徳島・高知 四国巨樹探訪旅4

高知市から北上しつつの巨樹探訪、長い一日のはじまり

 朝5時。
 高知でナンバーワンのホテルでのさわやか起床。

 昨日の肉体疲労で寝つきは大変よく、回復もよい。
 せっかくナンバーワ……もうこれやめてもいいですか? 

 二度寝するかの誘惑。
 なにしろおうちから900キロも離れて迎えた朝、もったいないという結論に至りました。

 で、何をするのかというと、徘徊。
 5月5時、Tシャツでうろうろできる高知の南国ぶりはすごい。
 なるほど、今日は30℃を超える……そういう大気の力みを感じます。
 ちびちびスナップを撮り歩き。

 思った通り、見どころや拾い物の多い街でした。
 ぜひまたカメラをぶら下げて歩きたいものです。
 もちろん巨樹の写真もしっかり撮りたいですが、一度ちゃんと車を降りないと旅の心が満足しない。
 歩きたい気持ちにさせてくれる街に泊まれるのは、実に良いものです。

 さて、高知でナンバーワンのホテルへと戻り、朝食の菓子パンをかじってもまだ時間がある。
 部屋中、ベッドの下までナンバーワンを探すのですが、ついに見つからない……
 と、「せっかくだから」というあまり積極的でない動機で行った屋上露天風呂が高知でナンバーワンでした。
 南国の空の下、謳い文句どおり高知市を一望に見渡せる。この朝風呂は最高に気持ちいい!

 こんな爽快風呂、次高知に来る時に再予約するのもやぶさかではない。もう、早く言ってくださいよ。

 そんなこんなで8時半。
 昨晩あれからひとりで鍋焼きラーメンまで食いに行ったらしいto-fuさん、道中にある店などやけに事情通のRYO-JI さんと合流。
 高層駐車場からフォレスター号を奪還し、走り出しました。
 あれよあれよと大豊町。
 本日は高知を北上しつつ、並みいる巨樹たちを探訪します。 
 第一ポイントとして……いきなり巨樹界の大カリスマが登場。

 いきなりクライマックス、冒頭からメインイベント。
 コンディション最高のうちに訪ねるべき、そういう計画です。

 道の駅からすぐ近くなんですが、うまくしたもので、ここからは見えなくなっている。
 to-fuさんはこの道の駅で、しらたきだかこんにゃくだか、なんかその手のものを買っていましたよ(報告)。 

 「杉の大杉」は、全国的にも大変に有名な巨樹です。
 もちろん、町の重要な観光資源になっている。

 「杉の大杉」なんて、呼べば呼ぶほど妙な名前ですが、この大杉の元に人々が住まうようになり、「杉」という村を作ったという由縁です。
「すぎにあるすぎのおおすぎおおきすぎ、すぎっていいすぎ」
 と覚えるといいと思います(うるさすぎ)。

「杉の大杉」

 念願の対面を果たしてから1時間半……めいめい、時を忘れて撮り続けました。
 何枚撮ったのだろうとカウントしてみると、自分は、ほぼ200枚。
 1対の樹とじっくり向かいあいながら撮ってこの枚数というのは結構なものです。

 それだけこの巨樹が色々な顔を見せてくれた。我々の技術なぞ到底歯が立たないという証明でもある。
 この体験、本当にありがたく思います。

殺気立って爆食する

 全力を尽くし、ややフラフラして出てくるとすでにお昼、ただ写真撮ってるだけのように見えますが、けっこうエネルギー使ってます……。
 すると、事情通のRYO-JIさんが言うではありませんか。
「この先に、いい店がある」。

 もちろん、満場一致で走ります。
 高速のインターがあるとは言え、大豊町は山に囲まれたのどかなところですが、そこに突如、屈強な男たちが列をなしている店が出現するではありませんか。

 腹をすかせたバイカー集団が次々駆けこんできて、列の長さ、厳めしさもどんどんアップ。
 獲物を待ち構える血に飢えた獣たちのような列のさなかにあって、我々もちょっとこれまでの冒険の会話をしてみたり、ワイルドさを演出してみました。

 この列が発するあまりの殺気に近所で火事が発生したらしく(?)、うーかんかん、うーかんかん、旧型の消防自動車が走り抜け、なんか変な軽も猛スピードで追従、
 「なんだあれ?」 「何の役に立つんだ……?」
 と首をひねっていると、道を間違えたらしく、うーかんかん、と猛スピードで引き返してくる。ハプンニング?

