巨樹たち

岐阜県郡上市「浄安杉」

石徹白を見守る巨大杉の城塞

 岐阜県の中北部、福井県と接する山深い土地、石徹白(いとしろ)にやってきました。
 白山信仰の本拠地である白山中居神社の裏手、案内板に従って山道へ入り、なかなかしんどい数百メートル……あらかた息が切れた頃、尾根状の地形に、その巨大な杉は姿を現しました。「浄安杉」です。

 スギの巨樹の、この登場時のカタルシスがたまりません。
 あれだ。あそこにいる。見間違いようもない巨躯がそびえている。
 しかし……なんだ、おかしいくらいに、でかいぞ。
 なんだ……これは。

 初見で二又に思えた姿は、驚くべきことに、四又であることが判明します。
 四角フォーメーションを組んでいるので、角度によっておばけ煙突式に二又にも見えるのです。

 四本のどれもが等しい太さ高さで立ち上がっている。
 そしてあえて言うべきは、例えこれが一本しかなくとも十分巨樹と呼ぶ範疇に入る逞しさであるということ。
 それなのに、それが四倍。こんなことがあっていいのか!? と問いかけたくなるような巨大さです。

 ふり仰ぐ。
 塔のような高さと砦のような逞しさ。
 みなぎる生き生きとした力強さは、次にはその印象を巨人のようだとも思わせる。

 しかし、これほど巨大な存在に接しているのに、こちらの気分はすこぶる穏やかです。
 京都での伏条台杉を野獣の群のようだと恐れた、あの感じとは全く違います。
 とても見晴らしのいい一等地に陣取って、森全体を見守っておられるのだな。
 強い信頼感に似た感情が湧き起こり、思わず嬉しくなって笑んでしまいました。
 樹皮に触れてみると、じんわりと温かい……。

 ともあれ、どのようにしてこの「×4」という存在に成ったのかとても気になります。
 「黒瀧神社の夫婦杉」に、「高井の千本杉」なんてのもありましたが、「等しく四倍」というのは、これまでにないケース。
 その秘密を知るべく裏側に回ると、なかなか興味深い姿を見ることができました。

 前方、側方から見た感じでは見事に融合しているものが、後方からだと、このように多少こんがらがっている。
 「個」の中に、また別の「個」を感じる眺めです。

 同時に生育した四本の杉が成長するにつれ合体した……ということでしょう。
 この樹だけでなく、「分岐している」と記述される複数幹の杉巨樹のほとんどが、同時生育の合体樹だろうと思われます。
 根拠はありませんが、天然杉ではなく、大昔の人の手によって植えられた樹ではないかとも感じる。

 枝はそれほど密ではなく、光が多いのであろう一方向に10メートルほども大枝を伸ばしています。
 他の樹ではアンバランスになってしまうところでしょうが、この根幹があれば何も問題はないと見せつけるかのよう。

 石徹白へは二度訪ねていますが、ぜひやってみたかったのが、浄安杉の幹周囲実測。 
 独りではとても測れませんが、思案し……写真愛好家に馴染み深いパーマセルテープを取り出しました。パーマセルさえあれば何でもできるんです。

 濡れた杉の樹皮にはさすがのパーマセルもなかなかくっつかない。
 しかも、浄安杉の立地は思ったより高低差が大きく、正確にはスケールを回せない。というか、ものすごい繰り出し……
 ……で、一応得た数値がコレです。12.7メートル! 凄い! 公証数値よりも多少大きいですが、育ったとしても不思議はない。
 いつか、複数人でより正確に計測してみたいものです。

 山道の入り口にある解説文。
 なるほど烏が……で、あの、この故事の教訓は? と、ちょっと拍子抜けする謂れですが、もしかしたら埋蔵金があるのかも?笑 ちょっとコミカルな絵が浮かぶような展開です。
 これほどの巨樹、泰澄大師が何かを四本突き刺してエイッ! ……という物語でも納得するところですけれどね。

 樹齢を書こうとして、よくわからなくなったようでもあります。
 この浄安の時代にすでに目立つ大きな樹であったことを踏まえれば、500年ほどの樹齢があってもおかしくはなさそう。
 何にせよ、健全かつ立派な巨樹。出会えて大満足です!

「浄安杉」
 岐阜県郡上市白鳥町石徹白
 白山中居神社
 樹齢:不明
 樹種:スギ
 樹高:32メートル
 幹周:12.7メートル(実測)

 県指定天然記念物
 訪問:2017.10、2019.10

探訪メモ:
 300メートルの山道は日によってコンディションが変わると思います。
 この先、もちろん「石徹白の大杉」を見に行くわけですし(断定)、トレッキングシューズ、雨具、熊鈴は準備しておくべきです。

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