巨樹たち

三重県松阪市「黒瀧神社の夫婦スギ」

ともに支え立つ

 ありがたくも写真仲間、RYO-JIさんの案内を頂き、奈良県を回る巨樹行は三重県に寄り道しました。
 土砂降りと言っていい雨の中、一日中付き合ってくださって……というか、運転を引き受けて下さったおかげで、この遠方の地をスムーズ巡ることができました。
 心よりありがとうございます。

 さて、今回の巨樹は、彼いわく「県を跨いでも見る価値がある」との太鼓判。非常に楽しみです。

 「黒瀧神社」は、主祭神として菅原道真公を祀っているとのこと。受験シーズンは賑わうのかもしれません。
 他にもいくつかの祭神のお社を抱く拡張高い神社でした。

 まずお詣りを済ませ、巨樹を探す……と、もう、本殿裏手に隠れようにも隠れきれない巨大な姿が見えるではありませんか。

 「黒瀧神社の夫婦スギ」。
 確かにこれは凄い! と思わず声が出、雨も構わず走り出さずにはいられない光景です。

 巨樹自体の太さ、高さについては何も飾る必要がないほど見事ですが、この立地もまたひとつの注目すべき要素でしょう。
 神社の左手、山の斜面に育っているため、我々はどうしても見上げる……巨杉には当然そうするものですが、いつもの倍も見上げることになります。
 この動作がまたいっそう、このスギを高く巨大に感じさせます。

 写真でわかる通り、根元に足場が組んであり、間近で観察できるようになっています。
 ちょっと荒っぽい作りのような気もしますが……行ってみましょう。

 いや、これは本当に凄い。
 旅の前半、少々満腹感を覚えるほどに巨大なクスを満喫してきましたが、続きの感覚で見ても全く引けを取りません。

 このどっしりとした樹形の形成には、もちろん地形の傾斜が関係しているでしょう。
 計測データによれば幹周囲は9メートルとのことですが、基準高さを少し誤ると大きく異なった数値となるはず。
 現地での印象では11~12メートルほどもあるように見え、9メートルはかなり控えめな数値に感じます。

 全国各地に見られる例の通り、明らかに二本のスギが成長とともに癒着した「夫婦スギ」です。
 が、もしこれが半分だとしても、数十メートル上部まで太いまま立ち上がるその姿は巨樹として十分に注目に値するレベル。

 前出の「高井の千本杉」は明らかにやりすぎ……でしたが、こうして複数本を同時に植える例は珍しくなかったようです。

 力を合わせて斜面に踏ん張り、支え合っているような印象も受け、まさに「夫婦」関係ということでしょう。
 よく見ると、片方だけが苔むして緑色をしており、そこもまた「ふたり」なのだという表現に繋がっていそう。
 いずれにせよ、ぴったりと身を寄せ合う仲だと見れば、縁結び祈念の対象としても有望なのではないかな……などと感じました。

 根本を一周してみましたが、数十メートル離れた地点でも唐突に太い根が露出している箇所があり、この斜面全体が夫婦スギに掌握されているとわかりました。

 そして、この一向に止まない大粒の雨……。
 見上げて撮るたびに傘が邪魔になり、スギはばかでかいし、全身ずぶ濡れです。
 紀伊山地が日本で最も雨量が多い地方だというのも有名な話です。多いところでは日本全体の平均値の倍も降るとか。
 この膨大な水量こそが、まさにスギをここまで巨大に育む。
 この夫婦スギは、これ以上ない証例なのでしょう。

 解説はごくごくシンプル。
 県下最大級とは書きつつも、この紀伊山地ではそこまで驚くことじゃない……とでも言いたげです。
 いや、それはさすがに考えすぎでしょうが。笑
 ですが、例えば「道真公お手植え」! のような伝承を付けるには、まだ若々しい生命力の印象が強い巨樹だと思いました。

「黒瀧神社の夫婦スギ」
  三重県松阪市飯高町森129     
 黒瀧神社  
 樹齢:不明
 樹種:スギ
 樹高:40メートル以上
 幹周:9メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2017.10

探訪メモ:
 神社参詣のための駐車場があり、境内周辺にも巨樹予備軍と呼べそうなスギが何本も見られます。
 多量の雨、雪の影響か、ウラスギを感じさせる雰囲気でした。

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