巨樹たち

北海道北見市「緋牛内の大カシワ」

単幹日本一の大カシワ

 網走市「美岬のヤチダモ」を見た後、再び内陸方向へ。
 北見市端野町緋牛内(ひうしない)という変わった名前の地区、JR石北本線の緋牛内駅の近くに、「日本一」を掲げる大カシワがあるとのこと。

 国道39号を進み、お隣の美幌町(旅終盤まで「みほろ」だと思ってたら「びほろ」だった)に入る寸前で、左手に白い標柱を見つけられます。
 少しだけ未舗装路を走りますが、「双葉のミズナラ」の時のような泥道ではないので楽ちん。
 大カシワは開けた道の分岐点に1本きりで立っているので、すぐに目につきます。
 巨樹に関心がない方でも、「随分と立派な樹があるなあ」と感心するはず。

 目通り幹周5メートルを超えるとされる、これが「緋牛内の大カシワ」。
 ゴツゴツした樹皮、ところどころ膨れ上がった逞しい幹は、少し測定位置が移動するだけで数値の上振れもあると思います。

 千葉県には柏市という市がありますが、その周辺でカシワの樹自体をしげしげ眺めた記憶がありません。
 シイに押し負けて千葉では目立たないのか?
 北海道では権勢を誇っているようで、北見市に入ってから企業の敷地にいっぱい植えられているのを見ました。
 葉が大きいのでひときわ簡単に判別できます。

 かしわ餅を包む、いい匂いの葉っぱ。
 厚手で艶があり、実にしっかりとしています。
 ホオノキもそうでしたが、「これで何かを包んでみたい……」という古代の人の気持ちがよくわかりますよね。

 カシワはブナに近縁で、どんぐりができる樹です。
 知らなかったのは、寒冷地や痩せた土地にもとても強い樹種だということ。
 北海道ではマツが防風林に使えない場合にカシワが使われるそうですから、かなりの屈強さです。

 幹には大きなうろを樹脂で埋めたような箇所がありますが、さすが強い樹種という感じで、樹勢に問題は感じませんでした。
 枝張りは広い方向なら十数メートルほど、対称でないのは、長い歴史の中で大枝を失ったためと思います。

 樹冠の下に入って見上げると、大きな葉に日が遮られる。
 徐々に色づいてきていて、とても美しい。
 幹や枝は逞しさを感じさせ、大きく色濃くどっさりした葉は気前が良くてリッチな感じがする。
 見ているとなんとも豊かな気分になれる巨樹です。

 大きさでは針葉樹種に及びませんが、広葉樹種の巨樹のこの感じは特有の魅力。
 そのうえすごく丈夫、葉はいい匂いで、どんぐりまでつけるんだから。
 庭に一本欲しい樹がまた増えそうです。笑

 すぐそばに酪農施設があって、牛の姿も見える。
 なんとものどかなところで、毎朝この辺を散歩して、このカシワが季節によって表情を変える様を見られたら素晴らしいだろうなと。
北上市観光サイト掲載の四季おりおりの大カシワの写真がいい感じです。)

 どうも自分は、葉っぱの大きな巨樹を見上げると、その包容力に「家」に近い感じを抱くようです。
 その樹を中心とした毎日の生活や、樹の下で暮らすことをも連想してしまう。
 それこそが幸福のイメージというように。

 解説。
 北見市のホームページでは、「北見市で最大最古の樹木であり、市指定天然記念物」とあります。
 カシワ自体、あまりデータ収集されていない樹種という印象。
 これより大きいカシワと言えば、国天の岩手県「勝源院の逆ガシワ」ですが、株立ちなのか奇形なのか、なんとも幹周囲を計測しづらい形状です。

 居心地が良くて離れ難かったのですが、この時期の北海道は天気が変わりやすい。
 にわかに遠雷が轟き、小雨まじりの冷たい風が吹き付けてきました。
 翌日はかなり冷え込んで、峠では初霜になるかもとのこと。
 葉っぱが色づいてくると、いつもそんな感じだよ……と、大カシワが言っているかのようでした。
 
 立ち去り際に「ありがとう」と「さよなら」を言わずにはいられない。
 北海道は広いけど、近くを通るならまた寄りたいと思う樹です。

「緋牛内の大カシワ」
 北海道北見市端野町緋牛内
 推定樹齢:350年以上
 樹種:カシワ
 樹高:17メートル
 幹周:5メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2018.10

探訪メモ:
 広々とした場所に立っており、探訪の難しさは感じません。
 ぜひ葉をいっぱいつけた時期に前に立って堪能していただきたい。

「カシワは落葉樹だが、秋に葉が枯れても翌年の春に新芽が芽吹くまで葉が落ちることがない。
 そのため冬季の強風を防ぐ効果を果たす。葉には芳香があり、さらに翌年に新芽が出るまで古い葉が落ちない特性から『代が途切れない』縁起物とされ、柏餅を包むのに用いられる。

「名古屋市以西では鶏肉のことを『カシワ』と呼ぶ事があるが、これは地鶏の羽色が柏の葉の紅葉の色に似ていることからこう呼ばれる。」

 古来から有用とされてきた植物は含蓄が深いですね。
 ちなみに「柏」という漢字は中国ではヒノキ科の植物のことを指すようで……要するにこのカシワとは全然違う裸子植物のことを指す。
 その理屈で言えば、スギやサワラやイブキも「柏」らしく……ああややこしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA