巨樹たち 新潟県中魚沼郡「見倉の大栃」群 / 4 コメント 緑の奔流を泳ぎ、大栃の群れと逢う 新潟県上越市で朝を迎え、「虫川の大杉」を訪ねた脚を南東へと向けました。 1時間ほどのドライブ。津南町を経由、中津川沿いの国道405号をさらに南下し、見倉集落へと向かう道へと逸れる。 この辺りは「秋山郷」といい、江戸時代から秘境として有名だったそうで、「北越雪譜」(曲亭馬琴のお武家プライドの高さを示す例としても有名なアレ)の鈴木牧之が「桃源郷」と呼んだことでも知られている、とのこと。 ここから先、谷川を見下ろしつつ、ところどころで道を譲り合いながら進みます。 徳島県つるぎ町ほどではないにせよ、確かにここも秘境と呼んで差し支えない。 特に深い雪に閉ざされる冬には、秘境レベルは断然アップするはずです。 しばらく進んで見倉集落を通過し、「見倉トンネル」入口横の駐車スペースに駐車。 準備を整え、登山口へ(「苗場山麓ジオパーク」看板の左手に入口があります)。 ……以上が、林野庁「森の巨人たち100選」に名を連ねる「見倉の大栃」までの交通アクセス。 さて……歩くか。 階段は上り口だけですぐ切れますが、ところどころにある標柱や看板を見つけていく感じ。 広葉樹主体の森に包まれ、晴天の日照が鮮やかな緑色に染められると、まるで薄緑色の水中を泳いでいるかのよう。 入口から十分程度歩いただけで、準巨樹レベルのトチノキやホオノキの群れにぐるりと包囲されます。 その中、塊のような根幹で鎮座する大トチが見事。 根のすぐ上から大きく分岐しているので幹周計測は難しそうですが、7、8メートルの評価は十分可能でしょう。 そのすぐ傍らにあるこのホオノキも、白く滑らかな肌が異質で目を惹きますね。 カツラを思わせるような株立ち形状ですが、それぞれの幹周合計でも6、7メートルになりそう。 ホオノキとトチノキの大きな葉がこれだけたくさん視界に入ってくること自体、これまでにない体験です。 惜しげもない広葉巨樹の林立にワクワクしつつ、たった一匹の弱っちい生命体である事実にソワソワもしつつ…… 土石流跡を踏み越えて進んでいくと、右手に標柱。 ここからは斜面を登っていくルートになります。 よく見れば石が階段のように並べられているのがわかりますが、下藪も徐々に勢力拡大して迫ってくる。 最大のトチ巨樹は、この先にあるはず……それだけをモチベーションに一歩一歩進んでいきます。 だいたいにおいて、「大栃まで15分」という、ソレを時間で書くのはどうなんだろう。 斜面はきつくなり、石段かと思われた足場は崩れて転がった苔むした岩石と化し……慣れた誰かの15分は、いったい、弱きワタクシの何分にあたるのですか? と、10分ほどぶちぶちこぼしていたら、また唐突にデカいトチが出現! 幹周5メートル台か、樹皮の感じからして若々しい印象すら抱きました(と言っても、樹齢は2、300年くらいありそうですが)。 頭上で三又にわかれ、ねじれつつ樹高を稼いでいますが、この大枝もけっこうな太さ。 津南町のサイトはこの個体の写真だけを掲載していますが、「森の巨人たち100選」のデータまでの大きさはない。 そのすぐ上手には、6~7メートルクラスのカツラが。 ひこばえの群れではなしに、ぎゅっと詰まった単幹でこの大きさは立派。 トチといい、カツラといい、いずれか一本でもわざわざ訪ねる動機となりそうな巨樹が惜しげもなく……。 まったく、なんてハイレベルな巨樹林なんでしょうか。 そして、十数メートル行けば、さらにさらに、より大きなトチノキが。 幹周囲6メートル以上ありそうで、古代神殿の柱のような直幹のすぐそばを通る際には心拍数が急上昇しました。 平野地ではめったにお目にかかれないであろう素晴らしい大トチ。 空洞もなく、かなり高い位置まで単幹形状で、そこから音叉のような奇妙な二又に分岐している。 ただ、この巨樹とて最大個体ではない……はず。 上記同様、津南町のサイトによるなら、 『途中まではトレッキングを楽しむことができる平坦な道が続きますが、途中からはずっと登りです。