巨樹たち

新潟県村上市「小俣白山神社の大杉」

幼子を愛でる新潟最北の巨杉

 2023年5月、新潟県巨樹探訪。第一弾はこの大杉に決めました。
 地図に明らかですが、「新潟県で最も北に位置する巨杉」と言って過言ではないのでは。
 擁する小俣(おまた)集落へは東西に走る県道52号が唯一のルートですが、舗装はキレイ。
 「険」道でないのが救いです。

 リサーチ段階で気付きましたが、巨樹の最寄には駐車可能なスペースがなさそうです。
 集落内は道幅が細く、両側に建物が寄り沿っていて、無理に停めれば迷惑がかかりそう。

 で、目を付けたのが、より手前(西)にある「日本国ふれあいパーク」
 変なネーミングですが、「日本国」は山の名前で(標高555メートル)、小学校跡を登山客のための駐車場にしてくれています。
 (この観光地図にある樹齢800年の大栃も気になりますね。今回は無理でしたが、覚えておこう……)

 無事駐車し、看板の側面に写真のような記述を見つけました。
 登山者のみならず巨樹愛好者も歓迎なのね、と、ほっとしますね。

 ・目指す大杉は「姥杉」とも呼ばれているらしい。
 ・「生まれた子の成長を祈願し、木の下で泣かせる風習が残っています」。

 これらは巨樹の元の解説にない情報で、あえてここに停めて良かった! と嬉しくなりました。

 白山神社までは850メートルほどありますが、小俣集落の宿場町の風情を眺めながら歩くのはとても気持ちいい。
 人口は2021年時点で107人だそう。
 昔も今も、冬の厳しさと長さは相当なものでしょうが、それだけにこの季節の喜びが感じられます。

 白山神社は道から全く見えず、入り口すら目立たない。
 「ここです」、としか示しようがなく、この標柱の脇の細い道?を辿って、家屋の裏に回り込んで進んでいきます。
 そのまま数十メートル行くと……

 出ました、「小俣白山神社の大杉」です。
 幹周囲10.2メートルと堂々たる体躯で、巨樹ぞろいの新潟県内でも無視して通れない存在感を放っていると言えるでしょう。
 大きさだけでなく、茨城県「佐久の大杉」を彷彿とするような老杉でもある。
 そこから姥杉という別名がついたのでしょうが、条件反射的に「もしや反対側に爺杉もあったのでは……?」と想像しました。
 となると向かって右側の空間が気になりますが、巨樹の痕跡は見当たりませんでした。

 横を通ろうとして、膨れ上がった根幹の大きさに改めて驚く。
 根本に「全国巨樹調査認定標」の標柱があり、裏面には「平成十二年度調査 山北町教育委員会」
 環境省DBでよく見る2000年の調査というやつでしょうか。
 上記幹周数値は信頼できそうですが、果たしてそれからも23年経ったわけで、(今はもっと大きいんじゃ……?)が本音です。
 「熊杉系」とは、初めて聞くワードですね。

 樹高もかなり高い。
 途中、幹を突き破って裏杉の本性があふれ出たような変則的な姿。
 落雷・強風・豪雪のどれかで半身削げた後、自力で再生を果たした過去があるのかも。

 まるで別のスギが突き刺さって育っているかのような複雑な様相の樹冠部。
 山形県「石山の大スギ」、福井県「飯盛杉」、千葉県「清澄の大スギ」など、さまざまなスギ巨樹の苦難の生き様がオーバーラップしました。

 この古く巨大な幹の元へ連れてこられたら、幼い子なら泣くかもしれない。
 あえてその元気な泣き声を聞いてもらい、大杉に愛でてもらうのが風習の主旨なのでしょうね。
 なまはげや天狗など、土俗のカミが恐ろしくもどこか憎めない顔をしているのと似て、荒々しさや神々しさとともに村のご神木の親しみやすさを併せ持っている巨樹だと感じました。

 つい語りかけ、たくさん撮り、長居したくなる。
 と、けれど大杉サンすまぬ、この旅、あなたがまだ一本目なんですよ。
 そう礼をし、樹下から去ったのでした。

「小俣白山神社の大杉」
 新潟県村上市小俣661
 白山神社
 推定樹齢:1200年
 樹種:スギ
 樹高:39メートル
 幹周:10.2メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2023.5

探訪メモ:
 「日本国ふれあいパーク」にはトイレやベンチもあり、なかなか人気の登山スポットのようでした。
 上記以外、もっと近くに駐車スペースを見つけたい場合は、集落の方の許可を得た方が良いとは思います。

