以前にも「大正元年九月暴風のため大杉の大枝落下、社殿悉く倒潰、大正二年二月再建する。」……ということがあったそうです。 確かに、この規模の大杉の落枝は恐ろしい破壊力だったでしょう……。 近くの「水上八幡神社」に残る社伝により、923年〜頃、源義家が、この大杉の根元に(神社・神を)勧請したとあります。(※1) 上記の別紙資料によれば、当地の熊野神社の創立は1227年頃らしく、水上八幡神社の末社という位置づけだそう。 源義家については、東北各地に伝説があり、「八幡太郎」の異名の通りに、その地その地に八幡神社とお手植えの巨樹があります(宮城県登米市「上沼八幡神社の姥杉」なども)。 長く生きているということがすごく腑に落ちる大杉です。 3本ほど残っている大枝はみな天を向き、空を抱えている。 この上空に、失われた「もう半分」があったなんて。 この大幹を育んだということは、きっと大きな樹冠もあったに違いない。 それこそ、あの「山五十川の玉杉」にも似た、凄い巨杉だっただろう……。 初見の驚きは徐々に落ち着きましたが、「余白部分への想い」が記憶に残る。 そんな巨樹でした。 「石山の大スギ」 (熊野神社の大スギ) 山形県水沢字熊野前 熊野神社 推定樹齢:1000年 樹種:スギ 樹高:24メートル 幹周:11メートル 国指定天然記念物 訪問:2020.9 探訪メモ: 駐車場はありません。 停められそうな場所を少々探したところ、少し先に公民館(無人)があったので、停めさせていただきました。 ※1注: この表記はちょっと変。 延長年間は923〜931年であるのに対し、源義家の生誕は1039年だそうなので、100年以上も食い違ってしまいます。 試みに水上八幡神社のことを検索すると、 (前略)水上宮を、延長年間、石山の大杉の許に遷し奉れるが、寛治年中、源義家が氏神の石清水八幡宮を勧請合祀し、新八幡宮と称奉る。 ……とありました。 元々別のところにあった「水上宮(籠大明神は御名を水分神=みくまりのかみ=水神)」を、この「石山の大スギ」の根元に遷座させたのが、929年頃のこと。 1089年頃、源義家がこの地にきて、自分の氏神の岩清水八幡宮を勧請合祀して、水上八幡神社が成立。 1227年頃、現在の位置に末社としての熊野神社が創立。 という順番ではないかと。 ともかく、この一帯の歴史ロマンのまさに根幹がこの「石山の大スギ」と言えそう。 水上八幡神社にも、重要文化財(しかも旧国宝)の本殿建築が見られるそうです。 関連
to-fu 2020年11月8日 at 11:50 AM 返信 いやー、全くノーマークの大物が次々と現れるのでつい顔がにやけてしまいます 笑 まさに登場シーンの写真を見て心の中でおお!と声を上げてしまいましたよ。 苔生した石段に見とれていたら本命がすぐその奥に。これはテンション上がります。 私もまさしく佐久の大杉や飯盛杉を連想しました。しましたが、ヒューマンスケールを見るとこれはデカい。実際目の前に立って折損する前はどれだけの樹高を誇ったんだろう…と妄想しているだけで随分時間がすぎてしまいそうです。45mどころか50mはあったんじゃないかなあ、なんて。樹齢1,000年というのも納得。サイズ感としては徳島県の五所神社の大スギをイメージしました。囲いがあるので現実的には出来ませんが、これはまた協力して幹周を測定したくなりますね。
狛 2020年11月8日 at 5:32 PM 返信 to-fuさん> 地図を見ていると、我ながら関西のお二人からは随分遠くにいるなあ……と思ってしまいます。 マークされていないのも当然だと思いつつ、僕もそちらの方の巨樹にはまだまだ疎い現状です。笑 この登場の仕方、やっぱりスギはこうでしょ! みたいな。待ってました! みたいな。 もはやこちらとしても、歌舞伎的にこういうの期待してしまいますよね。 そうして出現するのが今回は老杉なわけですが、悲壮的な感じはせず。 それは、この杉が全盛の頃、限界とも思えるところまで成長を果たした杉だからかもしれません。 今でも巨樹ファンの記憶に十分残ってくれる大きさを見せつけてくれます。 僕も、後で写真で客観視して、記憶以上に大きいじゃないか! と二度びっくりしました。 10メートルオーバー、測りごたえがありますからね。数人で測ってやっとのあの感じ、またやってみたいものです。
RYO-JI 2020年11月10日 at 9:32 PM 返信 拝殿へと向かう苔生した階段を見ただけで感嘆の声を上げてしまいますね。 この雰囲気を味わうだけに訪れたいとも思えます。 そしてその奥にただならぬ気配、いや、これは一番盛り上がるパターンのヤツですね(笑)。 拝殿の奥に控える姿が堂々としていて、参拝にも一段と気合い(なんだそりゃ)が入りそうです。 とは言え、そこまではまだ余裕を持って拝見していましたが、ヒューマンスケールを見て画面を凝視してしまいました。 『デカイ!!』 まさかここまでのサイズとは思って見ていなかったので、更に驚愕です。 上部が欠損してしまっているとのことですが、それでも充分スゴイ存在感じゃないですか。 老杉というジャンルに相応しい巨樹ですね!
狛 2020年11月11日 at 7:46 AM 返信 RYO-JIさん> 外の通りなどはそこまで雰囲気がある感じではないので、神社に至ると驚きます。 大杉の現れ方も……大杉があるところに神社を建てたというのは歴史から明らかですが、うまく正面に持ってきたものです。 巨樹ファンなら一気にテンション上がる仕掛けであると同時に、神社の神々しい雰囲気、「ここは違う世界だぞ」という印象も強まっています。 老いたる大杉ですが、この大きさは大したものです。なかなかないですよね。 最後のモノクロにちょっと写ってるんですが、玉垣が根を避けるように凹んで作られていたりして、大杉こそ原点と大切に思う心が伝わってきました。
4件のコメント
to-fu
いやー、全くノーマークの大物が次々と現れるのでつい顔がにやけてしまいます 笑
まさに登場シーンの写真を見て心の中でおお!と声を上げてしまいましたよ。
苔生した石段に見とれていたら本命がすぐその奥に。これはテンション上がります。
私もまさしく佐久の大杉や飯盛杉を連想しました。しましたが、ヒューマンスケールを見るとこれはデカい。実際目の前に立って折損する前はどれだけの樹高を誇ったんだろう…と妄想しているだけで随分時間がすぎてしまいそうです。45mどころか50mはあったんじゃないかなあ、なんて。樹齢1,000年というのも納得。サイズ感としては徳島県の五所神社の大スギをイメージしました。囲いがあるので現実的には出来ませんが、これはまた協力して幹周を測定したくなりますね。
狛
to-fuさん>
地図を見ていると、我ながら関西のお二人からは随分遠くにいるなあ……と思ってしまいます。
マークされていないのも当然だと思いつつ、僕もそちらの方の巨樹にはまだまだ疎い現状です。笑
この登場の仕方、やっぱりスギはこうでしょ! みたいな。待ってました! みたいな。
もはやこちらとしても、歌舞伎的にこういうの期待してしまいますよね。
そうして出現するのが今回は老杉なわけですが、悲壮的な感じはせず。
それは、この杉が全盛の頃、限界とも思えるところまで成長を果たした杉だからかもしれません。
今でも巨樹ファンの記憶に十分残ってくれる大きさを見せつけてくれます。
僕も、後で写真で客観視して、記憶以上に大きいじゃないか! と二度びっくりしました。
10メートルオーバー、測りごたえがありますからね。数人で測ってやっとのあの感じ、またやってみたいものです。
RYO-JI
拝殿へと向かう苔生した階段を見ただけで感嘆の声を上げてしまいますね。
この雰囲気を味わうだけに訪れたいとも思えます。
そしてその奥にただならぬ気配、いや、これは一番盛り上がるパターンのヤツですね(笑)。
拝殿の奥に控える姿が堂々としていて、参拝にも一段と気合い(なんだそりゃ)が入りそうです。
とは言え、そこまではまだ余裕を持って拝見していましたが、ヒューマンスケールを見て画面を凝視してしまいました。
『デカイ!!』
まさかここまでのサイズとは思って見ていなかったので、更に驚愕です。
上部が欠損してしまっているとのことですが、それでも充分スゴイ存在感じゃないですか。
老杉というジャンルに相応しい巨樹ですね!
狛
RYO-JIさん>
外の通りなどはそこまで雰囲気がある感じではないので、神社に至ると驚きます。
大杉の現れ方も……大杉があるところに神社を建てたというのは歴史から明らかですが、うまく正面に持ってきたものです。
巨樹ファンなら一気にテンション上がる仕掛けであると同時に、神社の神々しい雰囲気、「ここは違う世界だぞ」という印象も強まっています。
老いたる大杉ですが、この大きさは大したものです。なかなかないですよね。
最後のモノクロにちょっと写ってるんですが、玉垣が根を避けるように凹んで作られていたりして、大杉こそ原点と大切に思う心が伝わってきました。