巨樹たち

千葉県成田市「幡谷香取神社のスダジイ」

土地のヌシに呼ばれ、振り向く

 スダジイ王国、千葉県。
 「安久山の大シイの木」など、全国を範囲として見てなお愛好者の印象に強く残る巨樹があります。
 今回、出張がてらさまよっていたところ、全く予期せぬ素晴らしいスダジイ巨樹に出会ってしまいました。

 所在は成田市。全国に通じるのは「成田山新勝寺」と「成田空港」でしょうが、市街地からちょっと離れると里山風景やら雑木林が続いております。
 「キングオブ雑木」(と勝手に呼んでいる)スダジイ、この辺りでも道路頭上をトンネルみたいに覆う枝が何度も現れる。
 なんというか、いかにも、ありそうな雰囲気。

 ありそうな雰囲気。
 実は、この片田舎に踏み込んだこと自体、別のスダジイ巨樹を探そうという試みからでした。
 その道程で図らずも「もう一本」を見つけてしまった。そういうわけなのです。

 常緑照葉樹であるスダジイ。四季通じて濃い樹冠を湛えているので、秋冬の巨樹巡りの寂しさを紛らわしてくれます。夏はちょっと暑苦しい。
 見慣れてくると、この樹冠を頼りに遠目にも巨樹捜しの「アタリ」を付けられるようになってくる。
 その「アタリ」で立ち止まり、下車後は「フンイキ」を頼りに向かうのです。地図アプリなんて捨てちまえ。

 そら、神社があるぞ。
 周囲はこざっぱりと管理が行き届いており、居心地が良い。この屋根が載っている鳥居も面白いですね。
 (「両部鳥居」。厳島神社などと同じ形で、神仏習合の神社に多いタイプだそうです。)

 隣接する千葉県香取市にご本体が鎮座しているだけあり、「香取神社」の分社はいくつもあります。
 それだけでは特定できないので、集落名をつけて「幡谷(はたや)香取神社」としておきます。

 これはこれは。裏手の神社森がまたいい雰囲気でした。
 茂っている大木の多くがスダジイで、どんぐりの拡散性能の良さを実感できるというもの。
 薄暗さも感じつつ、この時刻は木漏れ日がとてもきれい。
 そうやって、右手を振り向けば……驚愕。

 おお……あんたがこの土地の主か!
 思わずそう叫ばずにはいられない威容を目に焼き付けてしまいました。
 近寄ろうとする足を二歩で停め、逆方向に走り、車に三脚を取りに引き返しました。

 推し量るしかありませんが、地上1.3メートルの幹周6~7メートルは十分ある。
 板根状の根張り。うねる枝の立ち上がりも十分に高く、非常に印象の良いスダジイ巨樹です。
 (※追記、後日環境省巨樹DBを探したところ、該当するスダジイを発見。実測で幹周:6.75メートル、樹高22メートル。我が目測もあながち馬鹿にはできないぞ、と。笑)

 これほどの巨体ですが、逆方向から来てしまったためにギリギリまで気づかなかった。
 おかげで最高のファースト・インプレッションを得たとも言えるのですが。

 そう、樹冠が広く濃いため、正面道路から見ると幹が陰に没する。また、その角度からだと二又の幹がやや分離して見え、迫力が減算されるような気もしました。
 見る角度によってさまざま印象を変える辺りもスダジイ巨樹の特徴だと言えますね。

 表の道路で「アタリ」をつけ、「フンイキ」を嗅ぎ取った。そう書きましたが、その源泉がスダジイ特有の樹冠です。
 温暖な千葉県では11月とはいえ多様な樹種が元気ですが、その中でも濃い緑を積乱雲のように分厚く盛り上げていて目立つ。
 二段構えになっている樹下の闇の濃さも、「ここには何かがいる」と感じさせました。

 しかし、名を知られた巨樹ではなさそうです。
 神社そばには、この辺りの史跡を指し示す案内が立っていたりするものの、巨樹に対する解説板はなく、手早く成田市のサイトで調べても天然記念物指定されていない模様。

 北限を越えて巨大に育った宮城県「称名寺のシイ」なども良いのですが、ベストマッチな気候の中で本領を発揮しているこの姿、こんな巨樹がさして有名にもならずに在野?しているこの感じも、またたまらなく良い。

 測定個所はかなり引き締まった位置だと書かないわけにはいかない、この巨大な幹を見上げながら、ほんの1時間前にはこの巨樹を見る予定なんてカケラもなかったんだな……と、やや呆然としました。
 こういう出会い、「巨樹に呼ばれた」として良いのかどうか。
 呼んでもらえたのだとすれば、それはもう、光栄です。

「幡谷香取神社のスダジイ」
(勝手に命名)
 千葉県成田市幡谷573
 推定樹齢:不明
 樹種:スダジイ
 樹高:22メートル
 幹周:6.75メートル

 訪問:2023.11

探訪メモ:
 主要道路から一本奥に入った道路沿い。
 駐車場はありませんが、道幅が広い個所は見つけられます。

 上記、「(幡谷)香取神社」の道を進んでいった先に数本並んでいる桜もなかなかスゴい。
 腐朽と再生を繰り返した結果か、特に葉が落ちたこの季節の姿はかなりワイルドな雑木感ですが、春にはきっと。

4件のコメント

  • RYO-JI

    「巨樹に呼ばれた」・・・まさにそんな出来事ですね。
    通りすがりの神社が思いのほか良くて「呼ばれた」と思うことはたまにありますが、巨樹はまだ。
    もっと場数?が必要なのかもしれません。

    それにしてもこのサイズは充分巨樹感を堪能できるシイですよね。
    関西にあったらまず漏らすことなく訪問してしまうくらい。
    炎がメラメラと立ち上るように枝が伸び、これでもか!というくらい立派な樹冠に見惚れますね。

    桜も再生を繰り返しているような姿ですが、こちらも春は見応えありそうです。

    • RYO-JIさん
      巨樹の事前リサーチに使える書籍、アプリ、サイト、色々ありますが、この「呼ばれた?(仮)」を何度か体験してから、出かける前にあまりリサーチしなくなりました。
      ……ウソです、めんどくさいだけです。笑
      そう言いつつ、このシイは本当の意味で知らなかったので、出会えた時の驚きは鮮烈でした。
      いい樹だなあ……と、久しぶりにゆっくりじっくり眺めてしまいましたね。
      まだまだ知られていない巨樹もあるはず。探訪のやる気も出ました。

  • to-fu

    おおお、これは測定してみたい!
    まさに呼ばれているとしか思えませんね。次はメジャーを持って来いよ!なんて。

    それにしても、やはりスダジイは関東が一番だと思わざるを得ません。
    枝張りが素晴らしい。構図を変えても楽しめそうだし、レンズの画角を変えてもまた印象が変わりそう。
    ぐるぐる回って撮影しているだけで時間が溶けていきそうな立ち姿です。
    しかし成田かあ…お正月の送迎で地獄の大渋滞に巻き込まれたトラウマが…

    何だかあの匝瑳市の天神の森を思い出してしまい懐かしくなりました。
    あのエリアはもう一度真夏以外にゆっくり回ってみたいなあ。常時蚊耐性デバフ状態のO型なので。

    • to-fuさん
      正月の成田、香取、鹿島は冗談ヌキで地獄で、ずっと初詣には行ってません。なぜあんな混む時に参拝する必要があるのだろうか……。
      特に成田は道の設計が悪いのだと思いますが、すぐ詰まりますしね。
      まあ、成田もこのシイの辺りまで来れば万年のどかなもので、ゆっくり巨樹を堪能できました。
      ランドマークに欠けるあまり後回しにしてしまいがちですが、シイ巨樹はこういう土地にこそ隠れているもんですよね。

      思い出しますね、「天神の森」。鬱蒼とした雰囲気といいまるで水木サン漫画の世界で、蚊の軍団と格闘するto-fuさんを見て、蚊を飼いならして「吸血木」に血をやる話を思い出していました(不謹慎)。
      この辺りがスダジイの本場! ともちろん胸を張っていいとは思いつつ、山陰のスダジイがとても気になりますね。
      あっ、あの辺りまさに水木サンの故郷ではないか。呼ばれている??

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