巨樹たち

北海道網走郡「双葉のミズナラ」

北の森の代表者

 阿寒から約1時間ほど北上した林業の町、津別。
 全国的にも有数のミズナラがあると知って、早朝出かけました。 
 「双葉のミズナラ」です。

 一面の落ち葉、草むら、ぬかるむ深い水たまりの林道を登り進むこと4キロ。
 地図は以下に記すとして……とりあえず行き止まりまで進んだところに標柱を見つけ、ホッとしました。

 斜面の上方ど真ん中の奥に、自然と意識が吸い寄せられます。
 これだけ距離があるのに、即座に感じ取れる。明らかに雰囲気を異とする樹がある。
 泥道運転の憔悴も忘れ、駆け寄りました。

 大きい。
 これが「双葉のミズナラ」。
 昭和61年、この道有林で偶然発見された樹なのだそうです。
 6メートルを超える幹周囲はミズナラとしては稀な大きさであり、北海道でも第3位のミズナラとのこと。

 ちなみに、資料上日本最大のミズナラは長野県「小黒川のミズナラ」。幹周約7.5メートル。
 資料を読むと、それ以下にも大きな個体が続きますが、ほとんどの樹に固有名がつけられておらず、空白になっている。
 これはミズナラ巨樹が総じて高い標高の山深い場所に存在するからだと思われます。
 数ある樹種中でも調査が進んでいない樹種のひとつでしょう。
 そこから考えても、この「双葉のミズナラ」の貴重さがよくわかるというものです。

 (ちなみに、高橋弘氏が実測した最新と言える数値では、「双葉のミズナラ」は目通り幹周6.66メートルだったそうです)

 数値が全く頭に入っていなくとも、前に立てば、この樹の素晴らしさはストレートに伝わってくるはず。
 単純に、美しい樹です。
 過酷な自然環境で気が遠くなる年月生きたせいで、折れている枝もあり、うろもある。
 しかし、それでなお立ち姿が実に凛としている。

 生の重々しさより、透明感や清らかさを先に感じました。
 周囲の木々を従える森の代表のようなこの存在感こそ、アイヌの人たちが聖なるものとして崇拝した源でしょう。

 山の黄葉さえも、この樹の合図で始まっているのではないか……。
 梢のざわめきと鳥の鳴き声しか聞こえない山中にいると、大きな意思の存在を感じずにはいられない。

 鮮やかに色づいている葉も多く、リアルタイムで生きているぞ! というその姿は頼もしい。
 恵みを授かるとともに、多くの動物たちがこの巨樹を尊敬しているのだと思えました。

 やはり、大きく腕を広げたようなこの立ち姿がとてもいい。
 ごく単純に、この極寒の山中で千年生きたことでこうなったのだという無垢さ、混じり気のなさが感じられます。
 人間の文化との交わりを持たず、現在のところ天然記念物指定もされてない。
 しかし、それら抜きでも、ただただこの樹を見て撮るのが楽しく、45分を費やしました。

 自分の住み処からものすごく遠い、この北の地。
 再訪は叶わないかもしれない……そう考えると、とても名残惜しかった。
 ありがとう、末長くお達者で。
 思い切ってそう口に出して一礼し、巨樹の元を去りました。

「双葉のミズナラ」
 北海道網走郡津別町双葉
 推定樹齢:1200年
 樹種:ミズナラ
 樹高:21メートル
 幹周:6.4メートル

 訪問:2018.10

探訪メモ:
 道は最悪ではありませんが、林道ドライブの覚悟は必要です。
 雨の日、雨上がりには結構なぬかるみが発生、ずるずる、ぬるぬるで、四輪駆動が欲しくなりますよ。
 ミズナラへの林道詳細地図は津別町のサイトにあります。
 くれぐれもお気をつけて。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA