巨樹たち

新潟県中魚沼郡「外丸矢放神社の八本杉」

とびきりイレギュラー、驚きも最大級

 佐渡から下ってきた新潟県巨樹旅行も、これで最後の一本です。
 場所は、津南町。
 ここも子供時代にスキーで連れてきてもらった記憶がある豪雪地帯(少し山に行けば5月でも残雪)。
 津南の雪は水分が多くジャリジャリしており、それで慣れてしまったため、会津のパウダースノーではコケまくった……

 巨樹に移りましょう。
 所在の神社へは山登りもなくアクセス容易、なかなかの杉並木を進んでいくと、突如、明らかに縮尺異常な一本……というか、「一塊」の主幹が目に飛び込んできます。
 スギ巨樹のお決まりとも言えるパターンですが、それにしても、どうしても腑に落ちないくらい、デカい!

 これが「外丸矢放神社(とまるやはなちじんじゃ)の八本杉」
 太い上に背が高すぎ、横構図での撮影を頑なに拒む……。
 幹周:13メートル、樹高:50メートル。
 大きい……を通り越して、「なんなのこれ!?」……が、包み隠さない第一声でした。
 参道のどの杉よりも高く、寄り添いながら一斉に天を目指している様は、圧巻としか言えません。

 八本と言いますが、折れたせいで今は七本(真ん中の細いのも入れるのだと思います)。
 すがすがしいまでの合体杉です。
 どれとは言いたくありませんが、このタイプのスギを指して、

 「主幹は八本に分岐している」「これほど巨大に育つには樹齢1200年」「霊地もしくは上人のパワー云々かんぬん」

 ……などと呼ばわっている例もよく見受けられます。
 なのに、隣にそっくり同じ大きさの一本杉が立ってるとかね。

 「同じ生長速度のスギが八本くっついたのだ」という単純発想がなぜできないのか? 
 首を傾げつつ、大人の事情としてあまり勘ぐらないことにしております。
 自分もだいぶ大人になってきましたので……。

 こちら「外丸矢放神社の八本杉」にしても、樹齢1300年以上と記す向きが一応あるようです。
 ただし、いくつかの条件が作用するため、上記のように誇張された存在になってはいず、ただの町指定天然記念物。
 金看板もなく、ウェブサイト「苗場山麓ジオパーク」の一角にひっそり載っているだけ(しかも幹周間違ってる。これで5.5メートルとか、ありえない笑)。

 まず、上記しましたが、何と言ってもこのあからさまな形状。
 これを「一本の巨杉が1300年経るうち八本にわかれ」……という人は、まずいませんよね。笑
 この「合体技」は巨樹業界では反則と見なされるらしく、環境省庁のランキングから相手にされていない。
 八本杉たちに言わせれば、「なんだよー!」ってブーイングしそうですが、そんなこと言ったら、世の中には「16本合体、幹周25メートル」のエイリアンも存在しますよ……。

 そしてもうひとつ、背景に「植え足し」記録もあるらしいので、言い逃れできない。
 元々ここに大きなスギがあったが、1669年に落雷で炎上し、そのそばに新しいスギを植えてみたら合体してしまった。
 ……という逸話が渡辺典博氏の書籍にありました。

 なるほど「樹齢1300年」はスキャンダラスだ。
 ですが、新旧一体化してこんなに巨大化したなら、かえってこれこそ樹木の驚異と言えると思いますね。

 変な権威がないおかげか、この巨樹のそばにいると妙に気分が明るくなります。
 束になってぐんぐん伸びる、この巨樹ならではの「にぎやかさ」が素晴らしい。
 「俺たちはさー、もっともっと高くなってくんだよ!」
 とか、そんなことを皆で言い合ってるような、憎めない巨樹です。

 最後に、自分で見返して唖然としてしまうヒューマンスケール写真。
 イレギュラーだろうが、このスケールのとんでもなさは否定しようがない。
 個人的に岐阜県「浄安杉」にも匹敵するとも感じる、バカでかく、大好きな巨樹です。

「外丸矢放神社の八本杉」
 新潟県中魚沼郡津南町外丸丁769
 外丸矢放神社
 推定樹齢:400年以上
 樹種:スギ
 樹高:50メートル
 幹周:13メートル

 町指定天然記念物
 訪問:2015.5

探訪メモ:
 神社に駐車場は見当たりませんでした。
 交通量が少なかったので、路肩に停めておいて撮影に向かいました。

 ちなみに、たまに見かける「全国杉見立番付」では、この八本杉は東の小結に位置付けられています。

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