巨樹たち 茨城県那珂市「静のむくの木」 / 4 コメント 茨城県最大のムクノキ 「常陸国二之宮」として知られる茨城県那珂市の静神社。 そのすぐそばの小さな稲荷神社にムクの巨樹があり、訪ねたのは2016年の7月。 いろいろあって記事にするのが遅れていましたが、その間にも巨大台風やら豪雨やら経済の混乱やら、ずいぶんたくさんの脅威が襲いました。 老樹ゆえ、単にその時の写真を掲載すれば事足りるだろうとは思えず、コロナ禍が鎮まったのを期に再訪することとしました。 「静のむくの木」です。 静神社の鳥居を背にして東へ進み、2本目の横道を左折。 周囲が畑なので、この段階で遠くにこの木立も見えるはずです。 草地の中にポツンと取り残されたような小さな神社は「桂木稲荷神社」という名称でGoogleMapにも載っています。 そこまでくれば、ムクノキが放つ巨樹特有の気配に意識が惹きつけられるはず。 隣にある背高いカヤの大木の方が目印になりますが、幹の太さと迫力は明らかにムクの方が上です。 4年前に初めて訪ねた時も、「あれだ!」と声をあげたことを思い出します。 そして今回は安堵の声も。 よかった……4年前からひどく損傷が進んでいる様子もないし、何より伐採されていない。 帰宅後に4年前の写真も見ましたが、あえて取り上げる必要を感じませんでした。 巨樹を見て、「あの頃は良かった……」と言わなくて良いのは、ともかく嬉しいこと。 とはいえ、かなり年老いた樹であることは間違いなく、みなぎるような生命力を感じさせる種の巨樹ではありません。 幹の白骨化・空洞化が容赦なく進み、幹の向こう側が空けて見えてしまう部分すらある。 それでも立っているし、まだ生きていると言える。 樹木って不思議だし、凄いなあと毎度ながら感嘆します。 すでに油気が抜け切ってしまっているようで、潤いが感じられない樹皮。 枝折れの痕をコブのように盛り上がって塞いだ、それすらも遠い過去のこと……と、その表層が歴史書のように遠大な時を物語る。 生命力は樹皮側に凝縮され、細い枝をたくさん出し、ともかく今を生きている。 生命という乾いて脱げやすい薄い衣を着ているだけなのだ……そうも感じます。 落雷や突風などの不運、あるいはヒトの無慈悲に苛まれなければ、このまま生き続けることでしょう。 その余命だけでも、我々ヒトの一生より長いはず。 老樹かくありき。 折り返し地点をとうに過ぎた巨樹の姿に、妙に心を惹かれます。 さて、解説板。 900年以上も前の平安時代、大軍を率いた源義家がこの社に戦勝を願い、地にさした鞭が育って巨樹となった……。 栃木県「塩原八幡宮の逆杉」に代表される八幡太郎義家の東征&植樹(ぶっ刺し)伝承の一角です。 しかし、派手な謂れと神社の小ささはギャップがある。 武運を稲荷に祈る? 当時はここも静神社だったのでしょうか? そしてまた、義家ともあろう武者が鞭を忘れて馬に乗るのかと。 耐久力に欠けるらしいムク材で鞭を作るのかも、ちょっとわからない……。 いや、ごめんなさい。 大ムクには相応の貫禄があるのですから、故事の真偽なぞ無用な詮索ですよね。 ……とか言いつつ、「ニレ科樹木の北限の巨木として」とあって、これも違うぞ茨城県。と。笑 ムクはバラ目アサ科ですし、ニレ科の巨樹というならケヤキはむしろ東北が本場では??(※後年追記:古い分類体系ではムクをニレ科とするものがあったようです。 でもやっぱり、ニレ科ケヤキ巨樹は秋田に、ハルニレ巨樹は北海道にもいっぱいあるんですけどね……) 同じバラ科であるためか、ムクの葉はどこか桜に似ていると感じます。 実は球形で、熟すと黒くなり、すごく甘いそうです。 鳥に好まれ、種が運ばれる。もちろんムクドリはこの実をよく食べるから名がある。 巨樹の巷では「ムクとエノキ混同問題」を度々見かけますね。 分布、用途、幹姿、実がおいしいところも似ていて、葉はややムクの方が尖っている感じでしょうか。 幹周囲に関しては環境省DBでは7.3メートル(2010年)とあり、茨城県最大のムクノキ。 全国では西日本に10メートルに達する猛者があるので、これでも15位です。 ひっそりとたたずんでいますが、味わい深く、好きな巨樹です。 また那珂を通る道すがら、寄ってみたいと思っています。 「静のむくの木」 茨城県那珂市静455 桂木稲荷神社 推定樹齢:900年 樹種:ムク 樹高:15メートル 幹周:7.3メートル 県指定天然記念物 訪問:2016.7、2020.6 探訪メモ: 桂木稲荷神社に駐車場はありません。 横を通る4m道路の路肩にギリギリ寄せて停めて、見に行きました。 近隣の方の通行に支障ないように、すぐに移動できるようにしましょう。 壊れた古い鳥居はなぜか道の方を向いていず、かつては違う風景だったのかもしれません。 気になる隣の「常陸二之宮」こと「静神社」。 「常陸一之宮」はかの鹿島神宮(「鹿島神宮の大杉(御神木)」)ですから、それに次ぐ格式がある神社です。 実は4年前のメインはこの静神社で、幹周7メートルという県最大のヒノキを訪ねたのですが……すでに枯死し、切られた後でした。 社叢は今も立派ですが、4、5メートル級の杉の巨樹が何本も切られており、切り株を眺めて悲しい気持ちになりました。 管理が大変なのはわかりますが、何百年か生きただろうこのような樹をいっぺんに切ってしまうのは……。 ムクノキが老いながらも残っているのとは対照的。 この小さな稲荷神社が所在でよかったのだとも感じました。 関連