 しばらくののち、ドーン!(いや、「丼!!」と書くべき)
 敦賀・勝山でソースカツ丼に染まり続けた我々ですが、ここ「ひばり食堂」では、卵タイプのカツ丼ですよ!
 「杉の大杉」の巨大さになぞらえたかどうかは知りませんが、カツ丼はノーマルでこの大きさ。すっげえ。

 臆することなく食らいつきます。
 たまんなくうめえな、と顔を上げると、いっしょに並んでいた現地の屈強な男たちは、
 「カツ丼大盛とラーメン」 「……を、3こ」
 とかいう注文を普通にして普通に食らっているし。かっこよすぎる。

 もぐもぐ……。
 Q: なぜ「ひばり食堂」ですか?
 A: 美空ひばりサンが世に出る以前、「杉の大杉」を参拝し、私も大きな歌手になれますようにと願掛けをした故事から。

 「杉の大杉」には、うっかり近づくとひばりサンの曲が流れだす碑などもあるそうで、そこへ行く代わり我々は今ここでカツ丼をむさぼり食っているというワケ。

 もちろん、余すところなく完食、うまいカツ丼でした。
 おやじさんの生産能力が2巡目から急激に低下するため並ぶのは必至ですが、「杉の大杉 → カツ丼」の確固たるルーティンが我々の中で構築されたのは言うまでもありません。

 腹くちくなると目の皮たるむ……と言いまして、じゃあちょっとおひるね……
 ではなく、ここからアクセル踏んでスパルタンに次の探訪に突き進みます!
 誰だこんな予定立てたのは!(あなたです)

四国秘境の巨樹探訪旅

 さて、ここからは徳島への戻り足での巨樹行。
 四国山地に南から乗り入れるような感じで、山深い集落を転々と、個性派ぞろいの杉を訪ねる旅になりました。
 それにしても……ここはどこなんだよ。

 ものすごいところ、と、平野民にはそれくらいしか言葉もありません。
 記憶/記録も難しい。
 現地から質問して頂ければ、「あー、そこは確かこうだったと思う」的な貧弱コールセンターくらいならできるかも? そのレベルです。
 ともあれ、ここでもgoogle mapで取っ掛かりを見つけられるんですから、現代情報化社会はほんとすごい。

 この「六社聖神社の大杉」へのハンドル手汗握るドライブ顛末は、動画でご覧ください。
 車中の興奮も伝わればいいなと思います……。笑

 ただの高台ではない。ここは、天空集落だ。
 探したり訊いたりの結果、このドラレコ画像の右側、ちょうどお二人が眺めているスロープ辺りが入り口であるということが判明しました。……一般のお宅じゃないですか?

 実際、私有地だと思いますので、お訪ねの際は住民の方にお声がけの上お進み下さい。
 その先、すごく美しい小道が続く。
 花咲き、小鳥は唄う……そんな中、背後の崖っぷちさにソワソワしながら歩みを進めます……。

 ここいら、ソワソワが過ぎて写真撮ってなかったです。
 やっぱり心のスタビライザーが過負荷だったんでしょうか。
 ご同行のRYO-JIさんの紀行写真がこの辺を捉えておられるので、ぜひご覧になってください。
 The B grade ・・・「初夏の四国旅・・・二日目」

「六社聖神社の大杉」

 この、急斜面にひっついたような集落で出会ったのが「六社聖神社の大杉」
 息を飲むようなこの風景を数百年にわたって見下ろしてきた杉に、感嘆の息を吐かずにはいられませんでした。
 実際のところ、もしこんな集落が自分の故郷だったとしたら、人生観は大きく違ったものになっていたはずです。

 ラピュタかなんかにいるような気分でした。
 ラピュタにゃまだ行ったことないですけどね……。

 国土地理院地形図によれば、この辺りの標高は320mほどらしい。
 おそらく、100〜200メートルを一気に登り、見下ろすような地形になっているのではないでしょうか。

 続きましては、再びヨサク(すでに呼び捨て)に降り、吉野川に沿うようにして東へ、およそ30分、十数キロ。
 マップの道の描き方からしてすでに、難度が増すことが予感できますが……。

 またもや。
 杉林はタイムトンネル。
 さっき通ったはずの道をまた通ってる私?

 狭路を抜けていくと、やはり苦労して切り開いたであろう小さな集落が点々と現れます。この辺りでは、このような生活も珍しくはないのか……。
 むしろ、こんな場所をウロウロ走り回る変な水戸ナンバーの方がよほど珍しいでしょうよね……。
 やや迷いつつも、三人寄ればもんじゅのアレということで、まあ正しくはカーナビとスマホと若干の勘の集合に過ぎませんが。
 とにかく、どうしてだか目的地に到着しました。 

 日射に痛めつけられたドライブレコーダーの映像では分かりづらいですが、正面の一番奥に目的の「桃原の牡丹スギ」が立っているのがすぐにわかりました。

 それくらい、孤独なほどに、形態が異なっている。
 手前にあるプレハブのような建造物が弓の神事を行う場所だったようです。

「桃原の牡丹スギ」

 名前とは裏腹に刺々しく荒々しい、野生を感じる異形の杉でした。
 印象としては、爬虫類……を通り越して太古の魚類を連想するような質感とフォルムだと思いましたね。
 忘れられない巨樹となりそうです。

 国土地理院のデータによれば、桃原集落の標高は570mほどだそうです。
 山地に近づいている分、全体的に標高が上がっている印象。
 しかしやはり、一本の巨樹を目指すたび、山と谷、かなりの標高を登り降りしているのは間違いなさそうです。

 さて、もう今日は「大杉巡り」と名前を変えてしまってもいいでしょう。
 杉で始まり、杉で終わる……いっそ、そう決めるのがキレイです。
 リストアップ最後となる杉は、徳島県に戻ったところにあります。

 これまた深い……。
 平面図で見れば、なんか気持ちの悪い迷路みたいなところを走ると思いがちですが、この迷路がバカみたいな急斜面に巻きついているとしたらどうでしょう。
 想像できましたか? それが現実です。

 有名な渓谷の景勝地、大歩危・小歩危に程近く、かずら橋で有名な祖谷にも近い。
 万人が秘境という言葉に乗せて想像するこんな土地で山に分け入るというのは、嫌な予感しかしませんね。

 ほら。
 トンネルをくぐればそこは……

 豆知識を語ると、どうやらこの周辺はとある超有名グループの方々の別荘地があるらしく……
 って、ごめんなさい! 平家の落人伝説のことです!

 タチの悪い嘘情報に騙されてるんじゃないですか?
 もしくはタヌキにでも化かされてるんじゃないんでしょうか?

 この辺まで進むと、カーナビのGPSが盛んに迷い始めます。
 あまりにも蛇行し過ぎ、急に高度を駆け上り続けるせいで、道同士が接近し過ぎて認識できなくなっている模様。
 もちろん、山蔭や木陰に入ってしまうことも多い。
 世間からの隔絶感をじっくりと噛みしめるドライブです。

 有名な「落ちたら死ぬ」看板をここにもつけて欲しいものですね。
 なぜって? 落ちたら死ぬからです。

 とはいえ、もうこの頃にはこのテの道にだいぶ慣れてきている自分がおり、というか、車中、いちいち驚くのに疲れてしまいました。
 むっつりとぐねぐね道を登り、登り、ひたすら登って行った覚えがあります…….。

 が、その時、すっかり錯乱していたナビ子さんが、突如、目的地に接近宣言。

 おおおお……!
 と、一同、声を漏らしたのを覚えています。
 「五所神社(大宮神社)の大杉」と対面した瞬間でした。

「五所神社の大スギ」

 徳島県最大の幹周囲を誇る巨杉です。
 実測もさせて頂き、12.9メートルという迫力の数値を実感。
 これだけの巨樹を手ずから測ることができたという経験だけで、これまでの険しく長い道のりが報われました。

 ああ……やった。やりました。
 17時を過ぎ、夕暮れを前にして、リストアップしていた全ての巨樹を探訪完了できました。
 撮り終えてからしばし放心状態になってしまい、路肩に腰掛け、大杉の全体像や見下ろす山の風景をぼーっと眺めました。

 もちろん、四国の巨樹は、まだまだ深部にツワモノが潜んでいることでしょう。

 しかし、深追いしすぎて他の方々、現地の方々に迷惑をかけてはいけない。
 ましてや、これから日が暮れてから、あのおっかない道を走る勇気はありはしない。
 我々には、戻らねばならない日常があるのですね。

 とはいえ、あまりの浮世離れした光景のため、写真撮りとしては車を停めてはシャッターを切らずにはいられない。
 なんてところだ……。

 データによれば、この周囲の標高は620mほどらしい。
 しかし、極めて切り立った地形なので、計測ポイントがちょっとずれただけで凄まじく数値が変動します。
 崖底から天空へ一直線。まさにそんな地形ですよ。

 大歩危峡まで降りてくると、「下界」という感じがしました。
 日が落ちた渓谷は風が冷たい。
 離合困難、崖から転落→ 爆死の危機からは解放されたのだ……という弛緩もあったのかもしれません。

 こういう時、どこからともなく、あったかいコーヒー(紙コップの)を調達してくるのがRYO-JIさんです。
 向こうに自販機ありましたよ? なんつって、そりゃあもう飛びつきますよね。
 巨樹探訪の達成感と疲労感をかみしめつつ、世に聞こえた大歩危の渓谷美を見下ろしながら飲む。
 ただの自販機カップコーヒーでも、この上なくうまかった

人里にもどる

 出発の地、美馬にまで戻ってきて、既視感だけで感動に打たれてしまいました。
 とてもただの2日間とは思えないような濃密すぎる2日間でした……。

 どんどん夜へと向かっていく残り火のような明るさの中で、また近い再会を約束し、お別れしました。
 お二人はこれからそれぞれ近畿に戻られるとのこと。お気をつけて!

 さて……僕は、どうすんのかな……。
 帰り道、to-fuさんから安くて快適なお宿を紹介してもらったものの、問い合わせたところ、すでに満室とのこと……。
 これだけ危なっかしい道をこなしてきたわけなので、そらもう、ふかふか寝床で安眠する権利が俺にはある! と思っていたのですが、意気消沈。
 まあ、お宿でお風呂だけは入らせてもらうことができたので、最悪の事態だけは免れましたが。

 結局、セブンイレブンで「ちゅうかどん」をガツガツ3分で食い、20分ばかり走って、道の駅みままで戻りました。
 疲れにのしかかられている時には、新しいことはせぬことです。
 みまの駅。ここもすでに懐かしいような……せめて、2日前に車中泊したマスとは違うマスに泊まろうぜ、相棒。

 手慣れたもんで、5分で支度、特に何の娯楽を欲するわけでもなく、寝袋にイン。
 ああ……と思ってバックアップを取りがてら、今日撮った写真を見返したいと思うも、志半ばで眠りの淵に落ち込みました。
 その入り口は、今日走った四国の山地と同じくらい切り立っていて、どこまでも落ちていきそうに深かったのでした……。

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