巨樹たち

北海道網走市「美岬のヤチダモ」

湖畔のホームランバット

 北海道巨樹探訪。
 釧路から羅臼までの巨樹空白ルートをずーっと走っていたため、再開(あるいは再会)の気分。

 知床を横断して北海道の北側へと移り、網走までやってきました。
 能取湖(のとろこ)はオホーツク海とつながる汽水湖ですが、その背後に広がる森林に巨樹ありとの情報。

 湖畔をなぞるように進むと、入口の看板を見つけました。
 そこからは未舗装路。また林道かと身構えましたが、100メートル程度で広場と目印があり、そこからはハイキングコースのような道を歩きます。

 ハリギリ、オオバボダイジュ、イヌエンジュ、ハクウンボク……
 構成樹種が多彩で、自然観察にうってつけの森林。
 解説がついている樹も多くあって、歩いていて楽しい。
 話でしか聞いたことのないあの樹種この樹種とは、これか! と勉強になります。

 さらに200メートルほど行くと、小川の流れに踏み込みそうな場所に。
 すぐその樹を発見できました。
 いかにも北海道ならではという姿、「美岬のヤチダモ」です。

 ヤチダモもそう、関東では滅多にお目にかかれない樹種です。
 寒冷地に多く、本場は北海道。
 材質は極めて粘り強くて丈夫、折ろうとしても曲がって耐える。
 このため以前は野球のバットって言ったらヤチダモだろ的にたくさん切られ、大きなものや純林はほとんど残っていないそうです。
 最近ではバットには違う樹を使うようですが、内装材や家具への引き合いは多いとのこと。
 ジメジメした土地が得意でも、ドロノキとは大違い。笑 

 当「美岬のヤチダモ」に戻ると、幹周囲は460センチ。
 漏斗状に発達した根幹部の数値も少し含んでいそうで、純粋な幹部分の太さは3メートル程度だと見ました。
 それでも周囲の樹木たちより何倍も太く、いかにも長老という風格を感じさせます。

 ひとことお断りさせて頂きたいのですが……ものすごく整った形の樹であるため、どう撮ってもすごく単調な画面になってしまいます。
 とにかくピーンとまっすぐ、途中に枝や節すらない。オモテスギ以上の削ぎ落したシンプルさ。
 長大な一本幹は40メートル近く立ち上がり、最上部で初めて大きく二又にわかれています。

 特徴的な樹皮のパターンについユリノキを連想しましたが、両者は全く異なる植物でした。
 ヤチダモはモクセイ科トネリコ属(ユリノキはモクレン科ユリノキ属)。
 歳を経るとともに模様が深くなっていくそうで……眺めているうちに呪術的な文様装飾のようにも見えてきました。
 アイヌの人々をはじめ、自然の中に生きる人々は、こういうところから独特のデザインを生み出したのだろうと納得させられます。

 ほぼ湿地と言えそうなくらい水分量の多い土壌です。
 ロープが張られているのは、根を踏まないように制限すると同時、ズブリと行くからかもしれません。
 変化のない姿の中にひとつだけ、いかにもエゾリスが住んでそうなウロがありました。

 銀パネルには出会いませんでしたが、「森の巨人たち100選」に選ばれています。
 ヤチダモの語源についても語られていますね。
 ヤチ=湿地(谷地)、ダモ=タマ(魂)の意とのこと。 
 タモといえばタブノキを指す地域もあるらしいですが、この両者は見た目時点で程遠い。

 巨樹特有の半ば伝説化した存在感を前にしているという感じは全然せず、生気みなぎる「植物」を観察している感が強い。
 この辺りは冬はかなりの寒さでしょうが、上記のウロから朽ちている気配もなく、完全に近い適応者なのだなと感心します。
 自分にぴったりの場所で、これからも長生きしてくれるに違いありません。

「美岬のヤチダモ」
 北海道網走市美岬 国有林内
 樹齢:300〜400年
 推定樹種:ヤチダモ
 樹高:37メートル
 幹周:4.6メートル

 森の巨人たち100選
 訪問:2018.10

探訪メモ:
 詳細な番地などがないので地図必須。
 近年、網走市の観光サイトが新しくなり、チェックも容易になりました。
 景色もいいし、サイトを見ているとまた行きたくなります。

 単幹日本一を誇る「緋牛内の大カシワ」も遠くない立地なので、ぜひご一緒に。

 馴染みない樹種なので、環境省巨樹DBでヤチダモを列挙してみました。
 青森県つがる市に760cm(株立ちに近い形状の「一本タモの樹」)、続いて秋田県湯沢市に524cmの個体が見えます。
 とすればこの「美岬のヤチダモ」は日本第3位……のはずが、まさかのDB未登録です。
 名付きで認識されている個体自体、まだ少ない樹種のようですね。

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