巨樹たち 福島県二本松市「杉沢の大スギ」 / 4 コメント 孤高すぎる巨大一本杉 またここへ来てしまった……。そんな感じでした。 その、とんでもなく大きな杉の名は「杉沢の大スギ」。 紛れもなく東北を代表する巨杉の一本であり、巨樹好きとしては避けては通れないカリスマと言えます。無論、国指定天然記念物。 実際、自分も3度……いや、4度? 訪問を重ね、その都度少なくない枚数を撮っているのです。 が、ちっとも満足がいかない。記事にする気にもなれない。 正直、撮るのがものすごく難しい樹、なのです……。 変な導入になってしまいましたが、まずはストレートすぎるこの巨樹の魅力を感じてみてください。 ……なにせデカい。今一度、トップの写真を見ていただきたいのですが、樹高50メートル以上の巨樹の元に立つと、人間なぞ、お米粒のように見えるのです。 古くからこの地に立っていたことは明らかで、地域全体が篤い敬意を払っている。 「三春滝桜」は殿様が気に入るあまり「枝の下は年貢を取らない」と言ったそうですが……そのような表記はないながらも、相当な面積がこの杉の生育のために保護され、現在でも広大な農村公園のように整備されています。 ために、ギスギスした競争もなく、ますます巨大に育っていったということが伺えます。 <2019年訪問> ここからは過去の写真も交えながらお送りします。 雪が残っている2019年は、4月に、まさに「三春滝桜」とその周辺の桜を巡り、その戻り道で立ち寄りました。 市は違うものの、ルートとしては苦もなく、これほどランクの高い巨樹たちをラインナップできるのですから、採用しない手はない。 写真のことを書きましたが、この時の写真が一番よく撮れていたように思います。 がしかし……先ほど褒めたものを貶すようでナンですが、春の三春、あれは反則です。 たとえ2019年、勇み足過ぎたとしても(咲いてなかった)、春を爆発的に謳歌するあの特別な空気に浮かれ、なんだか頭がおかしくなっていました。 どうしてかカメラの設定がイロモノになってた上に、RAWで撮るのを忘れていた。 いやもちろんそれは自分がドジだったせい。 しかし、それにしてもこの大巨樹のことをホンワカとしか思考できなかったことには、後悔しきりでした。 ……すみません。後悔のあまり、余計な文章が長くなってしまいました。 見てください。 も何も、「杉沢の大杉」は全く、非の打ちどころがない巨樹です。 樹高50メートル以上、地上1.3メートル地点での幹周囲は12.6メートルという、素晴らしいとしか言いようがない巨大さ。 日本を代表する巨樹の一本としてリストアップされてしかるべきです。 そして、それ以上に驚くべきことは、これが一本杉であるという立地的な事実です。 「苛烈な生存競争の上で巨大にならざるを得なかった」などという物語もここには存在せず、むしろ彼を守る雑木の群れや山陰も皆無なため、これまでの数百年から千年、強風や落雷の恐怖からどうして身を守れたのかが不思議でなりません。 ただし、姿形をよくよく見ていると、合体樹である可能性は捨てきれないかも。 この開けた土地に巨樹を育てたいという強い願いがあった場合、幾本かの苗を同時に植える手法はあったと思うのです。 いや、それだとしても、普通は落雷で真っ二つ、または炎上でしょう。奇跡と言って過言ではない立ち姿です。 <2020年訪問> 2020年はコロナ禍ゆえ三春の花見大会はお預け、出張で宮城から茨城への南下路、せめて道中の巨樹を見て行こうと考えました。 「三田八幡神社のケヤキ」「田中稲荷神社のヒノキ」というキワモノ系、これも相当大きい「東禅寺のめおと杉」を訪ねた後、予期せずこの杉の前に出てしまいました。 2度不本意を経験しており、はっきりと「あの巨樹はニガテ」という意識があって、素通りしようとも思いましたが、あと100メートル先にこの巨大杉が聳え立っているという引力は抗い難い……無視できますか? これを? 手元に新しい超広角レンズがあったことにも押され、3度目、この大杉に挑みました。 ……結果。ダメでしたね。今回も惨敗です。 やはり、比較対象が全くない中で、この体躯の巨大さ雄大さをどう表現していいのか、わからない。 ヒューマン・スケールを使うことだけはできるものの、それだけではあまりにも馬鹿らしいというか……手応えのない写真になってしまうのです。 確かに、超広角レンズを使えば全体像を撮ることができるのはわかりましたが、だからどうだと言うのでしょう? ああ、これじゃない、これじゃない……そればっかりです。 しかも、この訪問時すでに16時を回っていたのも泣き面に蜂。 真横から差す強烈な西日は、異常なコントラストとゴーストで写真をコテンパンにしてくれました。 なんということか……。 打ちひしがれる僕に、庭園の世話をしている優しいおじさんが声をかけてくれます。 「コスモスの苗、持ってかねえか?」 二本松藩時代かられっきとした大杉であり、近くに神社がないながらも神木として特別視されていた。 ユニークなのは、この杉が娘(その名も「お杉」)に化けてお伊勢参りに出かけたという昔話があること。 旅慣れた若者とともに念願のお伊勢参りを果たすも「杉沢の里に帰りたい……」とホームシックになってしまう。 そりゃ、これだけ良い環境なら納得。 無事戻ってきて、お杉さんは子宝に恵まれたらしい。 樹木との異類婚譚とは、民話的にもかなり珍しい部類なのではと思います。 お杉さんの子孫、ものすごく長寿だったりするんでしょうかね。 広大な大杉公園には手入れが行き届き、四季それぞれのお花畑が美しい。 きれいな草地、遊具と四阿のゾーンもあるし、梅雨時の斜面にはたくさんの紫陽花が並ぶでしょう。 記念館(資料館?)のような建物もあり、写真やパンフレットが閲覧できる他、巨樹マニア垂涎の「日本杉見立番付」も。 この錚々たるメンツ……見ていて飽きません。部屋に貼りたい。(あの新潟県「外丸矢放神社の八本杉」が小結に……ちょっと嬉しい笑) ……主観に満ちた変なエッセイみたいになってしまって申し訳ないです(いつものこと?)。 それほど、この大杉が印象深いのだと思っていただければ幸いです。 それでまず間違いない。この巨樹は裏切りません。 いつでも、ド直球に、あなたに「巨樹とは」をぶつけてくれることでしょう。 自分が小さな小さな人間であることを認めつつ、しっかり受け止められるか? 多分、近いうち、4度目の試験を受けに行くことになるのだと思います……。 「杉沢の大スギ」福島県二本松市杉沢推定樹齢:600年樹種:スギ樹高:50メートル幹周:12.6メートル国指定天然記念物福島緑の文化財指定訪問:2016.3、2019.4、2020.7 探訪メモ: アクセス、駐車スペースともに全く問題ありません。 大変に気持ち良い環境で、お子様連れでもゆったりと楽しめると思います。 二本松は巨樹多い市でもあり、ツアーにも最適。 ネット地図で検索すると「杉沢の沢スギ」というややこしい名前の樹もヒットします。富山県の天然記念物で、湿地に生育するという世にも珍しい杉(群)。杉の進化の多様さを物語るこちらも、いずれぜひ訪ねてみたいと思います。 関連
to-fu 2020年9月12日 at 5:21 PM 返信 この杉沢の大スギはもちろん存じ上げていましたが、ここまでその巨大さが伝わる写真を見たのは初めてです。枝ぶりにどことなくヒノキを思わせるような荒々しさがあり、近畿圏のスギはもちろんのこと獣のような北陸のスギとも違う。まるで峻険な山でも眺めているようで新鮮です。 仰るように余りにも巨大な存在ってどう頑張っても2次元のキャンバスには収まり切らないと思うんですよね。それこそあの四国の加茂の大クスや杉の大杉なんかも全く同じことを感じました。(そしてもちろん写真には全く満足なんて出来てない。)でもだからこそ面白い。それこそ腕を磨いて機材も取っ替え引っ替えしながら、一生をかけて挑戦し続ければいいのかなと考えています。それにしてもあの雄大さを一瞬で3次元に写し取る人間の目、その迫力をやはり一瞬で咀嚼してしまう脳みそ…人体って凄いなあと改めて思いますよ。現代科学最先端の撮影機材をもってしても、まだまだ人体には敵いませんからねえ。 番付を興味深く拝見しました。スギの巨樹は結構な数を回ってきたつもりでいましたが、まだ未訪問のものはもちろんのこと全くノーマークだった巨樹も多くあってスギ界の奥深さを改めて痛感させられますね。
狛 2020年9月12日 at 10:24 PM 返信 to-fuさん> かの渡辺本でも惚れ惚れするような理想的巨樹として書かれていたのが印象深いです。樹形がキレイですよね。 しかしその魅力を持ち帰ろうとするのは、本当に難しい! 隙がないとも言えると思います。 確かに、杉の大杉、加茂の大クスと似たタイプの存在感の巨大さがあり、どこをどう撮るべきなのか目が迷ってしまいます。ましてや全体像を撮ろうなぞ……。 RYO-JIさんも同じように言われてますが、いっそドローンまで導入して体感的視覚というか、そういう像を得るまでやらないとダメなのかも。 一方で、無限段の多焦点合成機能を持った肉眼を持ちつつも、スチル撮影にもまだまだ可能性があるということを我々は知っている。だからこそ何度もチャレンジしてしまうんですよね。 いっそ明け方とか夕暮れ、この杉の特別な表情を狙えることを期待してみるのもいいかもしれません。 スギの番付は、素直に相撲のそれとイメージが重なり、俺の贔屓はどこにいるんだ?! みたいに見てしまいますよね。笑 ああやっぱりというのもあり、屋久島部屋が外国勢に見えたり、それもあれもになったり。 興奮しますね、この21世紀場所。
RYO-JI 2020年9月12日 at 9:25 PM 返信 しばらくは近隣の身近な(小ぶりの)巨樹を回ってそれはそれで充実しているんですが、 こんな番付の上位に来る巨樹を見てしまうと我慢が・・・(笑)。 想像を軽く超えてくる圧倒的なスケール感が巨樹最大の魅力でもあると思うので、 これはまさに心臓を一撃で貫く存在ですね。 そうですかそうですか、これ以上ないと思われる武器15-30mmをもってしても敗北感に包まれるとは。 こうなったらもう魚眼でグワ~ンとやっちゃうか、文明の利器ドローンで見下してやるしかないのかもしれませんよ(笑)。 まぁ冗談はともかく、手に負えないような存在には数多く通って数を撮って納得できる一枚を手にできれば最高でしょうね!
狛 2020年9月12日 at 10:34 PM 返信 RYO-JIさん> 僕も小ぶりなもの、イロモノが多かったように思うんですが、その中でこの樹の前に偶然出てしまうとは。 自分でも、「寄ってけ。でもまた撮らしてやらん。笑」と言われているように感じました。 むっずかしいんですよ、これが。ハイ、すごくでかい。で、どうする? みたいな。 欠点らしい欠点、影らしい影も無いところがまた困ってしまうところ。ぜひRYO-JIさんもこの場にお連れして、感想を聞いてみたいです。 15-30ミリがあれば何とかなると思ったわけではありませんが、ここまでどうにもならないとも思ってなかったです。笑 ちょっと半周撮ってみて、あ、こりゃやっぱダメだ、みたいな。 スケールと貴重さしては特天クラスに匹敵すると思うので、もちろん無断ドローン使用はアウトですが、このとんでもなく高いトップからの眺めを一度体感してみたいものです。 近くを通ったら、また寄ると思います。今度はちょっと変わった切り口で。ええ、頑張ります……。
4件のコメント
to-fu
この杉沢の大スギはもちろん存じ上げていましたが、ここまでその巨大さが伝わる写真を見たのは初めてです。枝ぶりにどことなくヒノキを思わせるような荒々しさがあり、近畿圏のスギはもちろんのこと獣のような北陸のスギとも違う。まるで峻険な山でも眺めているようで新鮮です。
