巨樹たち

茨城県常陸太田市「真弓神社の爺杉」

断定、県下最大の巨大杉 

未知の大杉を求める……

 地元ゆえ茨城県の巨樹について代表的なものは大体訪ねた気でいました。
 未知の衝撃はこれ以上味わえないのではないか……?
 そんな傲慢さを嘲笑うかのように、その巨樹は唐突に存在を明らかにしたのです(※自分の中で)。

 巨大なスギで、幹周は10メートルを超えるという。
 ほぼ茨城県内トップの巨大杉にもかかわらず、なぜか普段参照している書籍やサイトに掲載されていない。
 「巨樹・巨木林の会」の資料にも言及が見られない……。
 2018年の初回探訪当時、参照できたのは、茨城県のサイトに載っていた小さな写真と若干のテキストだけ……。

 さあ、埋もれた存在を掘り起こしに行きますか! 
 どうなるかは行ってみてから考える!(今回、探訪クエストが長くなりますが、お付き合いを)

 所在地は、常陸太田市。
 関東平野が終点を告げ、山がちな地形が本気を出し始める土地です。

 初めに書いておきますが、目指す真弓神社は山のてっぺんにあります。
 県道61号線で手前まで進めますが、旭鉱床という鉱山開発会社の工場の辺りからは未舗装路。
 この山全体が大理石の塊のような状況で、ごつごつした真っ白い石の転がるダート道になってきます。
 (持って帰ると天狗のタタリに遭うらしいですよ……って、鉱山会社大丈夫?)

 「表参道は震災で破壊された」とか「いや、西参道までクルマで行ける」とか情報が錯綜していました。
 (おまけに、当時、ネット上に今ほど情報がなかった)
 ダート道の荒れ具合が次第に酷くなり、道幅的にもウチのクルマが通れない狭さになったので、途中から歩きました。

 林道が続くので、辿って登っていくと、やがて鳥居(一の鳥居)が現れます。
 「ああ、着いた」と思ってはいけません。ここからまだまだ先がありますので。
 石段を上り、まるきり山でしかない木立の中を進んでいく。地味にキツイ。

 震災で倒壊した鳥居の残骸や電波反射板などを見つつ進むと、ぽこっと山から出てしまいます。
 ……鉱山じゃん。(写真)

 鳥居をくぐらずに山を回り込むこともできますが、距離が伸びます。
 鉱山会社の敷地じゃないか? とも思うので、自己責任でルート選択を。

 とにかく、こんな風景ですから、初回は道を誤ったのだと焦りました。
 15分じたばたしましたが、他に行けそうなところがない。
 で、あちこち探るうちに……見えますか、赤いパイロン、そしてそのそばに案内の木札があるのを。

 そう、この岩山を進んでいきます。
 ここまでの道程でも、軽登山靴はもちろん、ストック×2があったほうが断然いいと思いますね。
 (自分はストックの代わりにマンフロットの重い三脚を持ってたので死にかけました)

 幸いにも岩山はほどなく終わりますが、またもや杉中心の山に入っていくことに。
 これも参道の一部らしく……しばらく進んで嫌になってきた頃、ようやく第二の鳥居が現れる。
 今度こそ真弓神社境内に到着です!

 徒歩距離は2キロ前後でしょうか。
 疲れるので、とりあえず神社(平野をはるか見下ろす高台)で休憩します……。

 以上、真弓神社への探訪クエストをお送りしました。
 現在の現地の整備具合など詳しくは存じませんので、訪問の際にはリサーチからお願いします(後年、真弓神社のサイトも整備されたらしいです)。
 また、当たり前のことですが、小冒険の一切、くれぐれも自己責任でお願いします。

 ※以下、巨樹の写真は二度の訪問時のものを混ぜて使っています。
 第二回訪問は、京都の巨樹仲間to-fuさんが合流、わざわざ夏に酷い目に遭いに行きました。

ついに登場、「真弓神社の爺杉」

 参道の目印から薄暗い森の中へと下っていき……晴れてその説明不要の巨体に対面しました。
 これが「真弓神社の爺杉」。

 この、思わず足が止まる感覚。
 すぐにでも駆け寄りたいのに、全体像が見えたこの位置で、ひとまず息を整えねばと思ってしまう緊張感。
 この姿がすでに、自分の中での茨城巨樹ランキングに大変動を生じさせてしまいます。
 「見れば見る程」とか「おそらく数値よりも」とか、そんなキャプションは全く必要ない。
 この巨大さ。ただそれだけにおいて、恐らくはアレやソレをも超越している。恐るべしダークホース。

 巨体ゆえの威圧感はものすごく、ある。
 自分の身の安全を一歩一歩確かめるようにして近づく。
 近づけば近づくほど、その体躯は視界いっぱいに、際限なく巨大になっていきます。
 その道中、多分、意味のわからない変な声を出していたと思います。

 じわじわと回り込んでいくと、驚くべきことに、この杉はさらに巨大さを増大させて行きます。
 初見が側面とは、食えないヤツです。

 明らかに合体樹ですね。 
 ほぼ等しい巨大な(書き終えるまでに何度「巨大」という言葉を使わねばならないんだろう……)スギが2本、互いに寄りかかり、絡みついたかのようにして育っている。
 それぞれ片割れだけでも、ソロで十分巨杉と呼べるサイズなのは言うまでもありません。
 「縫い目」がはっきりとわかりますね。 
 今しも脈動しそうな、太い筋肉の浮き上がりを思わせる凹凸から、内部でも一体化していることが見て取れます。

 対して裏側は、常に日影になっているせいで全体がコケに覆われています。
 見えますか……かつて枝だったであろう部分が別の幹に接し、連理してしまっている。 
 この強烈な生命力、怖いくらいです。

 これに最も近い巨杉として思い浮かんだのが、三重県「黒瀧神社の夫婦スギ」
 あちらも双生の合体樹であり、9メートル以上の幹周囲があるそうです。
 東西の良きライバルと言える姿なので、アルバムに入れる際には是非隣同士にするつもりです。笑

 それ以外なら、かの石徹白の「浄安杉」
 四身合体のとんでもない巨樹ですが、ちょうどあの巨樹をX軸方向に真っ二つに割いて二身とした感じに似ている……と言いたいのです。

 樹高45メートルとされていますが、それくらいの高さはあるでしょう。
 周りのスギも高いのですが、そこからアタマ一つ出ている。
 樹冠はそれほど広く感じませんが、あの高さから落枝があれば一撃で命にかかわりますね……。

 それよりも、撮っていて、幹周囲10メートル台で収まるか? と疑問に感じます。
 よくあるように、昔からずっと更新しないまま来てしまっているのではと。
 この体系で地上1.3メートルですよ……?

 又になった箇所にモミジが生えており、なかなかの大きさに育ってしまっている。
 秋田で見た「筏の大杉」の又には桜が生えて大きくなり、春にはお花見した(以後、巨樹のダメージのため切られた)……という話がありましたが、こちらは紅葉が見られる。
 相手にしていないかのような強靭さを感じさせる爺杉ですが、将来的には撤去してあげた方が良いと思いますね。

 解説文というか、パラメータだけの立て札。
 樹齢940年というやけに細かい樹齢は、おそらく神社の歴史によるものでしょう。
 平成22年のものだから、今ではほぼ950年。もうじきミレニアムを生きたことになりますね。

 上記したように、それに伴って幹周が再計測されたとは限りません。
 ひょっとすると昭和44年の県天指定時に測ったままかもしれず、今なら11……12メートルほどの幹周を叩き出しても不思議じゃないと思います。

 爺杉という名のセオリーとして婆杉というパートナーがあったらしい。
 もっと神社本体に近いところに立っていたようですが、明治17年(1884)に焼失したとのことです。
 爺杉と同じように背が高い樹だとすれば、落雷で炎上した可能性が高いでしょう。

 ああ、疲れた……。
 どうやら、スギ一本を撮るのに1時間以上熱中していたようです。

 あくまで現世にあって、生命としての巨大さを誇示している巨樹。
 同じ物質的存在として対峙し、組み合ってみようとするのですが、あまりにも存在の大小が違いすぎて勝ち目は全くない。笑
 変な小虫みたいなのがチャレンジしてきて、ちょっとの時間頑張って行ったよ……そんな感じでしたでしょうか。
 小虫としては、何も言うことはありません。
 退散!

「真弓神社の爺杉」
 茨城県常陸太田市真弓町 陣ヶ峰2766
 真弓神社
 推定樹齢:950年
 樹種:スギ
 樹高:45メートル
 幹周:10.4メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2018.11、2019.8

探訪メモ:
 改めて検索してみましたが、現在でも観光地化しているわけではなく、有名巨樹でもなさそうです。

 中~レベルの難度がありますので、軽登山靴、ストック、できれば地図など、特に初回は装備を整えた方が無難です。
 悪天候の日は避けた方が良いでしょう。

 いかがでしたでしょうか。
 ここからまた数本……なんて気にはとてもなれず、セイコーマート(茨城にはあるんですよ)で16時の昼ごはんを食いつつ、しばらく放心していました。
 いやまったく……「巨樹探訪」というワードがしっくりきますね。
 たまらない。

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