巨樹たち

石川県珠洲市「高照寺の倒スギ」

さかさスギのイメージごとひっくり返す

 異常な枝ぶりを見せつける「新宮神社のスギ」から日本海沿いに戻り、能登半島の最先端部を周遊し、南下してきました。
 日が傾き始めましたが、ここまで来たら見逃すわけにはいかない巨樹がもうひとつあります。
 これまたユニークな樹、「高照寺の倒(さかさ)スギ」。

 ですが、とりあえず到着して見てみた第一印象は……え、松?

 いや、杉なんですね、これでも。
 そんなこと言っては失礼、とても立派なスギの巨樹です。
 しかしなんとも奇妙なことに、ほとんどの枝が下向きに向かって育ち、横方向に傘型にこんもりと葉を茂らせている。
 やはり庭師がそう形作った松のごとしです。
 では、もっと寄って、スギ巨樹らしさを感じてみるとします。

 どーん。
 かなりボリューム感のある、重そうな幹です。

 栃木県「塩原八幡宮の逆スギ」に代表される「さかさスギ」は、カテゴリー化するほどたくさんあり、下を向く枝からそう呼ばれるものらしい。
 突然変異によって枝の硬さを作り出す植物ホルモンが不足するために起きる現象で、シダレザクラ、シダレカツラ、シダレグリ……などとも同義でしょう。

 しかし、この今回の「倒スギ」ほど意外性のある外見をしているケースも珍しいと感じます。
 「逆」ではなく、もはや「倒」の字をあててしまう気持ちもわかる。
 下に向かった枝は、地面にまで届いてしまっている。
 直線的なフォルムをしていないウラスギであり、密度感のある寸胴単幹ぶりからは、一瞬、ケヤキの巨樹をも連想しました。

 極太と形容したくなる幹、そしてなんとも不思議なねじくれた枝。
 大蛇のようだとも思いつつ、いや、これはでっかい蛸だな、などとも。

 ちなみに立地は、市街地からもそう遠くない水田地帯のただ中。
 「真言宗の古刹・高照寺の門前にあった」と解説されるのですが(昔はここまでお寺の土地だったらしい)、スギと同じ視界に寺は入らない。
 珠洲市の観光サイトやパンフなどにも載っている天然記念物なので、撮っていると、パラパラと見物客が訪れます。
 「どう、撮れないんじゃないの?」
 なんて言ってきた親父がおり、何イ……と反骨する自分。

 とはいえ、広大な枝ぶりが田んぼの中の島みたいな土地をほとんど覆っているため、引きで撮るのが難しいのも事実。
 仰け反るあまり田んぼに背面ダイブしそうになったので、隣の区画から中望遠で撮ったりも。
 西日の強烈な逆光の中、多少ムキになってます。

 見る角度によって様々表情を変える枝ぶりは、超巨大盆栽の趣きさえ感じる。
 作り手の意思を感じる一方で、樹そのものにも意思を感じます。

 想像したのは、田舎の大人物みたいな性格でした。
 背は高くないが、がっちりした体格で、訛りがひどくて何言ってるのかよくわかんないのですが、知れば知るほど立派な人物に思えてくる……みたいな。
 変わってるけど、親しめて、尊敬できるような人物像。
 この長大な枝も、なんだかこちらに向けて差し伸べられているような気がして……

 思わず握手、巨樹と握手(笑)。
 面白い、でっかい樹でした。
 会えてよかった。

 解説文。
 樹高や幹周の数値を見ると、本当にそんなもんなのか? と思う存在感の大きさがあります。
 枝張り30メートルはすごい。
 そして、お決まりのぶっ刺し伝説、ここでは八百比丘尼!
 こういうところまで異色ですね。

「高照寺の倒スギ」
 石川県珠洲市上戸町6−9
 推定樹齢:850年
 樹種:スギ
 樹高:12メートル
 幹周:6.74メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2017.5

探訪メモ:
 田んぼ道の道幅は広くなく、手前にぴったり二台分(だけ)停めるスペースがあります。

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