探訪旅行記「2023年・新潟県巨樹旅1」もどうぞ。

4件のコメント

  • to-fu

    村上!酒蔵めぐりをした際どうしても立ち寄りたい蔵(〆張鶴)がこの村上にあったのですが、地図を調べたら
    何だよこれ、ほぼ山形じゃねえか!ということで断念したのでした 笑 街並みも雰囲気ありますねえ。
    さらに巨杉、時間が許すなら巨大トチノキも味わえてしまうなんて…ここで一日潰してでも行きたくなりました。

    私もこの姿を見て真っ先にあの石岡の「佐久の大杉」を思い出しました。特に真下から眺めた姿なんかよく似ているなと。
    10mオーバーなのでサイズによる迫力もあるのですが、それ以前に老杉特有の何やら神がかり始めたようなオーラを
    感じますね。雪深い村上で大雪や災害に耐え、1,000年以上生き続けるのは伊達じゃないんだという凄みがあります。

    しかしこの凄み、たしかに小さい子供なら「おら、泣け泣け!」なんて言われなくても迫力と雰囲気にあてられて
    泣き出してしまいそうなくらいです。風習含めておらが村の守り神的な人間との距離の近さが感じられる良い巨樹ですね。
    ほぼ山形県な村上エリアは完全ノーマークでしたが、早速チェックリストに加えさせていただきました。
    ええ、村上を訪問する際はここで一日を終える覚悟で臨みたいと思います。いいなあ村上。

    • to-fuさん>
      ここがまさに村上市の微妙なところですが、特におサケのことを考えながらここまで行ったなら、ついでに山形も巡らないと損だと感じてしまうでしょうね。東北へようこそ! ってなもんです。笑
      実際、よき新潟というか上越とは少し雰囲気が違いますが(というか実際滅茶苦茶遠い)、村上市にも素通りしがたい魅力があると今回知りました。
      短い季節だけかもしれませんが、小ぢんまりした集落の風景が心地よかったです。
      初っ端ですが、この道筋をスナップしながら歩くだけでも満足かもなあ……などとしみじみ。

      薄暗い中に立っていますが、初見、威圧より親しみが湧いたのは、やはり老杉のひたむきさを感じたからでしょうか。
      樹皮が荒れているところはありますが、かといって悲哀は感じさせない。良い巨樹です。
      今、集落には出生がないかもしれませんが、再び大杉の祝福を受ける子が出てほしいものですね。
      自らも厳しい冬に揉まれ、この大杉を幼い頃から記憶に刻んで育ったら、さぞ物怖じしない人に育ちそう。
      間違いないのは、外世界のたいていのスギ巨樹を物足りなく感じるだろうな……ということですよね。
      (大トチはどこにあるのか……探検かもしれません)

      自分としても、再度新潟に入る時はあえてこちらから、と記憶の地図に印をつけました。

  • RYO-JI

    私は真っ先に福井の「飯盛杉」を連想しました。
    写真から伝わる神社の雰囲気もなんとなく似ているような気がしたのも理由かもしれません。
    スギは幹周が10mを超えると存在感が一気に増してきますね。
    樹皮が綺麗な状態ではなく無残にも裂けたり、あるいは枝の伸び方に野生を感じたりと様々な表情が垣間見えます。
    推定樹齢1200年は伊達じゃなく、充分にあり得ると思わせてくれますね。

    『あれ?』と思ったのは階段がやけに整然としていること。
    こういう立地に巨樹がある場合って根の盛り上がりで階段がデコボコになっていることが多いじゃないですか?
    ということでこの階段は修復されているんじゃないかと勝手に想像。
    この神社はきっちり手入れされているんだと何だか安心しました。
    最近は荒れた寺社に立ち入ると残念な気持ちになることも多いので・・・。

    新潟遠征第一弾でこの満足感、他の巨樹が益々楽しみです!

    • RYO-JIさん>
      我々もそれなりの経験値が蓄積されたのか、巨樹の異形について何事かを読み解けるようになってきたように感じますね。
      まあ、それでも毎回巨樹の形態には理解を軽々と越えられてしまいます。
      この大杉で言えば、根幹と上部はまるで別の樹みたいで、樹勢が上部に集中してるように感じ、絶えずやり方を変えつつ今も断然生きてる姿なんだなと。

      言われてみれば、確かにこの石段は大杉の根に破壊されていないですし、後年工事し直されたかもしれませんね。
      根張りの露出は幹周比からすればそこまで大きくないですし、根本部分にいくらか盛土もされているかも。
      こうしたまめなメンテやお手入れはそこここに見られ、とてもマネできないなと思いつつ、居心地よく感じ入らせて頂きました。
      帰ってきた後で集落の人口を知って、その努力にほんとうに頭が下がる思いですね。

      皆大胆な個性をぶつけてくる新潟巨樹が続きますので、どうぞお楽しみに。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA