巨樹たち

新潟県村上市「沼田林道のトチノキ」

大栃は、ここにいる

 このトチを知ったのは、完全に「人里の巨木たち」さんの記事から。
 ナイス! と思ったのは、三面川沿いの「熊野神社七本杉」から遠くなく、かつ、スギ以外の樹種だったこと。
 この探訪旅、すでにスギスギスギ……ときている上、新潟県にいる限りスギ尽くしなのは目に見えており、まことにありがたい存在なのでした。
 しかも、日常遭遇率の低いトチならなおさら、会いに行かねば。

 所在は、「三面ダム」の手前、「縄文の里・朝日奥三面歴史交流館」の近く。
 説明を交えつつ進んでいきましょう。

 「縄文の里」は、名の通り現地出土の土器などを展示する博物館的施設ですが、ここの駐車場の一角が登山者用の駐車スペースとして利用できるようになっています。
 ここに停め→施設敷地を出て→道路を十数メートルばかり上る(坂になっている)。
 右手に写真の「沼田林道」入り口があり、赤いゲートが車両進入を阻んでいますが、脇をすり抜けるなどして先へ(登山客の通行は禁止ではない)。
 もちろんクマ鈴装備を忘れずに。

 未舗装林道ですが、状況は悪くなく、いっそクルマで行きたくなるくらい。
 ここを300~400メートルほど行くと、突然左手に植林のスギとは明確に異なる樹影が現れます。

 到着です。
 ……と、アプローチ含め「人里の巨木たち」さんの記事で予習させて頂きました。
 この趣味において、探訪録を残すことがいかに重要か実感しますね。
 自前のこの記事も、後続の方の「あんしん、あんぜん」な巨樹探訪に役立つよう、「ていねいなせつめい」を心がけて綴っていこうと思います。

 「沼田林道のトチノキ」
 少しばかり藪を踏み越え、対面しました。
 数メートル右手を小川が流れており、常にさらさらと水音が聞こえます(一部、ぬかるみも)。

 林道からの眺めでも十分目を惹くものがありましたが、正面に立つといっそう大きさが実感できます。
 三又に分かれて伸びる幹はそれぞれ太く、重ならない位置で見れば壮観の一言。

 長尺を持ってきましたが、すでに陽がかなり横に回っている時刻で、撮影に専念しました。
 いや……大トチの雰囲気に呑まれて計測する気にならなかったというのが正直なところか。
 これも「人里」さんに頼ってしまえば、幹周実測値は6.8メートルとのこと。
 もちろん、より大きなトチ巨樹はあるわけですが、だからといって、このトチの希少さと素晴しさが減じるわけではないでしょう。

 見に来て良かった。
 薄暗い藪の中でシャッターを切り続けながら、しみじみ実感を噛みしめます。
 四国最大のトチ「桑平のトチノキ」までは及ばずとも、枝張りは大きく、確実に幹周以上のスケール感があります。

 日照を勝ち取るため、樹冠は頭上かなり高い位置にある。
 低い位置の枝がすでに諦めたかのように枯れているところに、周囲のスギとの興亡史を感じる。

 この時期のトチ特有の、鮮やかな黄緑色の天蓋が本当に美しい。
 ……のですが、並みの画角で幹を撮るとほとんど葉っぱが写らず、一方、超広角域だと近くのスギの枝が入り込んでしまう。
 この小さなポケットのような空間は、せめてもと、このトチのために空けられたものなのでしょう。

 天然記念物無指定の巨樹で、知名度はほとんどない。
 実際、夢中で撮っていると、登山帰りの人が林道を下っていきますが、ことごとく素通りです。
 これほどのトチに足を止めないなら、一体何のために山に登るのだろう?

 ……なんてのは、きわめて一方的な意見。
 自分だって、この先の山には興味ないですしね。
 だからこそ、見るべき者がちゃんと見ておくことが必要なんだ。
 巨樹探訪の意義を新たにさせる大トチでした。

「沼田林道のトチノキ」
 新潟県村上市三面
 沼田林道
 推定樹齢:300年以上
 樹種:トチ
 樹高:20メートル
 幹周:6.8メートル

 訪問:2023.5

探訪メモ:
 mapのポイントは大体の位置ですが、林道は一本道なので、ゲート先で迷うことはないはずです。
 ちなみに、「縄文の里」のアクセスでもありますが、バスが通っているため(「三面川発電所」バス停等)、クルマがなくても探訪できます。
 もっと知られていいトチ巨樹です。

探訪旅行記「2023年・新潟県巨樹旅1」もどうぞ。

4件のコメント

  • RYO-JI

    桑平のトチノキ以前と以降でトチの見方が大きく変わったのは幸か不幸か・・・。
    何度も言ってるような気がしますが、トチを見るなら新緑の時期に限る。
    というかそれ以外の時期なら避ける!くらいにはあの美しさにヤラレてしまってます。
    この沼田林道のトチノキもまさに一番美しい時期ですね!
    地面を覆うシダ類も活き活きして見えますが、トチの新緑には到底敵わないように感じます。
    そして周囲のスギ林の中にポツンと異次元の存在として佇むトチノキの印象が強烈ですね。
    樹形も申し分なく見応えのあるトチノキなのに無指定なのが不思議。
    新潟という地にはもっとスゴイのが乱立してて、これくらいだと低価値とされているんですかねぇ。

    • RYO-JIさん>
      確かにそうですね、「桑平のトチノキ」のあの雄大さ、トチ巨樹の注目度をグンとアップさせました。
      でも、総じて季節を選びますよね。冬は見られたもんじゃない……とは言いませんが、大きな葉の作り出す樹冠がどうしたって欲しくなりますね。
      道すがらトチやホオノキを見かけるとワクワクしますし、それらがものすごく主張する季節でもあります。
      結局はここも植林されてしまった山でしょうが、さすがにこの樹は残そうという選択がされたのだと思います。
      新潟……知られていない巨樹はたくさんありそうだなと、踏み込んでみて余計そう思いますね。

  • to-fu

    ああ…しばらくトチを見てないなあ。久しぶりに見に行きたい。
    冒頭の写真を見た瞬間にそんなことを感じさせられました。いいですねえ。
    人里の巨樹の代表格と言えばやはりクスやケヤキになるのでしょうが、山奥部門は?と考えたら真っ先にトチノキを連想します。
    多少なり必ず冒険が付きまとうのもイイ。駐車場に車を停めて目の前の門前でご対面!なんてトチはほとんどありませんからね。

    しかしこの堂々たる立ち姿で無指定?いやいや、お前のその目は節穴なのかと問いたくなりますよ。
    手入れの良き届かない野性味こそトチの巨樹の魅力と言えばそれまでかもしれませんが、市の天然記念物にでも
    指定してあげてもっと多くの人の目に触れてもいいトチだと思います。やはり村上か… 笑

    • to-fuさん>
      五月の長旅が当初の壮大さだったら「太田のトチノキ」に突撃していたところでした(ある意味、ちょっとホッとしている)。
      いろいろ巨樹を巡ってなおさら、平野地に少ない樹種という印象は強くなりますね。
      それだけに、訪ねる前のソワソワと、きっと面白いぞという直感に従って前に立てた時の達成感は他の樹種にはないものがあります。
      まあ、だからこそ「トチノキの巨樹」と聞いただけでちょっと身構えるんですが。笑

      このトチは、結果から言うとそれほどキツい立地ではなかったのですが、無指定に象徴される埋もれた存在感で、事前にはそこにソワつきました。
      あとは急速に陰ってきた西日にも……こういうタイミングでこういう巨樹を見に行くのか? とも迷わされました。
      が、実物としてみれば市天か県天でもおかしくない巨樹ぶりで、今回訪ねられてとても良かった一本です。
      多くの愛好家に見てもらいたい巨樹ですね。
      村上……いいとこですよ。笑

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