巨樹たち

福島県岩瀬郡「青龍観世音堂のヒノキ」

希少な幹周7m超のヒノキ

 冬の福島巨樹行、一番手は……珍しいことにヒノキ。
 リサーチ時に、「ヒノキで幹周7メートル!?」と目を疑った一本。

 所在は、会津へ続く峠の入り口のような印象の天栄村。
 真っ平らな稲作地帯の向こうに白く染まった山の姿を望みつつ牧ノ内集落へと入り、竜生(りゅうい)という難読地名の地域へ。
 奥に同名のダム湖や滝もあるようです(※こちらは「龍生」らしい)。

 詳細はmapを参照して頂くとして、バス停のあるカーブのところから脇道に入る。
 狭くなりそうだったので、手前で下車し、歩いて行きました。

 ほどなく観音堂と、その隣に明らかにヒノキだとわかる冬でも濃緑の茂りが見えてきます。
 ヒノキは複数本で観音堂を囲んでいるようですが、そのうち一本が飛びぬけて大きく、神木級のスギにも引けを取らない存在感を発しています。

 本当にヒノキか? と声を上げてしまう。
 これが「青龍観世音堂のヒノキ」。

 当サイトの樹種別掲載「ヒノキ」で参照頂ければと思いますが、「幹周5メートル、樹高20メートル」以上あれば十分大きいと言ってしまえるのが国産ヒノキ巨樹のスケール感です。
 スギのように大きく育たない樹種なのはもちろんのこと、古代から建築用材として重要視されてきたのも大きな理由でしょう。
 環境省調査で7メートル台を叩き出したこの「青龍観世音堂のヒノキ」は、ざっと見て全国5~6位に匹敵する大きさと言えそうです。

 ちなみに、とてもよく似ている「サワラ」はヒノキより大きくなる樹種。
 「沢尻の大ヒノキ(ヒノキと誤って認定されているが、日本一のサワラ)が幹周10メートルを誇る他、7メートル台も全国にそこそこあり、樹高も30メートル以上になるようです。

 岐阜県「おヒノキ様」こと「坂下(さこれ)の十二本ヒノキ」のようなオバケ(失礼です)ではなく、単幹形状でありながらさらに大きいとは。
 しかし、単幹といえど、見ていくうちにスギの神木のような一本感は薄れてくる。
 現実的に言えば、合体樹である可能性も考慮に入れるべきかとは思いました。

 幹上部は複雑な様相を呈し、普の樹ではないオーラを感じます。
 枝は先端に行くに従って別の意思を持つかのようにうねり、野生を取り戻したかのよう。

 逞しい根本に、大きなウロがあります。
 いかにも小動物が暮らしやすそうな……内部のコンディションが気がかりですね。

 改めて別の角度から見上げてみると、ここでも穏やかでない破壊が起きている。
 丸く空いているのは、キツツキに空けられた穴でしょうが、雨水が入れば腐朽や空洞化を起こし、樹が倒壊するような致命傷に繋がる。
 いや、もっとも、天然林はそのようにして更新を繰り返しているはずですが。

 だいぶ組織の分解が進んでいるようで、「健やかだ」とはとても言いがたい。
 いきなりバキッとこないか、見上げていて不安になってしまう眺めでした。
 観察の際には一応お気をつけて。

 しかし、だからこそ幹はいくつもの候補を発達させ、より濃い緑をつけるように頑張っているのだ。
 と、そんな感じがしました。
 場内にある解説板は、下記のように説明しています。

「境内には樹齢八〇〇年といわれる大ヒノキがあり、根元は空洞ができ腐食も進んでいるが、いまだ樹勢衰えず幾星霜風雨に耐え亭々と聳えている。
 神樹であり、県の緑の文化財にも指定されている」(抜粋)

 なんで抜粋? ……いやこれ、写真のような有様で。
 アイスクリームかなんかで書いたのか? みたいな痕跡をしがみつくようにして読みましたが、この地が名だたる名馬の産地だったことや、ゆえにこの青龍寺に馬頭観音をまつった、というような内容があります。

 肝心のヒノキについて、昭和60年時の文句がこれ。
 もう35年も前から健康状態を心配されてきたようです。
 タフな巨樹だということは外見からも納得できますが、そろそろメンテが入るとありがたい。
 巨樹とセットでぜひ解説板もお願いします!

「青龍観世音堂のヒノキ」
 福島県岩瀬郡天栄村牧之内 字竜生34
 推定樹齢:800年
 樹種:ヒノキ
 樹高:25メートル
 幹周:7メートル

 村指定文化財
 福島緑の文化財
 訪問:2018.12

 探訪メモ:
 冬季に会津方面に向かうとなかなかの積雪があるので、もちろんスタッドレスで。
 天栄村のサイトでは、「大檜」の漢字を当てていました。
 同じく、当地の「木造聖観音菩薩立像と厨子」も村指定文化財。

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