巨樹たち

徳島県三好市「五所神社の大スギ」

平家落人の里の巨大杉

 山中の異形のスギ「桃原の牡丹スギ」に慄いたあとは、1時間ほど走って徳島県に戻りました。
 とは言っても風景は険しく、時々美しく……我々は相変わらず誰も曲がらないような道にわざわざ折れ入って、くるくると山を巻き登るのでした。

 ここもまた、なんという急峻な地域なのでしょう。
 道幅は狭く、連続カーブで果てしなく登り……かと思うと、いきなり数軒の集落が出てきたりする。
 その山界の頂と言っていい場所に、この日最後の目的地に設定した巨樹はありました。
 「五所神社の大スギ」です。

 まったく険しいこと極まりない。
 しかし、こんなところにも集落があり……いや、あるどころか、頻繁に人に出会うことに驚きます。
 離合困難箇所で何度も対向車に出会う。それがまた生活感あるファミリーカーだったり、お使いやお迎えで運転してるお母さんだったり……。
 よく見ると、近くにバス停まであるんですよね。なんということでしょうか(関東の人間の感想)。

 メインのルートは他にある。
 高知県から巨樹を巡りつつ迷い登ってきた我々は、険しい裏口から登ってきてしまった感じでしょう……。
 なので、「五所神社の大スギ」との初対面も、正面ではなく、後ろ側からの眺めでした(トップ写真)。

 その迫力に、初見で目を奪われ、息を飲みました。
 神社前の幾分斜面となった場所に生育し、重力に引っ張られるように斜め方向に盛んに枝を伸ばしています。

 神社も荒れた感じはなく、敷地全体において定期的な手入れをされている様子。集合場所などとして認識されているようです。
「ああ、あのごっつい樹がある神社やね」、的に。

 五所神社という神社自体は日本各地にあるらしく、祭神はバラバラです。
 「五つの神様を併せて祀っている」とか、「周辺の五社を統合した」など、神社を統廃合させる明治期の悪法「神社合祀政策」の影響があると見ます。
 過疎地域でまとめざるを得なかったのかもしれません。

 ここは「大宮神社」という名前でも呼ばれており、googleなどではその名になっています。
 「大宮」は神社を敬う言葉であり、固有名ではない。なので結局、神社の詳細はよくわからずじまい。

 巨樹に話を戻しましょう。
 強い野生を感じさせる巨大なスギで、地上2、3メートル辺りで次々に分岐し、10又……くらいまでは数えられのですが、小さいものを含めるとそれ以上の分岐数でしょう。
 伸びた先でまた分岐を発生する旺盛な樹勢。

 切り立った崖地形も相まって、まるで裏杉のような豪快な雰囲気を醸し出している。
 この周辺、標高の高さ(海抜600m台とのこと)からか、冬場は真っ白になるくらい降雪があるようです。
 際立った環境に生きるため裏杉遺伝子が覚醒したのかも……なんてことを思い浮かべました。

 大変に巨大で逞しい幹ですが、大枝が折れた痕か、裏側(神社側)には傷みが出ています。
 なんとなく、「この部分はもう捨てて他の部分で頑張るぜ!」のような意思を感じました。
 こういうことを幾度となく繰り返して大きくなった樹なのではないかと思います。

 断面としても、円柱状ではなく、板状と言ったらいいのか。
 複数の幹が斜めに接合されているような有様なので、合体杉の可能性が高いと思います。
 考えてみれば、斜面にある場合には、こういった断面の方が踏ん張りが効きますよね。

 朽ちた部分から伸びる幹がこの樹にとっての主幹だったようです。
 落雷や台風の影響で裂けつつあり、金属のベルトのようなもので締め付け、固定してありました。
 この巨大な幹が真っ二つになりかねないことを考えると、意味ある処置です。

 樹は元気そのものの様子。
 背中側が裂けそうなのに、持ち前の野性味で「そんなことは知らねえ」とばかり新しい枝を次々生んでいる。
 よく見ると、枝の先には新しい葉が点々と吹きつつある。
 クスやトチの花といい、超高齢であるはずの巨樹が見せる新しい生命活動は、本当に心が温かくなる光景です。

 手前のぐるぐる坂道を少し下っていき、全景撮影。
 裂けているとは言え、主幹の樹高はかなり高く、先端ではまだまだ枝葉の勢いが失われていない。
 そして、側にいるto-fuさんと比べて頂ければ……見つかりましたか? 幹の巨大さがわかると思います。
 もちろんこうなったら……

 そう、実測タイムです!笑
 この時点で16時半を回り、だいぶまったりした空気になっていましたが、喝を入れるつもりで!
 というか、こんな大杉、一人では測れませんのでね。
 同行のお二人ももちろん強制参加、嫌でもやってもらいます。笑

 長尺を伸ばしながら幹を回っていく時の、あの感覚……忘れられません。
 ウソだ、まだ伸ばさないといけないのか!? と、巨樹の大きさがよりダイレクトに突きつけられる。
 それとともに、至近距離で仰ぎ見る巨樹が怖いくらいに巨大に見えてくるんです。

 地上1.3m地点での幹周囲12.9メートル……唖然とします。
 測定精度には自信不足ですが……前述のように複雑な形状の幹ですから、変に形状に沿わせて測ってしまうとそれだけ長くなってしまう。
 すなわち、これはごく単純に最短幹周を測った数値だとお断りしておきます。

 解説板。
 実測前、我々のカン精度を確認すべく、予想幹周を論じあいました。
 「12メートルから13メートル」にまとまったのですが、ついでに、側に生えていたきれいな一本杉の幹周も予想&テスト計測。
 これも4メートル台で、大体合っておりました。
 実測できない巨樹が多いので、「見立て」の目が育ったことは素直に嬉しいです。

 平成15年には12.2メートルの幹周と記録されているので、15年間で70センチ成長している……?
 素人計測でありつつ、この樹ならその程度の成長もありそうだと感じます。
 申し遅れましたが、何を隠そう、徳島県最大の幹周囲を誇る大杉なのですから。

 ……余韻を噛み締めるうち、日暮れが迫りました。
 ここもまた、近いうちに再訪を誓えるような場所ではない。
 素晴らしい時を過ごさせてくれた大杉にお礼を言い、暮れ始めた山道をまた走り出しました。

「五所神社の大スギ」
徳島県三好市西祖谷山村上吾橋 五所神社(大宮神社)
推定樹齢:1100年
樹種:スギ
樹高:30メートル
幹周:12.9メートル(実測)

樹種別(スギ)幹周県1位
県指定天然記念物

訪問:2019.5

 探訪メモ:
 GoogleMap上の呼称は「大宮神社」が使われています。
 山に張り付くような複雑なルートが巡っており、「距離より高度」的な移動からか、カーナビのGPSが混乱しました。
 帰り道もありますし、時間に余裕を持っての探訪をお勧めします。

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