入口から約40分。 栃巨木に行かなくても、大きな栃やブナの原生林を充分楽しむことができます。』 とのことで、「幹周囲848センチ、樹高25メートル」という最大トチはさらに急斜面の先にあるように読めます。 ……というのも、踏み分け道すらもここで終点で、あとは各自探検隊せよ! とのことらしい。 藪、斜度、孤独感もなかなか。 足を滑らせて数度転びかけるうち、片方のストックが壊れる憂き目に遭って、つい、 「ここまでで、いいかも……」 そう呟いてしまいました。 ほんと情けないですが、この時の正直な心境です。 ともあれ、この地点まででも十分満足。事実すぎる事実です。 これほどたくさんのトチ巨樹群を目撃したのは初めてで、まだまだ日本の森は枯れてはいない! と、感動に胸が潤いました。 秋山郷の秘境風景撮影やスリルドライブもパッケージにぶち込んで、いつか再チャレンジしたい。 足腰は丈夫でいないといけませんね。 「見倉の大栃」群 新潟県中魚沼郡津南町秋成 推定樹齢:500~800年 樹種:トチ 樹高:25メートル 幹周:8.48メートル(最大のもの) 森の巨人たち100選 訪問:2023.5 探訪メモ: おーい、どこなんだァ? ……と、最大大トチ、実はあと少しだったようです。遠目ではどれだかわからないくらい、でかい木が多すぎる! クマ避け鈴(よく鳴るやつ)、登山靴、虫よけ、ストックが必要、さらに言うなら、パーティで行けるに越したことはないと思います。 「森の巨人たち100選」の銀パネルは出発点のあずまやにあるようです。 探訪旅行記「2023年・新潟県巨樹旅2」もどうぞ。 関連
to-fu 2023年6月15日 at 6:54 PM 返信 おお…これは凄い。こんなところがあったのか。からの、最後が共感出来すぎてしまって笑いました。 いやあ分かります。あと少しだったなんてのは結果論で、実際歩いてると永遠に辿り着かないような気分になりますよね。 特に遠征先だとその後の目的地もあったりで行くべきか引くべきかの葛藤が。 いつか三人会の目的地として踏破を目指すのも悪くないですね。(要は、一人で行くのが不安) しかしこれトチ、ホオノキ、カツラの巨樹ってどれもが我々が暮らす人里での非日常ではありませんか。 そして、どの樹種も春の鮮やかな緑が映えるやつばかり。デカい!ミドリ!以上。それがいい。 小難しい解説なんて必要としない世界、写真を見るだけでも実に痛快です。 夏場は蚊だけでなくアブも凄そうなので、実際訪れるとなると春と秋のごく短い時期以外は難しいでしょうね。 そういう意味でも実に貴重な体験のように思えます。 ※業務連絡です。ブログ記事のリンク先指定が新潟巨樹旅の記事のURLになっているっぽいです。
狛 2023年6月16日 at 4:23 PM 返信 to-fuさん> 100選にあげられているとは言え(というかそれ自体が波乱の象徴)、ここもほぼデータがなく、遠いは遠いわけだし、迷ったあげく結局はイキオイでした。 人間の小ささを感じるってのはこういうことかと……森のなかに独りぼっちでいると、視野は狭まる一方です。 同じような思いをした探訪者さんも多いのではないでしょうか。 今、今こそパーティ編成を求めている! などと森の中心で孤独を叫んでもみましたが(クマ避け)、藪嫌いの人には断られそうかも。苦笑 しかし、大げさでなく、広葉樹がこれほど主役を張っている森、今やそうお目にかかれるもんじゃないはず。 ほとんど引けないので巨樹として撮るなら超広角必須で、今回はそれに終始して案の定ミドリまみれですが笑、標準~中望遠で細部を見つめられなかったのも、思い返せば勿体なかった。 最大大トチ到達を目論むのはもちろんですが、入口から遠くない距離にあるトチやホオノキ、その他それぞれをもう一度じっくり眺めるだけでも再訪価値は十分あると言えます。 オススメの森です。 ※いつもながら業務連絡恐縮です。まとめてみて完全に満足してテストするのを忘れました。 ありがとうございます!
