巨樹たち

千葉県香取市「府馬の大楠」

日本第2位の幹周を誇るタブの老樹

 山武市から東へと走り、利根川に沿って広がる香取市までやってきました。
 ここに、現状で日本第2位という巨大なタブの樹があります。

 注釈が必要で、「大楠」という固有名なのに、樹種はタブノキです。
 てっきりクスだと思い込まれたまま天然記念物登録されてしまった名残です。
 似ているとは言え、葉や樹皮をよく見れば、専門家が間違えはしないと思うのですが……。笑

 しかし、なかなか変更できないものなのか、他にも数件、同じような紛らわしい目に遭っている巨樹があります。
 ※1

 ともかく、名は「府馬の大楠」、国指定天然記念物のタブの老巨樹です。

 ここは中世、府馬城があった場所だそうです。
 車を降りれば、大クスの姿はすぐに目に入ります。それがこの写真。
 何度見ても、この後ろ姿、巨大な老人が杖をついて座っているようにしか見えません。
 老人の背中は、森と化そうとしている。
 いずれ全てが大地に還ると体現するかのように……。

 昭和44年の再調査において、クスではなくタブの樹であったことが判明したそうです。
 事実、この周囲にクスはあまり見かけず……なんじゃもんじゃの樹「神崎の大樟」はその例外。
 代わりに、神社などで名もなきタブをよく見かけ、「波崎の大タブ」を筆頭に、巨樹化しているものもあります。

 この「府馬の大楠」は、平成25年の台風26号で片側半分の大枝が折れたそう。
 その折れた大枝が神社の横に今も転がっていますが、こんなものが宙空に伸びていたのか!? と驚くほど巨大です。

 根幹部分は冷え固まった溶岩のようなごつごつした質感を見せ、細かな模様を刻むクスと見分けられる点でしょう。
 言ってしまえば、あまり綺麗なテクスチャー ではないな、と。
 しかしそれゆえに荒々しく力強い。
 「どんな姿になろうが俺は生きるのだ」という不屈の意思を感じさせるのがタブの巨樹です。

 根元をよく見てみると、今しも石の祠が樹体に飲み込まれようとしているのに気づきます。
 この石の祠には、1700年代の年代が刻まれていたとか。

 幹周囲は目通りで9.5m、推定樹齢は1300年から1500年とされています。
 ということは、かつての府馬城郭は、この巨樹があることを前提として設けられた可能性が高い。

 巨樹の樹齢は正確に把握しにくく、誇張されている場合がほとんどだと思います。
 しかし、この姿からは明らかに長寿の凄みを感じ、ひょっとすれば1300年もあり得るか……と思えてきます。

 こちらは、2019年9月の巨大台風通過後、お見舞いに行った際の写真です。
 香取市や山武市は激甚災害指定され、杉木立が真ん中から次々へし折れたくらいの暴風が吹き荒れました。

 心配して見にきて、一瞬、折れてる……! と焦ったのですが、どうやら大クスを支えるためにワイヤーでつないでいた別の樹の枝が折れて墜落したもののようです。
 大クス自体は以前と変わらない風に見え、とりあえずほっとしました。

 ……と、このように、大きな災害ごとに心配になってしまうご老体ですが。
 周囲にはかつて自身の枝が地面に接し、根を出し、ついには別の樹になってしまった(伏状更新)というタブの大木が何本もあり、さながら森のようになっています。
 老樹・府馬の大楠としても、どこか肩の荷を降ろして余生を生きているように感じるのは自分だけでしょうか。

「府馬の大楠」
千葉県香取市府馬
推定樹齢:1300年
樹種:タブ
樹高:20メートル
幹周:9.5メートル

国指定天然記念物

訪問:2019.9

 探訪メモ:
 府馬市街地からの入り口の標識が見落としやすいので、タバコ屋さんを目印にすると良いと思います。
 狭い坂道を登っていき、車はまずいんじゃないか? と不安がよぎりますが、頂上部は公園のように整備されていて、駐車場もあります。

 山の裏側から徒歩で登るコースもあるようです。

※1
樹種の特定ミスで有名な例と言えば、「沢尻の大ヒノキ」で、この樹は実はサワラです。それも樹種中日本最大。
また、「赤羽根大師のエノキ」も当時はムクだと思われていて、エノキだと判明した瞬間、日本最大のエノキに認定されたそうです。

 

 

 そばの小屋にある「全国タブ番付」が必見。
 「府馬の大クス」は東の大関、「波崎の大タブ」は西の大関です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA