巨樹たち

千葉県匝瑳市「天神の森のシイ」

飯高寺裏山の躍動感あるスダジイ

 飯高寺から少し歩いた先、見ておくべきと直感が訴えるスダジイがあり、探訪しました。
 位置が分かりづらい……墓地の奥に急で長い石段があり、これがまた、巨樹があると知らなければまず遠慮したくなる薄暗い感じで。

 登り切れば「天神の森」ですが、これまた鬱蒼としている。
 どっさりとした竹林をよしずの間から覗くような感じで見ると、異様な姿のスダジイの巨樹がそびえ立っていました。

 怪しい。いや、「妖しい」の方が近いか。
 言うまでもなく、この板根
 熱帯性の植物でもないのに、一体、これほど成長するのにどんな理由があったのか……。

 「安久山の大シイ」でも板根が目についたことを思い出せば、もしかすると同じ血統かもしれない。
 板根部分は樹皮の感じも違い、滑らかに見える。ユニークです。

 環境庁のデータでは幹周5メートル強ということらしい。
 しかし、この板根の発達ぶりからしてそれで収まる? といぶかしむ大きさです。

 第一線に出てくる巨樹ではないですが、パラメータを裏切ってさらに大きいという事実は、愛好家からすればとても嬉しい。
 この時点で早くも探訪努力が報われました。

 枝ぶりもかなり妖しい。
 各々が意思を持ったかのようにうねり、スクリューのように身をねじらせて天を仰いでいます。
 成長する上で隣の枝に接近してしまい、それを察知して急激に方向転換したかのよう。
 軟体動物的な躍動感があります。

 これだけ異様なフォルムでありながら、「化け物に相対している感」や、「近づいたら喰われる的恐怖」を感じないのは意外。
 陰樹と感じるスダジイですが、この樹には力強い懸命さがあり、次第に好ましく感じてきます。

 無言のまま身体を最大限に躍動させるダンサーのよう。
 角度を変えれば変えただけ違う姿に見える。気づけば夢中で撮っている自分がいました。
 非常にエキサイティング、樹を撮っているという感じがしないのですね。
 一般の方からすればかなりやばい奴に見えるでしょうが、本当にフレーミングしがいがある。
 自分がすっかり蚊のドリンクバーと化しているのにも気づかないほどでした。
 (※同行のto-fuさんは血液型柄、僕よりおいしいらしく、アイドル並みの歓待を受けてました。蚊に。)

 前述の樹だけでも満足感ですが、ここは「森」。
 他にも大きな椎が点在しますが、特に目立つのは奥のこの樹。

 これまた妖しい形、もう、見ての通りバランスがおかしい。
 幹周囲は前のものより小さそうですが、枝の規模は大きく、つんのめるような姿勢で成長を続けています。
 どういう根の力なのか……そういえば、竹の群衆に囲まれながら平気なのも、考えてみればすごいこと。

 枝々の格好はさらに複雑怪奇です。
 幹が横ばいになっているのに、枝は皆天に向かい、それぞれが光を貪欲に求める触手となって身をひねり、這い回っている。

 主幹レベルで大きく損傷した箇所があり、大枝が代わりの幹のような役割を担ったため、こんな格好になってしまったのでしょう。
 改めてスダジイのしぶとさと柔軟さを実感させられます。

 頭上は彼らが作り上げたドームのような樹冠に覆い尽くされています。
 これがまた、とてもよくできている。
 一見、鬱蒼と見えるほど隙間がないのに、ほとんど重なり合っている枝がない。
 最大面積、最大効率、気遣いあっているようにも見えることから、「クラウン・シャイネス現象」と呼ばれています。

 この「天神の森」全体がスダジイのひとつの意思によって出来上がっている。
 あのスクリューのような枝のねじれも、明るい空を掌握するための彼らの「行動」なのですね。

 森から出て遠景を眺めると、その大きさがよくわかる。
 手前にある樹木の葉が黄緑色に見えるのに対して、どこかくすんだような緑をしているのが「天神の森」、スダジイたちの樹冠です。

 見事な支配率。竹など、顔を出す隙間はありません。
 正直、この一連の探訪は、スダジイという樹種に対する印象をかなり変えてしまいました。

 解説文。
 名ありの単独樹を見にくる感じとは違いますが、でかいヤブ蚊に刺されるのを我慢するだけの価値はある巨樹です。

 また見に来たい……そう思う心はもちろんありますが、ひょっとしたら独りで来るとコワくなるかもしれない。
 特に、あの完成度の高い樹冠の下にいると、スダジイたちの腹の中にいるのも同然なのでは? と感じてしまう。
 また誰かを誘って訪問するしかないな……と思うのでした。
 道連れ、を。

「天神の森のシイ」

 千葉県匝瑳市飯高

 推定樹齢:不明
 樹種:スダジイ
 樹高:20メートル
 幹周:5.3メートル

 訪問:2018.8

 探訪コメント:
 「飯高寺(はんこうじ)」に駐車、散策しながら歩いて行くのがおすすめ。

 駐車場で会ったおじさんいわく、この地域は植木屋が多く、中国へも輸出している。
 大きな樹が多いのはそういう理由もあるだろう……とのこと。

 「飯高檀林(いいだかだんりん)」も一見の価値ありです。
 日本最古の大学(跡)と銘打っている史跡で、山門から覗く光景からして素晴らしい。
 4、5メートルクラスの杉並木の突き当たりに写真の飯高寺本体がどーんと出てくる。これがまたすごい大きさの建物。

 寺子屋の上位版のような、高等教育機関だったらしく、後の立正大学だとか。
 この雰囲気、ほとんど無加工で時代劇映画に使えるそうで、ロケも盛んなのだと聞きました。

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