巨樹たち

千葉県香取市「府馬の大楠」

日本第2位の幹周を誇るタブの老樹

 山武市から東へと走り、利根川に沿って広がる香取市までやってきました。
 ここに、現状で日本第2位だという巨大なタブの樹があります。

 注釈があり、樹種はタブノキですが、この樹の名は「大クス」という。かつての天然記念物登録時に、てっきりクスだと思い込まれたまま登録されてしまった名残です。
 似ているとは言え、葉や樹皮をよく見れば、ましてや専門家がタブとクスを間違えるということはないと思うのですが……。笑

 しかし、こういった名称はなかなか変更できないのか、他にも数件、同じような紛らわしい目に遭っている巨樹があります。

 ともかく、この樹の名は「府馬の大楠」。
 国指定天然記念物のタブの老巨樹です。

 府馬の市街地から標識に従って狭い道を入ります。この標識も若干見落としやすい。タバコ屋さんを目印にして、地図を見て予習してから行くと良いと思います。

 横道に入ったら坂道を登っていきますが、狭いので、対向車や歩行者注意。
 車はまずいんじゃないか? と不安がよぎりますが、頂上部に到達すると、山の上の公園のように整備されていて、駐車場もあります。
 どうやらこの地は府馬城の城跡のようです。

 車を停めたら、大クスの姿はすぐに目に入る。それが左の写真です。
 僕の目には、何度見てもこの後ろ姿が、巨大な老人が杖をついて座っているようにしか見えないんです。
 その老人の背中は、森と化そうとしている。全てがいずれは大地に還るということを体現するかのように……。


 昭和44年の再調査において、クスではなくタブの樹であったことが判明した、とのことです。
 水郷のような土地や、潮風が当たる地域が多いせいか、この周囲にクスはあまり見かけません。
 なんじゃもんじゃの樹「神崎の大樟」はその例外。

 代わりにタブは多数派です。神社などにも名も無きタブを見かけます。
 「波崎の大タブ」もそうですが、横に広く枝を伸ばす性質があるようです。

 平成25年の台風26号で片側半分の大枝が折れたそうで、アンバランスな姿ですが、治療を受け、残った枝葉は青々と茂っていました。

 折れた大枝が神社の横に今も転がっていますが、こんなものが宙空に伸びていたのか!? と驚くほど巨大です。

 根幹部分はまるで溶岩が流れて冷え固まったかのようなごつごつした質感を見せています。
 朽ちてくると判別できない可能性もありますが、クスの方が細かい文様のある樹皮をしています。
 タブはゴツゴツと……言ってしまえば、あまり綺麗なテクスチャー ではない感じ。
 しかしそれゆえに荒々しく力強い。
「どんな姿になろうが、俺は生きるのだ」という意思を感じるのが、タブの巨樹です。

 根元をよく見てみると、石の祠が樹体に飲み込まれようとしています。
 この石の祠には、1700年代の年代が刻まれていたとか。

 この「府馬の大楠」の幹周囲は目通りで9.5m、推定樹齢は1300年から1500年とされています。
 ということは、かつての府馬氏の城郭も、この巨樹があることを前提として営まれていた可能性が強い。

 巨樹の樹齢というのは、切断された年輪を数えるか、よほど信頼できる資料がない限りは断定できるものではないですし、1000年! などと大きく出ても、誇張されている場合がほとんどだと思います。
 しかし、この大クスの姿からは、永い年月を生きることの凄みを感じ、ひょっとすれば1300年もあり得るかもしれないな……と思ってしまいます。

 こちらは、2019年9月の巨大台風通過後、お見舞いに行った際の写真です。
 香取市や山武市は激甚災害指定され、杉木立が真ん中から次々へし折れたくらいの暴風が吹き荒れました。

 心配して見にきて、一瞬、折れてる……! と焦ったのですが、これはどうやら、大クスを支えるためにワイヤーでつないでいた別の樹の枝が折れて墜落したもののようです。
 大クス自体は依然と変わらず、といった風に見え、とりあえずほっとしました。

 ……このように、大きな災害ごとに心配になってしまうご老体です。

 しかし、周囲には、かつて自身の枝が地面に接し、根を出し、ついには別の樹になってしまったという(伏状更新)タブの大木が何本もあり、さながら森のようになっています。
 老樹・府馬の大クスとしても、どこか肩の荷を降ろして余生を生きているように感じるのは自分だけでしょうか。

「府馬の大楠」
千葉県香取市府馬
推定樹齢:1300年
樹種:タブ
樹高:20メートル
幹周:9.5メートル

国指定天然記念物

訪問:2019.9

 探訪メモ:
 山の裏側から徒歩で登るコースもあるようです。
 そばの小屋にある「全国タブ番付(「府馬の大クス」は東の大関、「波崎の大タブ」は西の大関)は必見。

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