巨樹たち

長野県上田市「大六のけやき」

長野県最大のケヤキ

 関東から石徹白を目指す長い道中(2019年10月)。
 欲張るつもりはないながらも、どこか途中で一箇所くらいは新規巨樹に立ち寄りたい。
 直前まで迷いましたが、天気の回復もあり、長野県上田市で巨樹探訪。

 ざっと調べると、この辺りで興味を惹かれる巨樹はほとんどケヤキ。
 ケヤキ王国なら、いっそ王を訪ねるべきだろ……ということで、この「大六のけやき」を目標に定めました。

 一見、駐車に難儀しそうな土地でしたが、手前に公共施設(児童センター)を発見。
 ケヤキを指す案内板もあるし、休館日のようなので、停めさせていただきました。
 巨樹……その背後にもう見えていますね。

 建物横の細い通路を入っていくと、りんご畑。
 いかにも長野県らしい。
 すぐにこの大きな立ち姿が現れます。

 これが「大六のけやき」
 遠景からも、並みいる大ケヤキの中でも特筆すべき個体であるとわかりました。
 幹が太い……! 太すぎると言っていいくらいです。
 全体のシルエットが四角に見えるところに、やっぱり山形県「東根の大ケヤキ」を思い浮かべます。

 神社と呼べるか難しいですが、根元には祠があります。
 解説によれば「大六天」を祭ったものだそう。
 「第六天」の変形か?「第六天」といえば、仏教において天魔・魔王ともされ、拝めば強力な現世利益を授かるとか。
 かの信長も信奉していたと読んだことがあります。
 だから邪宗というわけでもなく、力あるものは魔でも聖でも取り込む仏教宇宙。

 ……いずれにせよ、ここではそれほど熱烈な信仰は感じません(違っていたら申し訳ない)。
 むしろケヤキに守られ、ひっそり残っている感じでした。

 どんな荷重をも受け止められそうな幹ですが、枝張り面積は広くない。
 幹からは二本の太い枝が……というか、幹自体「Y」の字型に分岐しており、無数の細枝が直接生えています。
 大きなウロや傷跡が見られ、かつて樹冠を形成していた大枝を何本も失ったことが窺えます。

 しかし、それがどうした?
 というような感じで、うろたえる様子を感じさせない。
 ケヤキの巨樹には、いつもそんな無骨な印象を感じます。
 例えば、福井県「専福寺の大欅」。他の樹種だったら痛々しくて見ていられないレベルの損壊を負っていつつ、なお堂々たる巨樹ぶり。
 この樹からも、やはりそんなケヤキ特有の無頼味を感じました。

 あくまで硬く、重々しく。
 スギにもクスにも負けない巨樹の生き様を誇示しつつも、巨大に育ちすぎたあまり自重で崩壊したり、キノコに弱かったり、ケヤキにも泣き所がいくつもある。

 この樹の場合、葉がガサガサに荒れてしまっているのが気になりました。
 おそらく「褐斑病」というやつか、人で言うところの皮膚炎?

 この巨大な根幹でりんご畑の肥料もぐんぐん吸い取って、皮膚病なんて克服してくれ! 
 ……と、応援したくなります。

 プロじゃないので、健康診断の真似はこの辺で。
 直幹形状、平凡立地。この好条件なら、幹周囲を実測しないわけにはいきません。
 車まで戻って、長尺を持ってきました。
 それとパーマセルテープ。固定力がありつつ、貼って剥がせる便利なやつです。
 ケヤキの樹皮は乾燥していて硬いので、テープは問題なくくっつきます。

 伸ばす、伸ばす、伸ばす……まだ届かない。
 ケヤキさん、ちょっと失礼しますよ……
 あっ、無理にお腹を引っ込めないでくださいね!(メタボ健診?)

 うわ、やっと届いたよ……。
 さあ、単幹にもかかわらず1226センチと出ました!
 太いぞ! これと競えるのは、まずは上記した特別天然記念物「東根の大ケヤキ」、関西一の「野間の大けやき」、僅差で会津「八幡のケヤキ」くらいでしょうか!

 上位ランカーに対等に扱えない故障者が多い中で、この「大六のけやき」の健闘はみごと。
 (※「全国巨樹・巨木林の会」の資料によれば、全国ケヤキランキングでは6位か?)
 よくぞここまで! と感嘆せざるを得ません。

 解説板にもある通りで、これほどのケヤキは全国でもそうそうない。
 国指定天然記念物、福島県「高瀬の大木」よりも太いわけですから、これで市指定天然記念物とは謙虚すぎるのでは?

 1185年、神社の材(もしくは風除けか?)のため植樹されたとの伝承があり、推定樹齢830年程度とされている。
 個人的に言っていいのなら、ケヤキの不器用なデリケートさを考えれば、もって500年程度ではないかな? とも。

 長野県第一位のケヤキで、実際見れば納得するしかありません。
 最初に書いた通り、他にも大ケヤキを擁する同県ですが、この日はこのケヤキだけでも満足でした。
 実測のエモーションもありましたしね……。

 もちろん、大枝を四方に広げた時代の姿を見たかった。
 けれど、失ったら失ったで、かえって不安がなくなったとも言えるかも。
 今後さらに葉を青く、健やかさを取り戻されることを願っています。

「大六のけやき」
 長野県上田市古安曽大六
 推定樹齢:300年以上
 樹種:ケヤキ
 樹高:30メートル
 幹周:12.2メートル(実測)

 市指定天然記念物
 樹種(ケヤキ)幹周県第1位

 訪問:2019.10

 探訪メモ:
 上記のように「児童センター」に停めさせていただきましたが、一応、ご挨拶をお願いします。
 探しましたが、この日はどなたもおられませんでした。

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