巨樹たち

福島県小野町「諏訪神社の翁スギ媼スギ」

並び立つ国天ツインタワー

 以前訪れたものの、コンディションと機材の勝手がいまいち良くなく、記録に残せたとは言い難かった福島県小野町の巨樹を再訪問しました。
 ……このツインタワー的たたずまい。もはや何も演出する必要はありませんね。
 国指定天然記念物の巨杉(たち)、「諏訪神社の翁スギ媼スギ」です。
 積雪こそないものの、指先がかじかむ寒さで、ばらばらと雪も降り出していましたが、高感度性能に長けるフルサイズ一眼レフなら気にしなくていい(嬉しい)。

 鳥居をくぐって進んでいくと……出たな、と、巨樹好きならばニヤリとする光景。
 じっと見て……どれが手前にある杉かわからなくなる……。
 巨杉たちがその大きさを誇示するあまりの遠近感錯視エフェクトが発生しています。

 天然杉ではありえない。
 御神木として、この現在の姿のように並び立つべくして同時に植えられた杉でしょう。
 何百年前の仕事かわかりませんが、植えた人が今の姿を見たら、「思い通りになった!」と膝を打つのではないでしょうか。

 「翁」「媼」と書いて「じじ」「ばば」と読むらしい。おきな、おうな、ではちょっと品が出過ぎだと思ったのか……。

 一対の神木級の杉をジジババと呼ぶのは各地にある風習です。
 「老いている」という意味よりは、「大昔から生きていて何でも知っている」というように尊ぶ形でしょう。
 この樹も推定樹齢1200年とされていますが、巨樹の常で、そこまで年経ているようには見えません。
 500年くらいがいいところではないでしょうか(勘)。
 いや、500年でも、遡れば戦国時代ですからね。大変な「翁」「媼」に違いはありませんが……。

 寺社の巨樹を見せていただく場合、先に参拝参詣を果たすことに決めています。
 心情面でもすっきりしますし、本格的に撮る前に御神木をちらちら見ているうちに、良い段取りが思い浮かぶこともあります。

 私はどこから来た何者で、立派な御神木を見せて頂きたい。などと挨拶します。
 あと、50メートル上空から枝を落とさないでくださいね、絶対。……とも。

 実際、見上げるのが辛いくらいに背が高い。
 爺婆、男女、夫婦と対になって育っても、数百年のうちに片割れを失ってしまう悲劇に見舞われる巨樹も多い。
 (茨城県「真弓神社の爺杉」は、明治時代にパートナーを失ってしまった……)
 ツインの巨樹というカテゴリーにおいて、この二本の健勝ぶりは特筆すべきでしょう。

 どちらがどちらという、いわゆるジェンダー差?が思い浮かばないくらいよく似ている。
 お互いに邪魔をしない方向に、同じような高さから枝を伸ばしているところが、ちょっといじらしくもあります。

 幹周囲9メートル、高さ50メートル近い巨樹が2本も直立している。
 かなりの迫力ですが、いかんせん人の手を多く感じるところがあり、シンプルな印象に止まりました。
 二本の距離が近すぎて、窮屈に見えたのでしょう。

 天然の裏杉たちの野蛮さや、一部の巨杉にあるじわっと溢れ出す神々しい生命感といった、エモーショナルさをあまり感じません。
 国天という評価に関しても異論はありませんが、ただ、もっと自由なカタチに生きさせてあげるのもいいよな……と、ふと思ったのです。

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 この時、気温ちょうど零度。白い息を吐きつつ解説版を読みます。
 ここでは、「おきな」「おうな」杉と書かれていますね。
 ……なるほど、これは人の手による杉、表杉の理想形なのかもしれません。

 背景に、東北における朝廷と蝦夷の勢力争いがある。
 「反逆」とありますが、本当に反逆だったのか? 朝廷が侵略する名目ではなかったでしょうか。
 戦勝祈念に一対の杉を植えるというのは、茨城の「三浦杉」も全く同じ。
 三浦杉では大妖怪・九尾の狐を討伐するという名目でしたが、化物は比喩で、相手は蝦夷などの地方勢力だった可能性が高いのでしょう。

 「勝ち戦であった暁にはこの杉、天を衝く巨樹となれ」
 と祈念するのがまたセオリーなようで、巨樹=神通力の生ける証明とする。
 しかし、樹が枯れてしまうと、逆に神通がないことの証明になってしまうでしょうし、大きくなったのを見計って逸話を付けた可能性の方が強いかな……と見ます。
 諏訪神社は勝負事の神様でもありますしね。

 立ち去りぎわに振り向くと、他を圧倒して太く高い幹が覗いていました。

 どちらかというと建造物のような後味を残す巨樹ですが、再度見に行けて良かったと思います。
 この規模のものを放ってはおけません。
 「巨樹」というものを文字通りストレートに体現してくれる一対だと思います。

「諏訪神社の翁スギ媼スギ」
 福島県小野町夏井 諏訪神社
 推定樹齢:1200年
 樹種:スギ
 樹高:48.5/47.8メートル
 幹周:9.2/9.5メートル  
   (翁杉/媼杉)

 国指定天然記念物

 訪問:2019.12

 探訪メモ:
 前の広場に看板があり、駐車できます。
 アクセスについて、なんら苦労はありません。

 神社にはこの周辺の名所案内図もあり、神社裏から登山道?が続いているようです。
 「天の岩戸」、「かぐや姫の里(!?)」、「千本桜展望台」など見所多し。

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