巨樹たち 宮城県亘理郡「称名寺のシイノキ」 / 0件のコメント 北限を超えて育つ国天のシイ 今回の宮城県巨樹行は、仙台から南下する方向に進んでいきます。 仙台市から35キロほど南に位置する亘理(わたり)町に、国の天然記念物指定を受けたシイがあります。 シイ王国を標榜する千葉・茨城者としては、見逃すわけにはいきません(*著者の勝手な主張です)。 10メートルを超える幹周を誇る「称名寺のシイノキ」です。 道中、別段何も険しい要素はなく、あっさり称名寺にたどり着きました。 綺麗で立派なお寺で、もうこの段階から、冬でもこんもり青々と盛り上がるシイの木が見えていますね。 その手前にあるアカマツも見事な大きさです。 風光明媚かな。 この時の印象を正直に書くと、ちょっとお金持ちで派手目なお寺なのかな……と、失礼にも思ってしまいました。 あれこれ言うわけにいきませんが、その手のお寺に国天の樹があるという構図には、経験上、ちょっと嫌な予感を覚えます。 が、結論から言えば、そんな心配は全くの不要、まさに失礼の他何ものでもありませんでした。申し訳ありません。 ある種の華やかさがありながら、称名寺にはきちんと厳かな空気感があり、そこにある巨樹もまた、国天の認定に何の不足もないものだったのでした。 朱色の門前まで行くと、向こうにシイの巨大な姿が現れます。 ほぼ、シイのための額縁。向こうが見えない。 いやがおうにでもこの樹が特別な樹であるのだと印象付けられる眺めです。 門をくぐれば、何よりも先に巨大なシイと直面する仕掛け。 これが「称名寺のシイノキ」。 本堂の脇にある築山の上にあり、そこから身を乗り出すようにして巨体をうねらせています。 樹高は高くない。 しかし、あらわになった根幹や太枝の迫力がものすごく、他のものそっちのけで足を止めて見入ってしまいます。 なんとも躍動感があり、今しも動きだしそうな、大きな虎のような姿だと連想しました。 相当な年月を経て巨大に育った樹だということに間違いない。 もちろん、これまでに見てきたシイの巨樹を次々思い出してそう比較するのですが、このシイは随分と綺麗だなと感じました。 シイの巨樹ならばどれもが負っている、派手な損傷、野蛮な他種植物の着寄生、ジメッとした陰惨な印象……そういうものがこの樹には見当たりません。 もちろん枝折れの跡はいくつもあるのですが、身ぎれいで健康そうに見える。 老人は老人でも名家のご隠居、どなたか訊かずともこちらから思わず頭を下げてしまうような、身の内からにじみ出て隠せない格式を帯びている……というような感があります。 称名寺の第一の樹としてずっと大切にされてきたのでしょう。 ある意味ではこれも究極の盆栽、その一例と言えると思います。 周囲を回って間近に観察することができます。 身をねじるように極太の大枝を旋回させつつ成長し、根はやや板根状になっている。 背が低く太いところも似ているし、同じ10メートルクラスとして千葉県「安久山の大シイ」が好敵手でしょう。 写真を並べてみると実に壮観です。 素人目には判別が難しいですが、「安久山の大シイ」はスダジイ、この「称名寺のシイ」はツブラジイとのこと。 ツブラジイは、スダジイに比べてどんぐりが丸い。そこから「円(つぶら)」と呼ばれるようになったそうです。シイの中では一般的な種類。 背面から見上げると、まるで岩の塊のような質感です。 幹には空洞があるらしく、30年ほど前の書籍で「倒壊が心配」などとありました。 お寺の管理、ご尽力が効いているのでしょう、今日でも無事で、少なくとも見ただけでは不安は感じられなくなっています。 見る角度を少し変えるたびに、新たなフォルムが現れる。 連続して見続けているはずなのに、ある時、目の前の樹の姿が全く別物になっていることに気づいて、ハッとする。 スダジイ特有の撮り甲斐を最大限味わわせてくれる樹でした。 ところで、宮城県はシイの自生北限を超えているそうです。 つまり、ここ称名寺のシイは人為的に植えたもの、ということになる。 自らに合わない環境にありながら日本中でも屈指の大きさにまで育ったところに、お寺側の思い入れの強さを感じます。 それでも、樹についての解説版などはなく、ナントカ上人御手植え、あるいは名物・お箸ぶっ刺し伝説なども聞こえてこない。 まるでこの樹の姿こそすべて、見ればわかると言わんばかりです。 確かに、確かに。 それでなければ、樹一本撮るのに40分もかかりはしません。 記憶の中のシイ・ランキングの上位に豁然と食い込んでくる名樹だと感じました。 「称名寺のシイノキ」 宮城県亘理郡亘理町旭山 称名寺 推定樹齢:700年 樹種:ツブラジイ 樹高:14メートル 幹周:10.2メートル 国指定天然記念物 訪問:2019.1、2023.9 探訪メモ: 立派なお寺で、駐車場も完備。 国道沿いなのでアクセスは良好です。 国道からもシイの樹冠が見えるので、樹に関心がある方なら目を引かれるでしょう。 周囲の声など:「冬の亘理といえばホッキ飯です」「秋のはらこめし!」 アクセスも良し、食事情もよし。 たまにはこうした探訪も良いものです。 2023年再訪問 9月だというのに32℃超え……とても東北とは思えない気候でしたが、大シイは健康そうでした。 もっとも、寒くない時期が長引くことはシイにとっては好都合かもしれませんね。 動じない重量感とともに躍動感を備えた姿が相変わらず素晴らしい。 前回なぜか載せ忘れていましたが、奥の墓地にあるこの二号樹のシイも素晴らしい。 幹周も7メートル程度ありそうで、丸く大きな樹冠は国道からもよく見えます。 このシイだけでもわざわざ見にくる価値はあると思います。 他、手前にあるアカマツも幹周3メートル程度ありそうな立派なもの。 さらには縄文時代の種子を増やしたという蓮田も見事でした。 見どころの多い、よいお寺です。 関連