仰るように余りにも巨大な存在ってどう頑張っても2次元のキャンバスには収まり切らないと思うんですよね。それこそあの四国の加茂の大クスや杉の大杉なんかも全く同じことを感じました。(そしてもちろん写真には全く満足なんて出来てない。)でもだからこそ面白い。それこそ腕を磨いて機材も取っ替え引っ替えしながら、一生をかけて挑戦し続ければいいのかなと考えています。それにしてもあの雄大さを一瞬で3次元に写し取る人間の目、その迫力をやはり一瞬で咀嚼してしまう脳みそ…人体って凄いなあと改めて思いますよ。現代科学最先端の撮影機材をもってしても、まだまだ人体には敵いませんからねえ。
番付を興味深く拝見しました。スギの巨樹は結構な数を回ってきたつもりでいましたが、まだ未訪問のものはもちろんのこと全くノーマークだった巨樹も多くあってスギ界の奥深さを改めて痛感させられますね。
狛
to-fuさん>
かの渡辺本でも惚れ惚れするような理想的巨樹として書かれていたのが印象深いです。樹形がキレイですよね。
しかしその魅力を持ち帰ろうとするのは、本当に難しい! 隙がないとも言えると思います。
確かに、杉の大杉、加茂の大クスと似たタイプの存在感の巨大さがあり、どこをどう撮るべきなのか目が迷ってしまいます。ましてや全体像を撮ろうなぞ……。
RYO-JIさんも同じように言われてますが、いっそドローンまで導入して体感的視覚というか、そういう像を得るまでやらないとダメなのかも。
一方で、無限段の多焦点合成機能を持った肉眼を持ちつつも、スチル撮影にもまだまだ可能性があるということを我々は知っている。だからこそ何度もチャレンジしてしまうんですよね。
いっそ明け方とか夕暮れ、この杉の特別な表情を狙えることを期待してみるのもいいかもしれません。
スギの番付は、素直に相撲のそれとイメージが重なり、俺の贔屓はどこにいるんだ?! みたいに見てしまいますよね。笑
ああやっぱりというのもあり、屋久島部屋が外国勢に見えたり、それもあれもになったり。
興奮しますね、この21世紀場所。
RYO-JI
しばらくは近隣の身近な(小ぶりの)巨樹を回ってそれはそれで充実しているんですが、
こんな番付の上位に来る巨樹を見てしまうと我慢が・・・(笑)。
想像を軽く超えてくる圧倒的なスケール感が巨樹最大の魅力でもあると思うので、
これはまさに心臓を一撃で貫く存在ですね。
そうですかそうですか、これ以上ないと思われる武器15-30mmをもってしても敗北感に包まれるとは。
こうなったらもう魚眼でグワ~ンとやっちゃうか、文明の利器ドローンで見下してやるしかないのかもしれませんよ(笑)。
まぁ冗談はともかく、手に負えないような存在には数多く通って数を撮って納得できる一枚を手にできれば最高でしょうね!
狛
RYO-JIさん>
僕も小ぶりなもの、イロモノが多かったように思うんですが、その中でこの樹の前に偶然出てしまうとは。
自分でも、「寄ってけ。でもまた撮らしてやらん。笑」と言われているように感じました。
むっずかしいんですよ、これが。ハイ、すごくでかい。で、どうする? みたいな。
欠点らしい欠点、影らしい影も無いところがまた困ってしまうところ。ぜひRYO-JIさんもこの場にお連れして、感想を聞いてみたいです。
15-30ミリがあれば何とかなると思ったわけではありませんが、ここまでどうにもならないとも思ってなかったです。笑
ちょっと半周撮ってみて、あ、こりゃやっぱダメだ、みたいな。
スケールと貴重さしては特天クラスに匹敵すると思うので、もちろん無断ドローン使用はアウトですが、このとんでもなく高いトップからの眺めを一度体感してみたいものです。
近くを通ったら、また寄ると思います。今度はちょっと変わった切り口で。ええ、頑張ります……。