RYO-JI 2020年6月13日 at 9:33 PM 返信 ごめんなさい、途中で送信しちゃいました(汗)。 良ければ削除してください。 まず、静のむくの木という名称に惹かれました、いいじゃないですか! で読み進めいていくうちに静神社ではなく桂木稲荷神社にあるのに何故「静」なのかという疑問が。 Google Mapを見て納得、地名だったんですね。 でもこのムクの姿を見ていると、長い人生を生き、様々な経験をし、歴史を眺め、すべてを悟った老樹。 だから地名からではなく、ただ静かにそこに存在している「静のむくの木」という名称ですらあるように感じます。 開けた場所にあるように見えますので台風など強風が心配ですね。 落雷はより高いカヤが危なそうですが。 いずれにせよ、骨太な伝承が残っている?貴重なムクノキですから後世まで残っていてほしい記念物でしょう。
狛 2020年6月14日 at 10:41 AM 返信 RYO-JIさん> 静神社からの地名ですが、雰囲気があるし、歴史も実際古いようです。 しかし、神社ファン・巨樹ファンとしては現在の運営に残念なところがあり……切った樹は元には戻りませんから、無念が募ります。 初見の方に無理やり静神社を避けろというつもりはありませんが、RYO-JIさんのおっしゃる通り、このむくの木を「静のむくの木」と認識していただくだけで良いと思います。 静地域での筆頭巨樹は現在このムクであることは確かで、自分としては再訪するのに十分な風格を感じていますしね。 幹の大部分が乾燥しきっていて、粘りがなさそうなので、ひょっとしたら……と無確認のまま4年前の写真を載せる気になれず。 しかし、こうなると火事も心配ですね。落雷に、不審火も……いろいろと心配になります。
to-fu 2020年6月13日 at 11:50 PM 返信 ここは私が単独で訪問しようと下調べしていたら、隣の神社の宮司さんの人格があまりにもアレだというレビューを多数目にしたもので、結局次回以降へと回してしまったところではありませんか。全くの同感で、特に樹勢が衰えているわけでもない神域の樹木たちをバッサバッサと伐採してしまうのはいかがなものかと…県下でも特に歴史ある神社のようなので残念に思います。 しかしこのムクの姿を見てしまうと、隣の静神社抜きにしても行っておけばよかったと後悔が残りますね。衰えは見られるもののムクの巨樹としてはまだまだ生命感の残る方で、見応えとしては相当上位に来るのではないでしょうか。この物静かに佇む年老いた賢者のような姿は魅力的です。(近隣に上位ランカーのムクが揃っているのですが、実際訪問した限りでは三重県の「椋本の大ムク」と京都の「天引八幡神社のムクノキ」以外はほとんど死に体と言ってもいい状態でした…)これでまた関東に行く楽しみが増えました。茨城の巨樹も3日くらいかけてゆっくり回ってみたいですねえ。
狛 2020年6月14日 at 10:55 AM 返信 to-fuさん> 僕も後からレビューを見たら、1件2件ではなく、皆さん同じことを書いておられるのでびっくりしました。 挨拶の参詣をするだけで御朱印をもらうわけでもないので、巨樹ファンとしては大きな杉が軒並み伐採されていたことがひたすら残念で……。 切ったばかりだったようで、木挽クズがたくさん散らばり、切り口も真新しかった。これ、枯れたわけじゃないよね……と、思わず表情が強張ってしまいました。 歴史と品格?の強調と同時にこういうことをするアンバランスさがちょっと受け入れ難いです。 このむくの木がなければ静には再度来なかったと思うんです。ちょっと離れたところからこの明らかに太い幹が見えて、あれだ! と今回もテンションが上がったことを嬉しく思います。 ムクの巨樹はやはり木質が脆く寿命が長くないように感じますね。ケヤキも相当ですが、ムクはより凄絶な朽ち方というか……他の巨樹を見たことがないですが、なるほど、これでもまだ良い方。汗 静神社はともかく、ここから北上して常陸太田方面は他にも巨樹がありますし、自然も険しくなって良い感じです。 シームレスに福島入りしてしまいそうですが。ぜひ。笑
4件のコメント
RYO-JI
ごめんなさい、途中で送信しちゃいました(汗)。
良ければ削除してください。
まず、静のむくの木という名称に惹かれました、いいじゃないですか!
で読み進めいていくうちに静神社ではなく桂木稲荷神社にあるのに何故「静」なのかという疑問が。
Google Mapを見て納得、地名だったんですね。
でもこのムクの姿を見ていると、長い人生を生き、様々な経験をし、歴史を眺め、すべてを悟った老樹。
だから地名からではなく、ただ静かにそこに存在している「静のむくの木」という名称ですらあるように感じます。
開けた場所にあるように見えますので台風など強風が心配ですね。
落雷はより高いカヤが危なそうですが。
いずれにせよ、骨太な伝承が残っている?貴重なムクノキですから後世まで残っていてほしい記念物でしょう。
狛
RYO-JIさん>
静神社からの地名ですが、雰囲気があるし、歴史も実際古いようです。
しかし、神社ファン・巨樹ファンとしては現在の運営に残念なところがあり……切った樹は元には戻りませんから、無念が募ります。
初見の方に無理やり静神社を避けろというつもりはありませんが、RYO-JIさんのおっしゃる通り、このむくの木を「静のむくの木」と認識していただくだけで良いと思います。
静地域での筆頭巨樹は現在このムクであることは確かで、自分としては再訪するのに十分な風格を感じていますしね。
幹の大部分が乾燥しきっていて、粘りがなさそうなので、ひょっとしたら……と無確認のまま4年前の写真を載せる気になれず。
しかし、こうなると火事も心配ですね。落雷に、不審火も……いろいろと心配になります。
to-fu
ここは私が単独で訪問しようと下調べしていたら、隣の神社の宮司さんの人格があまりにもアレだというレビューを多数目にしたもので、結局次回以降へと回してしまったところではありませんか。全くの同感で、特に樹勢が衰えているわけでもない神域の樹木たちをバッサバッサと伐採してしまうのはいかがなものかと…県下でも特に歴史ある神社のようなので残念に思います。
しかしこのムクの姿を見てしまうと、隣の静神社抜きにしても行っておけばよかったと後悔が残りますね。衰えは見られるもののムクの巨樹としてはまだまだ生命感の残る方で、見応えとしては相当上位に来るのではないでしょうか。この物静かに佇む年老いた賢者のような姿は魅力的です。(近隣に上位ランカーのムクが揃っているのですが、実際訪問した限りでは三重県の「椋本の大ムク」と京都の「天引八幡神社のムクノキ」以外はほとんど死に体と言ってもいい状態でした…)これでまた関東に行く楽しみが増えました。茨城の巨樹も3日くらいかけてゆっくり回ってみたいですねえ。
狛
to-fuさん>
僕も後からレビューを見たら、1件2件ではなく、皆さん同じことを書いておられるのでびっくりしました。
挨拶の参詣をするだけで御朱印をもらうわけでもないので、巨樹ファンとしては大きな杉が軒並み伐採されていたことがひたすら残念で……。
切ったばかりだったようで、木挽クズがたくさん散らばり、切り口も真新しかった。これ、枯れたわけじゃないよね……と、思わず表情が強張ってしまいました。
歴史と品格?の強調と同時にこういうことをするアンバランスさがちょっと受け入れ難いです。
このむくの木がなければ静には再度来なかったと思うんです。ちょっと離れたところからこの明らかに太い幹が見えて、あれだ! と今回もテンションが上がったことを嬉しく思います。
ムクの巨樹はやはり木質が脆く寿命が長くないように感じますね。ケヤキも相当ですが、ムクはより凄絶な朽ち方というか……他の巨樹を見たことがないですが、なるほど、これでもまだ良い方。汗
静神社はともかく、ここから北上して常陸太田方面は他にも巨樹がありますし、自然も険しくなって良い感じです。
シームレスに福島入りしてしまいそうですが。ぜひ。笑