巨樹たち

茨城県北茨城市「花園神社のスギ、コウヤマキ」

山信仰の巨杉たちにリンクを感じる

 北茨城市の巨樹探訪。県内では広く知られる花園神社に大きなご神木があると知り、行ってきました。
 実は、探訪からかなり時が経ってしまいました。茨城北部は巨杉を数多く訪ねられる地域であり、それを網羅するとなると、「巨樹サイト」ではなく「スギサイト」になってしまう気がして、後回しにしておりました。なんとも贅沢な話ではありますが……。
 先日偶然テレビ番組で花園神社を見かけ、その魅力を再確認した次第です。再訪の暁には写真も更新しますが、とりあえずは記事にしてみたくなりました。

 道中にも山道感がある通り、花園神社は山門のある「山の神社」です。
 平安時代、征夷大将軍・坂上田村麻呂の東征に関連して開かれた当時は花園山満願寺というお寺だったようです。
 山岳信仰の要素が強く、修行の場でもあった。祭神の大山咋大神(おおやまくいのおおかみ)を「山王大権現」ともする神仏習合、その後の神仏分離を経て、現在も奥の院やそこに至る鎖場などに面影があります。

 茨城といえど、ここは完全に山の気候。三月でもまだまだ寒い。
 水に恵まれた地でもあって、清流や透き通った神池(厳島神社)も目を惹きます。

 早々、大きなふくらみを持つ「こぶ杉」や、三本株立ちで連理したスギが目に入ります。
 解説板も近くにあり、これがご神木なのだろうと早合点しかけましたが、「ここから50メートル」とあるのを見落とさないように。メインのご神木はまだ先なのです。

花園神社のコウヤマキ(天狗槇)

 参拝を済ませ、拝殿前、左右を守るようにして立つコウヤマキにも目が留まります。
 どちらもかなり背が高く、根幹も太い。
 コウヤマキ自体、神社に植えられたもの以外ではまず見かけない樹種ですし、この大きさのものとなると本当に限られます。
 ましてや自生域は西日本~四国で、寒い北茨城にあって長年大切に育まれたのだと思います。
 上記写真は左の樹で、こちらの方が多少大きい。

 右側の樹。傾いているので、支保が入っています。
 コウヤマキは日本固有種で、古来から寺社では位の高い樹として認識されています。
 スギ、マツ、もちろんイヌマキの要素も見いだせる、文字通りのユニークな見た目が印象に残りますね。

 後述のご神木もそうなのですが、別名があるためか、環境省巨樹DBでのデータに少々錯綜がみられます。
 コウヤマキも「花園のコウヤマキ」での登録が2件、別名の「天狗槇」での登録も2件あり、幹周数値が390cm~480cmまでばらついている。しかも、神社の解説板、県の天然記念物サイトも、それぞれ別の数値を掲載している。
 差は計測する基準高さの違いによるものですが、仮にこの解説通り幹周4.5メートルを採れば、茨城県で最大のコウヤマキということになります。
 まあ、最低値にしてもほぼ「県内最大級」で語弊はないですが、どこかの段階で正式が設定しなおされるとなお安心かなと。

「花園神社のコウヤマキ(天狗槇)」
 茨城県北茨城市華川町花園567
 花園神社
 樹齢:600年
 樹種:コウヤマキ
 樹高:30メートル
 幹周:3.9メートル/4.5メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2017.3

花園神社の三本杉

 「ご神木のスギはまだ先」とのことで、拝殿左手方向へ進んでいく。
 大きなスギたちがまさに林立する中に、ひときわ大きなその姿が見えてきます。

 もはや疑いようもなく。これが「花園神社の三本杉」。
 近寄ってしまうと肝心の個所が視界に入らないほど樹高が高いのですが、上部で三本の幹に分かれているためにこの呼び名がある。
 山門近くにあった連理スギをして「三本に分かれた」とは呼びづらいですが、これは明らかに「育った後に分岐した」と理解できます。

 まことに太く、剛健な幹。
 傾斜地に立っているため、例えば下側から測れば数値は大きくなる可能性が高く、これまた幹周囲データが複数あるものの、まず7.5メートル以上は確実なようです。
 ちなみに最大値は8.2メートル。もちろんそうだとしても不自然さは全く感じません。
 とにかく、大きい。実物の見事さを目前にすれば、数値差やランキングなどどうでもよくなります。

 はるか上、20メートル以上の高さでしょう、確かに三本に分岐している。
 同じく茨城県、日立市「御岩神社の三本杉」を即座に思い出しましたが、あちらも山門と山岳修行のある「山の神社」だった。人為的にコントロールできないはずの共通点に神秘を感じます。
 キリリと冷え、清らかな水気に満ちている境内の雰囲気も似ています。

 大蛇がとぐろを巻いたようにも、巨人があぐらをかいたようにも見える根本。
 そういえば、御岩神社では三本杉の又に天狗が棲んでいて、粗暴なふるまいに祟ると伝承されていました。
 ここ花園神社でも、上記のコウヤマキが「天狗槇」と呼ばれているし、スギももしかしたら……と想像し、おのずと気が引き締まりました。
 天狗伝承の代わりに、かつてスギの根本に「熊野神社」が祀られていたとのこと。なるほど、熊野神社といえば三山の三神。三又のスギは、三柱の神の依り代だと暗示しているのでしょう。
 もしくは、青森で出会った神の樹「三頭木」の信仰すら合流しているかもしれない。
 などと、いろいろと想像を膨らませ甲斐のある巨樹でした。

「花園神社の三本杉」
 茨城県北茨城市華川町花園567
 花園神社
 樹齢:700年
 樹種:スギ
 樹高:40メートル
 幹周:7.65メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2017.3

探訪メモ:
 広い駐車場があり、初詣などの賑わいを想像しました。
 テレビ番組では、宮司さんの奥様が最近洋菓子店をオープンされたと伝えていました(神社手前の「Wald(ヴァルト)」)。
 うわ、素敵だしおいしそう……再訪する強力な動機がひとつ増えました。

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