巨樹たち

福島県いわき市「沢尻の大ヒノキ」

日本最大のサワラの巨樹

 福島県小野町周辺の巨樹再訪、第二弾はこの樹「沢尻の大ヒノキ」です。周辺はいわき市に入ります。
 ヒノキという名がついていますが、これは誤りで、実はサワラ(椹)。
 それも現時点で日本最大の幹周囲を誇るサワラの巨樹です。

 晴天でありながら時々雪がぱらつく摂氏1℃の空気。
 しかし、このコンディションならば巨樹のディテールを余さず堪能できそうです。
 3年前に訪問した時はすでに日暮れも近く、高感度に強いカメラもなかったため、記録としては残念極まりない結果になり……もう一度最初からこの樹を見つめ直したい、と、珍しく気合が入っていました。

 樹へのアクセスは悪くなく、舗装路を辿っていけます。
 周囲は広く開けており、この巨樹だけが単独で直立している。
 元々ここがサワラの林で、その中の最後の一本が生き残って今に至る……と考えられなくもないですが、周囲の土壌を見ると葦が茂っているような湿地(休耕田?)。
 ここだけ造成し、この樹だけが記念樹的に植えられたと考えた方が近いのかもしれません。

 上部はやや白骨化しているものの、この孤立状況で落雷に襲われた形跡がないという、幸運な樹です。

 「ヒノキ」という名前で天然記念物登録されてしまったため、いまだにヒノキと呼ばれています。
 ややこしいので、この樹のことは、以後「大サワラ」と呼称したいと思います。

 ヒノキとサワラの違いは、葉先が円いのがヒノキで、尖っているのがサワラということのようです。
 他にも、サワラが杉と同じく40m以上の樹高にまで成長するのに対して、その高さのヒノキはほぼ見られない。
 すると今度は、遠目にスギなのかサワラなのか混同しそうです。そこは目を慣らして樹形を見極めるしかなさそうです。

 追記:サワラとヒノキの違いについて
 サワラもヒノキ同様、有用な林業樹種ですが、よく似ていながら差異があります。

・サワラの方がヒノキよりも成長は早い。
・木材はヒノキより柔らかいので、柱などには用いない。
・ヒノキ同様に水気には強いが、匂いはない。飯櫃などにも使える。殺菌作用もある。

 3年前にはそこまで気が行きませんでしたが、すぐそばには二本、このような別の若い幹があります。
 更新したものではないでしょうか。

 枝垂れる傾向のある枝がまるで籠のように周囲を覆っており、幹を見るためにはその懐に入らなくてはなりません。
 すると今度は全体像が全く撮れなくなってしまうというジレンマ。
 抱かれるようにして、根元には氏神様のような祠があります。

 太い大枝と呼べるものが見当たらない代わり、恐ろしい数の編み込むような枝、また枝……。

 後で解説文中でも出てきますが、かつては大きく育ったキヅタ、ツルマサキなどの蔓植物が絡み付いていたとのこと。
 大サワラを締め上げ、幹に食い込んで悪影響を与えたのでしょう、現在では取り払われています。
 これがその名残……なのか。

  長年生きるとキヅタも巨大化する。一番太いところでは両手でないと握れないほどで、チェーンソーがないと切断もしんどそうです。
 かつては幹一面が蔦植物の繁茂に覆われていたのかもしれません。

 よく観察していると、ところどころにキヅタの白骨残骸が絡み付いたまま残っているようです。
 幹に食い込んで外せないものもありそうです。
 サワラ自体の枝も、何か違うものに触れたら巻きついていきそうな勢いに見えますね。
 こんな中で、よくぞ蔦植物を排除してくださったものだと感心します。

 どこから見ても太い、筋骨隆々とした幹をしています。
 ヒノキヒノキ……いや、これがヒノキだったら大変なことだと思いますよ。
 台湾には台湾ヒノキ(タイワンベニヒノキ)というのがあって、幹周15メートル、樹高50メートルとかいう化け物に成長しますが、日本のヒノキとは別種だと思います。
 なによりあちらは熱帯域ですし、それと同じだと言われても信じがたい。

 目通り幹周囲10メートルというこの樹がヒノキだとすれば、ダントツの日本一になっていたはず。
 いや、サワラでも日本一だったわけですが。

 別角度から。
 天気が良かったので木漏れ日が綺麗でした。曇っていたら樹冠の中では暗かったでしょう。
 少し立ち上がったところで、力瘤のようにぐっと太くなっている箇所があるのが面白いですね。
 どうやってこのような箇所ができるのか……やはり何かの力点なのでしょうか。

 枝の包囲から出て、外から見上げます。
 先端は白骨化していたようですが、幹の状態や葉の量は悪くない感じです。

 外からもたくさん撮りたいところですが、全体像を入れようとして迂闊に下がると湿地にズボッと落ちますので、気をつけて。
 こんな巨樹が生育するのにはあまり適していないような土壌にも思えます。
 何百年も前から伝統として土入れなどの世話がされて来て、今の姿があるのかも? と思いました。

 赤っぽく、張りがあり、いかにも身がつまっていそうな幹がやはり一番の見所。
 撮りにくいところもチャレンジングに感じたのか、撮っているうちにどんどん楽しくなってきてしまい、見れば見るほど素晴らしい巨樹だと感じてきました。
 大きさも、ディテールも、物語や歴史もある。巨樹探訪冥利に尽きるというものです。

 解説文。
 この他にも大きな石碑があり、「頌徳碑 陸軍少佐 宇佐見利治翁」とのこと。
 頌徳(しょうとく)は、徳を讃えるという意味で、現在もこの地を管理してくださっている宇佐見さんという方のご先祖のもののようです。

 比較的立ち寄りやすい立地ですし、福島県を巡る際には是非とも見ておきたい巨樹です。
 再訪できてほっとしましたし、充実した観察・撮影時間でした。
 ぜひまた会いに来たいと思います。 

「沢尻の大ヒノキ(サワラ)」
 福島県いわき市川前町上桶売字上沢尻
 推定樹齢:800年
 樹種:サワラ
 樹高:34.3メートル
 幹周:10メートル

 国指定天然記念物指定
 樹種別(サワラ)幹周1位

 訪問:2019.12

 探訪メモ:
 道路から入り口付近はやや狭いですが、樹のすぐ手前に数台停めるくらいのスペースはあり、入っていけます。

 

 余談など:
 3年前の訪問時の写真と比較してみましたが、巨樹自体はほぼ変わっていないものの、解説文がかなりボロくなってきていました。劣化しやすい材料だったのでしょうか。
 ぜひ福島県か環境省に修繕していただきたいものです。
 日本一を誇る巨樹ですから!

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