巨樹たち

山形県東根市「東根の大ケヤキ」

子供達と生きる巨大天然記念物

 「東根の大ケヤキ」は有名な巨樹ですが、個人的には、偶然出会った樹です。
 まだ本格的に巨樹探訪を始めていなかった2016年、ぶらぶら車中泊旅をしていて、東根温泉で朝湯をもらい。幹線道路で標識を見つけ、「行くしか!」と。
 現在の感覚なら、この巨樹をチェックしないなんて考えられないですけれどね。

 

 のんびりした街並の坂道を上がった先、東根小学校に立っていて、遠くからでもすぐわかる巨大な姿が見えてくる。

 2019年の年末、巨樹収めにも再訪。
 ケヤキで唯一国の特別天然記念物指定を受けている大巨樹、まごうことなきシンボルツリー。
 東根ではあらゆるものにケヤキのマークを入れて誇らしげです。

 東根市は宮城から山形へ抜ける入り口にあたる。
 山形の巨樹探訪の際に何度も通るので、その度にこの樹に立ち寄りたくなりました。
 このクラスの大巨樹となると、逆らい難い引力を発していて……それを振り切り、まだ見ぬ巨樹の方へ向くのには、けっこうな労力が要ります。

 ドーンと。この塊感半端ない幹姿。縦横比が他の巨樹とは圧倒的に異なって見えます。
 幹周囲は地上1.2メートル地点で16メートルもあるとされ、大枝一本でも並の巨樹の幹が太刀打ちできないくらいに太い。
 岩石だって、こんなに巨大なのが転がっていたら、わざわざ見に行く価値があるというような大きさです。

 ひとつの「生き物」というより、もはや「場所」という方がふさわしい存在感。
 縦横比がおかしいために写真に撮るとちんまりとした印象に見えるかもしれませんが、実際、とんでもない大きさです。

 ケヤキ巨樹の常で幹には空洞がありますが、樹勢は悪くなさそう。
 葉の量も森のように多く、これが一気に落葉するのだから、大変ですね。

 一説には、二本のケヤキの合体樹ではないか? という説もあるようです。
 実際、明治18年までは「雄槻」「雌槻」(つきのき=ケヤキ)という、一対の巨樹だったようです。
 「雄槻」は枯れてしまい、現在この「雌槻」が残っている。

 ……この話、もしかしたら隣接した巨樹が合体して1本になってしまったということはないのでしょうか。 
 角度によってはそうかも……とも思う。
 明治18年は1885年、今から135年も前、どんな風景だったのでしょうね。

 しかし一方、「大六のケヤキ 」など、極太ケヤキを見て推測すると、単幹でも限界まで巨大化すれば、この姿になる可能性はありそうに思います。
 大きすぎるケヤキは凄まじい自重で裂け、やがては大倒壊する定めなのかもしれません。

 解説文。
 巨大な樹ですが、幹周の大きさではケヤキの中で日本で3位とのこと。
 しかし僅差なうえ、上位2本は傷みが激しく衰弱しているので、事実上「日本一のケヤキ」と言ってしまえます。

 小高くなっている地形通りに、かつてここは東根城だったそうで、「大ケヤキの元にお城を作った」という順序ですね。
 会津の「高瀬の大木」がまさに同じ例で、築城前から大木だったと明言されていました。

 今ここは東根小学校。
 日本一の大ケヤキの元、実に雰囲気が良く、こんな巨樹に親しみながら生活できるのは情操教育上もとても良いなあと感じます。
 児童が危険に遭いやすいこのご時世に「ゆっくりご覧ください」というこの一文からも、この場の陽の気を感じて頂けるでしょう。

 遠慮なく、ゆっくり見物させてもらいます。
 学校の階段に腰掛け、真正面に大ケヤキを見ながらおにぎりを食べました。

 さすが特天、見物のお客さんはひっきりなしにやってきますが、あくまで平和そのもの。
 屁理屈を述べる人もいなければ、変に感動して涙してる人もいず、皆、へーとかほーとか言って、穏やかに眺めています。
 こんな気兼ねなく見物できる特別天然記念物……あっていいと思います。

 この日は、日本舞踊か民謡か何か、着物のおばさまたちが集まってケヤキの前で記念撮影をされていました。
 とんでもなく巨大で貴重なケヤキが、ごく普通に存在する風景。
 皆が和やかにここを訪れ、通り過ぎて行きます。

「東根の大ケヤキ」
山形県東根市 東根小学校
推定樹齢:1500年以上
樹種:ケヤキ
樹高:28メートル
幹周:16メートル

国指定特別天然記念物
樹種(ケヤキ)幹周全国1位
グリーン山形110景
新・日本名木100選

訪問:2016.2、2019.12 他

 探訪メモ:
 向いに新しい駐車場やトイレも整備されました。
 小学校側でも快く開放してくれているので、巨樹との心地いい時間を満喫できます。

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