巨樹たち

茨城県神栖市「波崎の大タブ」

日本第3位の大タブノキ

 茨城県の最南端に位置する神栖市。
 旧地名「波崎」は、その中でも最も南に位置し、利根川の河口を挟んで千葉県銚子市と対しています。
 潮風が絶えない砂地のこの地に、日本第3位とも言われる巨大なタブノキが存在しています。

 所在は「神善寺」という真言宗のお寺の敷地内。
 近くまで来ると、そこだけこんもりと緑が盛り上がって見えます。
 当の大タブだけでなく、その子孫なのでしょう、周囲にも何本も立派なタブの樹が茂っています。

 門をくぐるとすぐ、その巨大な姿に目を奪われます。
 いくつものお地蔵さん(全てタブの方を向いていることにも注目)に囲まれた根元は岩石の塊のようです。
 境内を覆うような広い枝振りを、この根張りでしっかり支えているのです。

 真ん中に丸々と膨らんだところがあり、ちょっと頭か顔のようです。
 初めてこの樹に会った時、このフォルムを大蛸のようだと思ったのはここからの印象でしょう。

 長大な枝振りが何度見てもすごい。
 どうしても一度には視界に入らず、パンするように、のけぞるように見ることになります。

 タブの樹はクスに近縁で、神社やお寺にも植えられる樹種です。潮風や湿気にはクス以上に強く、この地域のような、塩害がある土地でもしっかり生きることができます。
 樹が植えられた当時は、なおさら潮風の当たる砂丘のような土地だった可能性が高い。

 枝は横に横にと伸びていて、それを支えるためにコンクリートの支柱が建造されています。
 何年か前に枝の一本が折れたようで、何も支えていない柱もありましたが、樹の勢いはまだまだ旺盛です。
 迫力もさることながら、この形と勢いに、見ていて元気をもらえる巨樹です。

 

 火伏せの樹としても有名らしく、野火はもちろん、空襲の焼夷弾の火もこの樹が防いだという逸話があるようです(ちなみに、国道から入って行く目印も地域の消防小屋でした)。

 お寺もいつも綺麗に管理されており、お彼岸だったので、お墓参りの檀家の方々も大勢お見えでした。大タブに手を合わせて行く人も。
 自分の家のお墓をこんな樹が守ってくれている。いいなあと思います。

「波崎の大タブ」
 茨城県神栖市 神善寺
 推定樹齢:700〜1000年
 樹種:タブ
 樹高:15メートル
 幹周:8メートル

 茨城県指定天然記念物
 新日本名木100選

 訪問日:2019.10 他

 探訪メモ:
 周囲の道は悪くはないものの、ルートによってはすれ違えないほどの細さになるところも。
 駐車スペースは2、3台分のみ。
 お墓参りの方がいつもおられ、裏手には保育園。周囲には気をつけて。
 同じく巨大なタブの老木「府馬の大クス(タブ)」も訪ねれば、より地域性を感じられ、オススメです。

 地元の方々に聞いてみました。

 「裏の保育園に用があって来たことがある。そこまで凄い樹だったとは知らなかった。タブという樹種がよくわからない」 ←アボカドって、タブの近縁種らしいですよ。

 「(2019年秋の台風直後)人がいっぱい集まっていたので、枝が折れたかと思った。あんなに長く枝を伸ばしていて、よく折れなかったよ」

2024.3 再訪

 久しぶりに再訪。
 お寺の門がなくなっていました。ちょっと寂しいですが、大タブ(左)はよく見えるように。
 道を挟んで右手の眷属のタブも、十分に巨樹と呼べる立派なサイズです。

 太鼓の胴のような幹に着生したツバキが紅色を添えていました。
 タブというのは、クスに近縁とはいえ樹皮の質感は異なるし、葉の大きさ厚さ、濃い緑色も違う。
 巨樹を見慣れてくるとはっきり区別できるようになるし、タブ独特の魅力も感じとれます。

 いや、それより、これと似た姿をした巨樹を見た憶えがいまだない。思いつきもしない。
 うーむ、何度見ても個性際立つ良い巨樹です。

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