巨樹たち

茨城県かすみがうら市「出島の椎」

亡き寺を偲ぶ大椎

 薄っぺらく広大な霞ヶ浦に半島のように突き出しているから出島村。
 現在はかすみがうら市となりましたが、地図図形からも把握しやすいこの土地に、古いシイの巨樹があります。

 目指すは長福寺。主要道路から折れてしばらく行き、道が細くなって不安になり始める頃、赤い門が見えてきます。
 ところが、あるのは門だけ。

 かつては格式あるお寺だったようですが、管理所みたいな平屋が一軒と、いくつかの石塔やお墓があるのみで、本堂は見当たりません。
 火災で焼けてしまい、再建されないまま無くなってしまったとのこと。
 2019年の訪問は1月3日でしたが、さすがに初詣の混雑とも無縁です。

 去りし日のわびしさを感じつつ、この「門だけの門」をくぐろうとすると、まるで仁王のように左手から巨大な影が覆いかぶさってきます。

 それがこの「出島の椎」
 枝張りは横に広く、小さな林のよう、しかし一本の樹です。
 一段高くなったところに茂っており、まるでそれ自身がひとつの巨大な仏像のようでもある存在感。
 小さなお堂?を抱えるように前にしています。

 堂々たる体躯ですが、主幹の上背は高くなく、登れと言われれば我々でも簡単によじ登れそう。
 そして、よじ登るに微塵の不安もない、岩石の塊のような太さと剛健さ。

 ごつごつとした主幹から何本もの枝(と言っても、普通のシイの幹くらいある)が四方八方に伸び……一体、どういう形をしているのか、簡単には把握できない様相を呈しています。

 周囲をたくさんの石仏が取り囲んでいる、この光景もとても印象的。
 みんな樹を向いて、この樹を讃えているような……仏様の力が集中してこの巨樹がドーンと生じたかのような。
 茨城県神栖市「波崎の大タブ」でも同じシチュエーションがありましたが、ここでは、この樹の周囲を廻ることで八十八箇所めぐりをしたのと同等のご利益が得られるという体感型の参拝法がある。 
 周囲にたくさん貼られているお札のようなものは、そのお参りを達成したというお名前入りのものです。

 ああ……お変わりないようで。
 最初期にこのシイを訪ねたことが、巨樹探訪に取り組むきっかけのひとつとなったように思い返します。
 これほど立派なものだったか……と、四年に渡って数々巨樹を見てきた目にも、改めて惚れ惚れするような樹でした。

 いや、数々見てきたからこそ、なおさら素晴らしさに気づくというタイプの巨樹だと言いたい。
 シイの巨樹にはこんなすごさがあるのだと、きっと見る目を開いてくれるはずです。

 推定樹齢700年、大枝には欠損したところもありますが、樹勢ますます盛んという感じです。
 常緑樹であるスダジイは、冬の間の巨樹探訪のテンションをつなぎとめてくれる重要な存在であるとも言えます。
 ああ、やっぱり文句なく良い樹だわ……と堪能したのでした。おそらく、また再訪したくなるはず。

 「出島の椎」
 茨城県かすみがうら市
 長福寺
 推定樹齢:700年
 樹種:スダジイ
 樹高:20メートル
 幹周:7メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2015.5、2019.1

 探訪メモ:
 途中の道の一部が若干細いのでご注意。
 駐車は、門前の草地に1、2台停められるという感じです。いずれも近隣の迷惑にならないように気をつけて。

 いくつか巨樹もあってコースも組めるので、霞ヶ浦含めてドライブが気持ち良い。
 しかし、周囲に飲食店がなく、毎度飢えるのが欠点。
 面白いものも食べたいなら、
「道の駅たまつくり」でバーガー(ナマズが特に)おすすめですよ。川魚の総菜も色々。

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