巨樹たち

奈良県宇陀市「高井の千本杉」

驚異の16本合体杉

 奈良市から東を向いて山中をくねくねと走り、その巨樹のもとに辿り着きました。
 太平洋岸の平野の民にとっては、まるで始終緑の洞窟を走っているかのようで、方角もよくわかりません。
 その濃い緑の中に隠れるようにして、在りました。「高井の千本杉」です。

 全国的に有名な巨樹のひとつ。
 実際、そのあまりに突飛な特徴から資料本でも特に目を惹かれた存在でした。

 車道からはその姿は判然としませんでしたが、取り巻くように細い遊歩道が作られており、やがてその姿が明らかになります。

 「千本杉」という固有名称ですが……さて、我々は杉並木を見に来た訳ではないのです。
 とすれば、○本杉という、例の合体杉のバリエーションだとすぐわかる。
 生命力が強く、柔軟で長命なスギはしばしば成長過程で隣にある樹を巻き込み、一体化しつつさらに巨大化していきます。

 一方で、「巨樹」という概念はあくまで個体を指すので、合体樹は軽んじられる傾向にある。
 幹周囲13メートル! と声高に叫んでも、合体樹は環境庁などの主要リスト/ランキングでは番外とされてしまう。
 「個人」ではなく「団体」「群衆」のように扱われ、有り難がられないわけです。 

 新潟県「外丸矢放神社の八本杉」や、岐阜県「坂下の十二本ヒノキ」などもそうで、ズンと聳える単幹巨樹の影に隠れがち。
 そんなこと言ったら、かの縄文杉だって合体樹だという説があるらしいですが……。
 ともあれ、何事も実物を見て判断したいものですよね。

 ……嘘だろ。
 思わずそう口走る光景が待っていました。
 大小16本もの幹が合体し、目通り高さでの計測では幹周25メートルを誇るという。
 間近で見ると、その根本の太さはかなり衝撃的。

 な、何なんだこの樹は……。
 思わずため息が出ます。    
 数えきれないほどのスギの幹の束が、ありえないほどきつく根元で結束している。
 こんな光景、見たことがない。

 カツラの巨樹などはひこばえが束となって驚異的な幹周数値を叩き出しますが、岩手県「稲荷神社の千本桂」のように広範囲にバラけ、ゾーン化してしまう傾向もあります。
 この「高井の千本杉」にはそんなあやふやさが全くない。
 横並び一列などでもなく、ちゃんと樹形をなしているのがすごい。
 すごい以上に、異様だ。

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 なぜ、こんな異様な状態になってしまったのか? 
 ……謎を解くカギが解説文にあります。

 かつてここには井戸があり、周囲に植えた杉たちが育つにつれ合体したものだそう。
 古来より、杉の水を集める力を利用した井戸を作る風習がある……これも巨樹を巡っていると度々出会う記述です。
 その作用からか、現地には今でも清水が湧いているのが確認できます。
 その霊験によって「千杉(ちさん)白龍大神」という神様として祀られているともあります。

 神秘の靄がかかりつつ、ひとつだけ確かなのは、井戸の周りに杉を植えた人が「とにかく植えまくった」のだという事実。
 日照りのあまり死ぬ思いをしながら「ス、スギの苗を植えなきゃ……」なんて悠長なことは言ってられないから、霊泉が涸れないようにか、お礼参りのつもりで植えていったものなのかも。

 ……いや、それにしたって、一度に何本も植え足した人がいるようですね。笑
 200年ほど後になって、もともとあった群れにさらに足した人もいるみたいですけれども。

 何にせよ。
 植樹した数百年前の方々は、今のこの驚異のビジュアルを見ることはなかったわけです。
 我々世代としては、精一杯驚き、愉しむ役目を全うしようではありませんか。

 十六本の幹がそれぞれかなりの樹高で聳え、立地の狭さや足場の悪さもあって、カメラのフレームに収まらない。  
 こここそ超広角レンズの出番だったなあ……と、写真を見て思います(後に導入)。
 実に刺激的な巨樹でした。

「高井の千本杉」
 奈良県宇陀市榛原高井
 千杉白龍大神社  
 推定樹齢:600年
 樹種:スギ
 樹高:45メートル
 幹周:25メートル(合算)

 県指定天然記念物
 訪問:2017.10

探訪メモ:
 直近に駐車場はなかったように記憶しています。
 坂道が続き、冬季に凍結すると怖そうな印象も受けました。
 地図を見ると、周囲には史跡も数多いようで、深めの歴史探訪が楽しめそうな地域とお見受けしました。

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