RYO-JI 2023年6月16日 at 11:40 PM 返信 相変わらず狛さんの探求心には驚かされます。 私だったら事前調査の段階ですでに却下、もしくは現地に着くなり撤退してそうな場所です(笑)。 例えクマが絶対にいないと言われても一人で行くのはなかなかに勇気が要りそう。 でもある意味人を寄せ付けないそういう環境だからこそ、これだけの巨樹群が残っているのかもしれませんね。 今回は大トチ直前で満足されたとのことですが、いやこれ見たら『そりゃそうでしょう!』と言いたくなりましたよ。 だってメインのトチ以外にも主役級がゴロゴロしてて、普通だったらそれら一本だけで満足できる探訪になるでしょう。 なのに一つの記事でまとめようとするのは難しいと想像しますが、何より拝見するコッチは凄い贅沢感(笑)。
狛 2023年6月17日 at 1:25 PM 返信 RYO-JIさん> 単独行で心細い思いをしたくせに、こういうのに挑めた動機としては「完全自己責任で失敗OKだったから」と言うしかないですね。 クマが絶対いないとは言えない……と言いますか、むしろ絶対いると言ってますしね、ここは。汗 伐採してもパルプ材くらいにしかならないらしいのに、広葉樹の大径木がどんどん姿を消している昨今、想像の上を行く豊かな森で感動的でした。 逆に、これだけの巨樹たちが「その他大勢」になってしまうのはとても贅沢で、惜しくもありますよね。 (っていうか、それで最大トチ未到達だとは……) こういうとこからも、RYO-JIさんにもぜひ生で見ていただきたいですね。笑
4件のコメント
to-fu
おお…これは凄い。こんなところがあったのか。からの、最後が共感出来すぎてしまって笑いました。
いやあ分かります。あと少しだったなんてのは結果論で、実際歩いてると永遠に辿り着かないような気分になりますよね。
特に遠征先だとその後の目的地もあったりで行くべきか引くべきかの葛藤が。
いつか三人会の目的地として踏破を目指すのも悪くないですね。(要は、一人で行くのが不安)
しかしこれトチ、ホオノキ、カツラの巨樹ってどれもが我々が暮らす人里での非日常ではありませんか。
そして、どの樹種も春の鮮やかな緑が映えるやつばかり。デカい!ミドリ!以上。それがいい。
小難しい解説なんて必要としない世界、写真を見るだけでも実に痛快です。
夏場は蚊だけでなくアブも凄そうなので、実際訪れるとなると春と秋のごく短い時期以外は難しいでしょうね。
そういう意味でも実に貴重な体験のように思えます。
※業務連絡です。ブログ記事のリンク先指定が新潟巨樹旅の記事のURLになっているっぽいです。
狛
to-fuさん>
100選にあげられているとは言え(というかそれ自体が波乱の象徴)、ここもほぼデータがなく、遠いは遠いわけだし、迷ったあげく結局はイキオイでした。
人間の小ささを感じるってのはこういうことかと……森のなかに独りぼっちでいると、視野は狭まる一方です。
同じような思いをした探訪者さんも多いのではないでしょうか。
今、今こそパーティ編成を求めている! などと森の中心で孤独を叫んでもみましたが(クマ避け)、藪嫌いの人には断られそうかも。苦笑
しかし、大げさでなく、広葉樹がこれほど主役を張っている森、今やそうお目にかかれるもんじゃないはず。
ほとんど引けないので巨樹として撮るなら超広角必須で、今回はそれに終始して案の定ミドリまみれですが笑、標準~中望遠で細部を見つめられなかったのも、思い返せば勿体なかった。
最大大トチ到達を目論むのはもちろんですが、入口から遠くない距離にあるトチやホオノキ、その他それぞれをもう一度じっくり眺めるだけでも再訪価値は十分あると言えます。
オススメの森です。
※いつもながら業務連絡恐縮です。まとめてみて完全に満足してテストするのを忘れました。
ありがとうございます!
RYO-JI
相変わらず狛さんの探求心には驚かされます。
私だったら事前調査の段階ですでに却下、もしくは現地に着くなり撤退してそうな場所です(笑)。
例えクマが絶対にいないと言われても一人で行くのはなかなかに勇気が要りそう。
でもある意味人を寄せ付けないそういう環境だからこそ、これだけの巨樹群が残っているのかもしれませんね。
今回は大トチ直前で満足されたとのことですが、いやこれ見たら『そりゃそうでしょう!』と言いたくなりましたよ。
だってメインのトチ以外にも主役級がゴロゴロしてて、普通だったらそれら一本だけで満足できる探訪になるでしょう。
なのに一つの記事でまとめようとするのは難しいと想像しますが、何より拝見するコッチは凄い贅沢感(笑)。
狛
RYO-JIさん>
単独行で心細い思いをしたくせに、こういうのに挑めた動機としては「完全自己責任で失敗OKだったから」と言うしかないですね。
クマが絶対いないとは言えない……と言いますか、むしろ絶対いると言ってますしね、ここは。汗
伐採してもパルプ材くらいにしかならないらしいのに、広葉樹の大径木がどんどん姿を消している昨今、想像の上を行く豊かな森で感動的でした。
逆に、これだけの巨樹たちが「その他大勢」になってしまうのはとても贅沢で、惜しくもありますよね。
(っていうか、それで最大トチ未到達だとは……)
こういうとこからも、RYO-JIさんにもぜひ生で見ていただきたいですね。笑