巨樹たち

岐阜県下呂市「坂下の十二本ヒノキ」

十二頭の「おヒノキ様」

 岐阜県高山市から南下し、温泉で有名な岐阜県下呂市に入りました。
 他地方の人間としては「下呂」しか聞き覚えがないのですが、字からもわかるように、この北に「中呂」も「上呂」もある。合併統合して下呂市となったようです。

 その市街にはまだ少しかかりそうな道すがら、飛騨川が小坂川と分岐し、川幅が膨らむところ……。
 一体の驚くべきモンスターに出会ってしまいました。
 「坂下(さこれ)の十二本ヒノキ」です。

 道路からの入り口に目印の杭型看板が立っていたのですが、この時は周囲の草が元気よく、半埋もれ状態でした。発見したと同時に行き過ぎてしまう……。
 戻って。駐車場がないので、無難そうなところに停めて。

 未舗装路を登っていくと、わかりやすい手作り看板を発見します。実際いい感じ。
 指される方向、薄暗いヒノキ林の間を進んで行き、視界が開けると……

 何だこれは!?
 驚愕必至のヒノキの巨樹に対面しました。
 信じられないものを見た時、もっとよく見て、何とか理解しようとします。
 そうせねばならん! という欲求が強烈な磁力となって、思わず巨樹の元に駆け寄りました。

 じゅ、12本ヒノキ……。
 現場には、ちょうどそれらが重ならずカウントできるポイントが親切にも提示されている……。
 さっきの看板といい、地元の人の手作りでしょう。愛されてるんだな……と思わずにはいられません。
 で、本当に12本あるのか!?

 ……興奮のあまり、どれが定点で撮った写真なのかわからなくなってしまいました。
 しかし不思議なんです。確かにそのポイントで数えようとはしたんですが……。
 1、2、3……ときて、8、9辺りで必ず、どの幹を数えていたのかわからなくなってしまうんです。
 ちょっと、このおばけのようなヒノキに化かされた気分すらします。

 途中から切られて金属のフタをかぶせてある幹や、他よりも細く枯れたようなのもある。
 これも数えるのだろうか……ぜひ現地で確かめてみてください。

 実際、化け物じみた巨樹だと言えると思います。
 ごめんなさい、あなたは御神木ですが……そして僕はあなたに間違いなく尊敬の念を抱いていますが、その前に一言、化け物だと言わせて欲しいのです(もちろん、褒める意味で)。
 だって、まずその十二又の幹。
 そして明らかに一体でしかないものすごい主幹と、この根を見たら、小人間、そうとしか言えなくなるのです。
 まるで巨大グリズリーの下半身を持ったヤマタノオロチだ。

 よりにもよって、十二本ヒノキの脚元には巨岩が横たわっています。
 流石の巨樹もこの巨岩には阻まれ、その上を掌握し、切り立った部分で身を大きく立ち上げることになった。
 それがこの樹の生きてきたあらましでしょう。
 巨岩の上では太い根が円を描くように這い回り、土砂をため込んで小さな丘を形成しています。

 この、ものすごい力みを感じさせる根幹部。
 岩を抱きかかえて身を捻り、あの扇のように広がった身を見事に支えている。
 巨岩にもう少し亀裂でも入っていたら、おそらくこの根の力が真っ二つに破壊していたことでしょう。

 なぜこんな異様な姿になってしまったのか。想像しようにも途方に暮れます。

 これまでにもいくつか見てきた合体杉の例……特に、御同類と思われる奈良のやり過ぎ巨樹「高井の千本杉」のことが頭をよぎりますが、この十二本ヒノキに関しても、分岐なのか合体なのか、よくわからない。

 こんな馬鹿でかい岩の上に誰かが十二本ものヒノキをまとめて植えたのか?
 例えば、早く確実に大きな御神木になってくれるように願って、とか。
 まさか、過剰に植えたヒノキの力で岩を割ろうとしたんじゃないだろうな、とか……。

