巨樹たち

新潟県中魚沼郡「外丸矢放神社の八本杉」

とびきりイレギュラー、驚きも最大級

 新潟県をぐっと南下し、「見倉の大栃」群の豊かな森に潜航した後、北上しました。
 津南町の町側で、上記の森がなかなか深かっただけに、なんともほっとします。
 ここに、旅の計画段階からぜひ再訪しようと決めていた巨樹があります。

 こういうターゲットが言うまでもなく巨樹旅の起点になる。
 この確かな一点があったことで、謎めいた巨樹の探索探訪にも足を延ばせるというものです。

 蛇行する信濃川を眼下に眺める小高い位置にある「外丸矢放(とまるやはなち)神社」
 すぐ隣には旧津南町立外丸小学校がありますが、残念ながら2015年に廃校となったようです。
 そう言われると、前回の探訪時がまさに2015年、あの時最後の年だったのか……と、感じ入るものがあります。
 (写真はあえて2015年のもの。2023年現在、文字がかなり剥げてきていました)

 見栄えのする杉並木を進んでいくと、突如、明らかに縮尺異常な一本……というか、「一塊」の主幹が目に飛び込んできます。
 スギ巨樹のお決まりとも言えるパターンですが、それにしても、どうしても腑に落ちないくらい、デカい!

 これが「外丸矢放神社(とまるやはなちじんじゃ)の八本杉」
 太い上に背が高すぎ、横構図での撮影を頑なに拒む……。
 幹周:11.3メートル、樹高:40メートル。 
 渡辺典博氏の「続 巨樹・巨木」には幹周:13メートル、樹高:50メートルとの表記もある。
 どちらにせよ大きい……を通り越して、「なんなのこれ!?」……が、包み隠さない第一声でした。
 参道のどの杉よりも高く、寄り添いながら一斉に天を目指している様は、圧巻としか言えません。

 八本と言いますが、折れたせいで今は七本(真ん中の細いのも入れるのだと思います)。
 すがすがしいまでの合体杉です。
 このあからさまな形状を「一本の巨杉が1300年経るうち八本にわかれ」……という人は、まずいませんよね。笑

 この「合体技」は巨樹業界では反則と見なされるらしく、環境省庁のランキングからいまいち相手にされていない。
 八本杉たちに言わせれば、「なんだよー!」ってブーイングしそうですが、そんなこと言ったら、世の中には「16本合体、幹周25メートル」のエイリアンも存在しますよ……。
 (秋田県「法内の八本杉」や京都府「八ツ房杉」などとタッグを組んで業界改革に乗り出すといいと思う ←?)

 こちら「外丸矢放神社の八本杉」にしても、これだけインパクトある巨樹でありつつ、町指定天然記念物どまり(と言っていいのかわからないですが)。
 金看板はなく、ウェブサイト「苗場山麓ジオパーク」の一角にひっそり載っているだけ(しかも幹周間違ってる。これで5.5メートルとか、ありえないだろ笑)。

 境内を探索すると、この八本杉の解釈にも諸説あることがわかります。

 ・神社拝殿の外壁に直接掲示されている木の板に筆文字のものによれば、昭和62年、地元先生の見立てで樹齢1300年とされている。
 ・一方、離れた位置にある新しい解説によれば、落雷炎上後の「植え足し」が記録されており、ここから樹齢が400年とされている。

 まあ、冷静に言って巨樹そのものに対しては後者ですね。
 ただ、矢放大明神に関する謂れは、壁のように目の前を塞ぐ八本杉の姿と相まってとても面白い。
 (とはいえ、この姿ができあがるまでにも数百年必要なはずなんですけどね。)

 変な権威づけがないおかげか、この巨樹のそばにいると妙に気分が明るくなります。
 束になってぐんぐん伸びる、この巨樹ならではの「にぎやかさ」が素晴らしい。
 「俺たちはさー、もっともっと高くなってくんだよ!」
 とか、そんなことを皆で言い合ってるような、憎めない巨樹です。

 最後に、自分で見返して唖然としてしまうヒューマンスケール写真。
 イレギュラーだろうが、このスケールのとんでもなさは否定しようがない。
 個人的に岐阜県「浄安杉」にも匹敵するとも感じる、バカでかく、大好きな巨樹です。

「外丸矢放神社の八本杉」
 新潟県中魚沼郡津南町外丸丁769
 外丸矢放神社
 推定樹齢:400年以上
 樹種:スギ
 樹高:40メートル
 幹周:11.3メートル

 町指定天然記念物
 訪問:2015.5、2023.5

探訪メモ:
 神社に駐車場は見当たりませんでした。
 少し坂を下ったところに冬季のチェーン対処用と思しきスペースがあり、そこに停めました。
 おそらくは町のバスでも訪ねることが可能と思います。

 ちなみに、たまに見かける「全国杉見立番付」では、この八本杉は東の小結に位置付けられています。

探訪旅行記「2023年・新潟県巨樹旅2」もどうぞ。

2015年訪問時

 佐渡から下ってきた2015年5月の新潟県巨樹旅行。
 八本杉はその最後の一本として訪ねました。

 津南町の山あいにはまだゆきがこんもりあった。
 実は、子供時代にスキーで連れてきてもらった記憶があります。
 津南の雪は水分が多くジャリジャリしており、それで慣れてしまったため、会津のパウダースノーではコケまくった……

 まったく、この「壁」と呼ぶべき幹群のインパクトはすごい。
 ずっと鮮明に記憶に残っており、再訪が叶って嬉しかったです。
 多分また会いに行くと思います。

 この神社自体、地域の方々にとても大切にされていることがよくわかります。
 すみずみまで手が入っていることがよくわか……るのですが、手水の龍はコレでいいのか? とか、「氷山登山口 八本杉」「お気をつけていってらっしゃい 八本杉」「一人では行かないでください 八本杉」(※この神社の裏手から氷山という山に登れるらしい)とか、微妙にユーモラスなところも、八本杉のイメージと重なって大変良いです。
 この方々のご先祖あってこその八本杉。そう想像すると違和感がありません。
 良い神社、良い巨樹です。

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