巨樹たち

長野県長野市「臥雲の三本杉」

1日で180m移動した巨樹

 長野市、山中の集落を結ぶ道をくねくね走り抜け、だいぶ標高を登ったところに臥雲院というお寺。
 その崖下のような場所に、印象深い杉の巨樹があります。
 「臥雲の三本杉」です。
 写真ような、変わった立ち姿。今回は変わり種の杉に多く出会う旅です。

 お寺や神社が所在地の巨樹なら、もちろんカーナビにその施設名を入力すればいいのです。

 実際、巨樹探訪の最も簡単安穏なパターンであり、ほぼ必ず目的地にたどり着ける。
 巨樹の安否は別としても、とりあえず寺社には行き着く。
 しかし今回は、いくら検索しても「臥雲院」が出てこない。土地勘のない山中、これは困る。

 結局、霊感?に従ってうろついていたら、道端で「←臥雲院」みたいな標識に出くわし、無事到着しましたが。
 到着したらしたで、カーナビにしれっと表示されている。
 これは一体? 調べてみると、「がうんいん(検索結果0件)」だとてっきり思っていた「臥雲院」が「がういん」だった……という事実。これはわかんない。

 おかげで時間がかかり、杉の元にたどり着いたのは夕方近くでした。
 その風変わりな杉の樹は、緑をたくさん茂らせて立っていました。
 直立というより、だいぶ斜めに。

 合体樹であると隠そうとしていない、堂々たる佇まい。
 三本杉の名の通り、三本(あるいはもっと?)の幹が横並びに融合したような姿をしています。
 しかし……傾いている。
 見方によっては、45度くらいの急角度に見えます。
 引きの全体像写真に戻ってもらえるとわかりやすいかも。

 新しい枝葉は地球の地磁気を感じ取っているかのように各々が垂直に伸びています。
 斜面の開けた方に枝が密集しているため、普通の杉の格好にはならず、まるで背中にトゲをいっぱい生やした恐竜……怪獣みたいな姿だな、と感じます。

 なぜ片側にしか枝がないのか? 怪獣の腹側に回っると、理由がわかります。
 その眺めはショッキングでもある。
 何か強烈な力によって引き裂かれたような有様。
 中心部は白骨化しており、空洞化も進んでいます。
 巨樹にここまでの痛手を負わせたのは何者だろう?

 手がかりは、傷跡の黒い部分……つまり炭化にあります。落雷です。
 いつかは知れず、直撃した雷に引き裂かれたせいで、片側に枝が育たなくなってしまったのでしょう。

 面白いのは、背中側に回り込むと全然違った姿に変貌するところ。
 背側から見た三本杉は無傷で逞しく、一本の巨大な杉に見えます。
 強烈な傾きはどうしようもなく、まるで木製の巨大滑り台。
 ダメージは深刻だと思いますが、この二面性のおかげで、まだ枝を茂らせて生きていけるようです。

 落雷の傷は理解できたとして、この傾きの説明はつかない……。
 巨樹探偵(?)は現場を歩き回りながら灰色の脳細胞を励まし続けます。
 実はそれ、解説文に答えが載ってるんですが(ネタバレかよ)……これまた奇想天外。

 なんとこの巨樹、元居た場所から移動した経験があるのです。しかも1日で180メートルも。
 その時すでに巨樹であったため、停止したままの角度で固着してしまったということらしく……。

 もちろん巨杉がノシノシ歩きはしないので、犯人は地震です。
 1847年に襲った震災で、崖上にあった大杉が崖ごと滑り落ちてきたのだそうです。

 あまつさえその後雷に打たれる。なんてツイてない大杉!
 と同情しますが、杉自身は変わった格好のまま、やれやれ……とでも言いたげに健気に生き続けています。

 崖上の眠月山臥雲院は立派なお寺。
 この地域の方々の心の拠り所なのでしょう。 

 寺の方から三本杉を見下ろして気付く……不思議なことに、近くに生育している杉の若木が、なぜか二又、三又の木ばかりです。
 三本杉の遺伝子を引き継いでいるのではないかと思えてしまう光景です。

 「1847年の地震」の記載、どこかで見た記憶があるなと思ったら、「赤岩のトチ」の下の崖を崩落させた地震と同一です。
 「善光寺地震」と呼ばれるM7.3の震災で、死者は市内だけでも2400名を超えたそうです。

 重なる災難を乗り越えた三本杉ですが、深いダメージのせいで倒壊するのではないかと心配です。
 持ち前のタフさを感じられますが、なんらか処置も望みたいですね。

「臥雲の三本杉」
 長野県長野市中条村 臥雲院
 推定樹齢:600年
 樹種:スギ
 樹高:39メートル
 幹周:8メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2017.5

 探訪メモ:
 今一度、「がういん」。
 けっこうクネクネと登り、山奥まで来てしまった感があったのですが、お寺は意外なほど立派で、格式を感じました。

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