 いやしかし、この綺麗で力強い幹、根。
 実物をそばで見ると、ひとつの意思のもとにあるようにしか見えず、これはやはり、1本が12本に分岐したのでは……? と思えてしまう。

 もう少し角度を変えて。
 何度見ても12個の頭を持つコブラが、自分が一番強く見える姿を誇示しているようにしか見えない。
 この腹筋、そして背筋(樹ですが)。
 二度目ですが、言います。
 化け物だよ、あなたは。

 仰ぎ見る存在感と迫力はものすごく、一見の価値がありますが、樹種はヒノキです。
 スギと比べると大きくならず、幹周囲は6メートルほど。
 もちろん、ヒノキで6メートルの幹周といえば相当な巨樹ですが、この樹の場合、6メートル? 本当にそんな小さいのか!? と逆に思ってしまいます。

(近づいていますが、根を踏まない岩の上にいます。しかし、岩から別の岩に跳び移らねばならず、落ちると大怪我をするのでお勧めしません。ご注意を。)

 解説文。
 ああ……おヒノキ様。
 まさにそう呼ぶにふさわしい存在だと思いました。
 こんなヒノキは見たことがない。
 いや、スギでもクスでもいい、多くの巨樹の中でも特筆すべきすごい樹だと思いました。
 どこを見ても不思議、どこを見てももの凄い。
 三回目ですがすみません、おヒノキ様、あなたは化け物です! いや、最高です。

「坂下の十二本ヒノキ」
 岐阜県下呂市小坂町
 推定樹齢:500年
 樹種:ヒノキ
 樹高:23メートル
 幹周:6メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2017.10

  探訪メモ:
 「坂下」と書いて「さこれ」と読むのがまず珍しい。
 上記のように駐車場は無いので、状況を見て広めの路肩に停めて歩きました。
 mapのポイントは大体の箇所。手作り看板を参考に進んでください。

 その奇抜な個性に喜んでしまいましたが、渡辺典博氏「巨樹・巨木」によれば、戦国時代の姫と若き公卿の悲恋の伝説があるそうです。
 姫は公卿と再会を願ってヒノキを植えたが、ついに果たされず、七夕の夜明けに天に消えてしまう。
 瞬間、ヒノキは十二本幹の姿と化し、姫の十二単がかかっていたという。……

 また、付近ではこの樹のように多数に分岐したヒノキの苗が見つかることがある、とも。
 不思議な話です。

坂下のケヤキ

まさしく坂の下のケヤキ

 「十二本ヒノキ」を訪ねる際、一緒に見て頂きたいケヤキです。
 ヒノキへの入り口から見て、国道41号を下っていき、エネオスの向い、国道沿いに神明神社があります。
 枝道がカーブする頭上にケヤキが枝を伸ばしていて、暑い日は格好の日陰になってくれそうです。
 「坂下のケヤキ」。こちらも県指定天然記念物です。

 こぶが多く、背面が苔むした、いかにも硬そうな幹は、幹周5.8メートルとあります。
 現地の立て札は半分消えて読めない箇所もありますが、環境省のデータベースに掲載がありました。
 スペースが広くとられているせいもあるかもしれませんが、気分の良い場所で、しばらく休憩させて頂きました。

 「十二本ヒノキ」の解説に「神明神社の御旅所(おたびしょ)」とありました。
 御旅所とは祭礼の際にお神輿が向かう先、または休憩するところという意味だそうです。

「坂下のケヤキ」
 岐阜県下呂市小坂町
 神明神社
 推定樹齢:300年以上
 樹種:ケヤキ
 樹高:28メートル
 幹周:5.9メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2017.10

 探訪メモ:
 訪ねた記憶では、国道41号は交通量よりも走行速度が速い点で注意が必要かと感じました。
 ヒノキの目印なり、神明神社なり、いきなり見つけて急ブレーキを踏まないように気をつけてくださいね。

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